テラーノベル
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メリークリスマス!!
多くの方がフィン日を供給してくださってる中、私は中日を出します。
理由は特にないです。
昼下がりの眠気漂うオフィス。
休憩がてらコーヒーを買いに行こうと立ち上がったところで、「おい」と背後から声。
見下ろす大きな影の主は、中国さんだった。
「日本。備品の買い出しに行く。着いてこい」
「……僕、ですか?」
思わず首を傾げる。あの中国さんが、僕を…?
「他にも手が空いてる人、いますよね。ほら、韓国さんとか……」
そう言って視線を向けると、スマホをいじりながら椅子にだらけている韓国と目が合った。
「あ?なに?」
「ダメだ」
その判断は考える素振りすらない。
「あいつは余計なものまで買う。必要ないモノを山ほどカゴに放り込む」
「それに、うるさい」
「はぁ!?暇じゃねえし!!うるさいのは中国の方だろ!!」
怒鳴り返す韓国さんを、中国さんは完全に無視して溜息を吐く。
「……ほら見ろ」
「説得力ありますね……」
「日本もそう思うのかよ!?」
背後で騒ぐ声を置き去りに、中国さんはもう歩き出していた。
「行くぞ。時間を無駄にするな」
「……はいはい」
韓国さんへ軽く手を振ってから、彼の後を追う。
その時、一瞬見えた無表情が、いつもと違う気がした。
会社を出た途端、北風が吹き荒れ、肌を刺す。昼だと言うのに、吐く息が白い。
暖房の効いたオフィスにずっと居たから、温度差がひどく体に堪えた。
「……寒いですね」
「冬だからな」
当然のように返し、迷いなく歩を進める。
ただ真っ直ぐ、駐車場へと向かうことなく。
「あの、いつものショッピングモールに行くんですよね?……あそこ、結構距離ありますよ?買う物も多いでしょうし」
「ああ」
「車、使わないんですか?」
「必要ない」
歩調は一定。急ぐ様子も、時間を気にする素振りもない。
「普通、こういう買い出しって、早く済ませません?」
「さっき、”時間を無駄にするな”って、あなたが言ってたのに」
少し間があって、中国さんは鼻で笑った。
「無駄じゃないと判断しているからこうして歩いている」
「…お前、職場でも家でも座ってばかりだろ」
「運動不足は体に悪い。だから歩かせてやってるだけだ」
言い切り、それ以上は何も言わない。
僕も、言葉を返さなかった。
…いや、返せなかった。
脚に疲労を感じながらも着いた目的地。
いくつもの店を回り、必要なものを買っていく。
その間に、中国さんの片腕には、いつの間にか重そうな荷物が増えていた。
それに対して、“荷物持ち”として呼ばれたはずの僕の手は、未だ空いたまま。
「あの、中国さん……荷物、持ちますよ」
「いい。お前は貧弱だし、荷物を落とすかもしれないだろ」
「この間も、重たい書類を運んで落として、ぐしゃぐしゃにしてたし」
「いい加減忘れてくださいよ。それ何年前の話ですか。僕でも忘れたのに」
記憶力がいいのか、根に持ってるのか。
時間感覚狂ってんだろと内心悪態をつきつつ、話を続ける。
「なら、なんで僕を荷物持ちに呼んだんですか」
「予備の戦力としてだ」
「それに、我は大国。小国に荷物を持たせないくらいの慈悲はある」
「……でも、それじゃ僕、仕事してないも同然ですよ」
一応勤務時間内なのに、何をしていないというのは気が引ける。
まして、”大国様の慈悲”とやらで役目を果たせていないのだ。
「…なら、我の話相手にでもなればいい」
「退屈な買い物を楽しませるくらい、お前にもできるだろ」
「それでいいなら、いいですけど……」
本当にいいのかそれで。
腑に落ちないけれど、中国さんがそう言ってるから、良しとしよう。
承諾の言葉を聞いた彼は、小さく笑い声を漏らして、楽しそうな笑みを浮かべていた。
「よし。じゃあ、何か面白い話でもしてみろ」
「は、ちょっ!?無茶振りするの、やめてください!」
「振り回してくるのは、アメリカさんだけで十分です!」
「アイツと一緒にするな。我は合理的。できないことを、最初から指示したりはしない」
拗ねたように、ぷいっとそっぽを向く彼。
…合理的、ね。
続く思考を飲み込んで、ただ笑い返した。
ようやく着いた最後の店。並んだ棚の端に、赤や金の装飾が目に入る。
僕は自然に足を止め、無意識にその一角を眺めていた。
「……そろそろ、クリスマスですね」
「ああ」
温度のない、興味なさそうな返事。
「この時期になると、どこもかしこも賑やかになりますよね。街も、店も」
「世間が浮かれてるだけだろ」
そう言いながら、中国さんは商品を手に取って裏を確認している。
「まあ、そうですけど……」
夢のない言葉だ。けど、中国さんらしい。
苦笑して、オーナメントに視線を戻す。
「でも、嫌いじゃないですよ。この雰囲気」
「……ふん」
それ以上、会話が続く気配はない。
しばらくの静寂の後、また、ぽつりと話を続けた。
「クリスマス前になると、イルミネーションとかも増えますよね」
「ああいうの、歩きながら見るのとか、結構好きなんです」
中国さんの手が、一瞬だけ止まる。
だが、すぐに何事もなかったように動き出す。
「社畜のお前にもそんな時間があったんだな」
「深夜のイルミネーションの独占は社畜の特権です」
いつかはデートとして来て見たいものですよ。
苦し紛れに笑ってみせたが、その声は思ったよりも乾ききっている。
それでも尚表情を変えずに見つめる彼の視線は、何かを図っているよう。
「…これで全部だ。行くぞ」
「あ、はい」
さっさとレジへ行こうとする中国さん。
さっきより早い足取りへ追いつくため、急いで棚から離れた。
会計を終え、店の自動ドアを抜けると、
外はすっかり陽が落ちていた。
僕らの暗い影が、アスファルトに細く伸びている。
「……もう暗いですね」
「冬は日が落ちるのが早いな」
中国さんは袋を腕に掛け直し、歩き出す。
結局手ぶらのままの僕は、軽い腕を振って、横に並んだ。
数時間前の道を反対方面から眺め、会社に戻る。
その途中の交差点。
曲がるはずが、中国さんはそのまま直進する。
「中国さん、そっちは……会社じゃないですよ?」
問いかけると、中国さんは振り返らずに一度だけ立ち止まった。
「知ってる」
「なら…」
「いいから。着いてこい」
遮るように言って、再び歩き出す。
理由を説明する気は、更々ないらしい。
歩幅は変わらず、迷いもない。
……寄り道、かな
そう思うことにして、ただ、黙って歩いた。
やがて、夜の奥に光が見え始める。
街路樹に絡むように灯る、無数の淡い光。
それは紛れもない、イルミネーションだ。
……もしかして、これを見るために……?
そこまで考えた瞬間だった。
中国さんが距離を詰める。
片腕に荷物を纏め、空いた方の手で、僕の手を取った。
「寒いから……暖を取ってるだけだ」
ツンとした物言いに反して、絡まる指は自分よりも熱い。
素直じゃないくせに、こんなにも分かりやすい。
そのことが、心を擽った。
「……そういうことにしておいてあげますよ」
イジワルで、素直じゃない言葉。
それでも拒否する理由は見つからなくて、そっと握り返す。
結局は似たもの同士。
こういうところも、お互い様だった。
イルミネーションに包まれた幻想的な並木道。
手を引かれたまま、僕は光を追って視線を動かしていた。
指先の温もりだけが、やけに近い。
中国さんは一歩だけ距離を置き、上から静かに僕を見ている。
その一歩が、ゆっくり口を開く間で埋まった。
「……我心里只有你」
それはあまりに突然で、音だけが心を揺らす。
「……何か言いました?」
「ただの独り言だ」
続きはない。
あるのは、いつもより濃い気がする彼の赤色の頬だけ。
でも……それだけでいい。
言葉の意味は分からなくても、その声色が、ひどく穏やかだったから。
通りを抜け、光が途切れる。
僅かな街灯だけが照らす薄暗い道。
それでも、僕らの手が離れることはなかった。
コメント
6件
大国の余裕と、それでも日本の前ではぶきっちょになっちゃうとこの両方がほんっとに中国さんらしくて……✨
今回も美味しい小説をありがとうございました!!!!! ツンツンしてる中国さん、いいですねぇ…ツンデレは世界を救う((( イルミネーションが見たいと言った日本さんに不器用ながらも見せてあげて手を繋いでるのがとても良すぎました…_:(´ཀ`」 ∠): そして中国さん…最後、デレましたよね?最後しれっと母国語でデレてますよね? …是非とも次は日本語でデレて下さい。そして他の方々に見せつけて下さい(願望)