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シャインに連れられてレイニルはサンディ国の城へと戻った。
だが、レイニルは馬車の中でもずっと俯いて黙っていた。レイニルの心を察したシャインは城に帰るまでは話しかけずにいた。
……そして、シャインの自室に入るなり、レイニルは突然泣き出したのだ。
「おっ……? どうした、レイニル」
珍しくシャインは慌てて、急いでレイニルをソファに座らせる。自身も隣に座ると、震えるレイニルの肩を片腕で抱き寄せた。
「すまない。そんなにオレが嫌だったのか」
「……ちがう! 違いますっ……」
レイニルは赤く腫れた目でシャインを見上げて力強く訴えた。レイニルは自分の意思でアメリア国に行った訳ではない。
だが母国やヴェルク、そして実家に迷惑はかけられない。だからこそレイニルは黙って泣くしかなかった。
シャインは話を聞かなくても、そんなレイニルの心は全てお見通しだった。レイニルは素直で分かりやすい。
「レイニルは本当に優しいな。心配いらない、全てを話せ」
「でも……」
「オレを信じろ」
シャインのその言葉だけで、レイニルの不安に満ちた心は安心感と温もりに包まれる。
真実を話しても、シャインはレイニルもアメリア国も責める気はないと信じられる。
「私は売られたのです。今はアメリア国の所有物で……もう家も家族も……ないのです」
レイニルが涙をこぼしながら伝えた真実は確かに過酷な内容だった。しかしシャインにとっては『深刻』ではなかった。
シャインは優しくレイニルの背中に片手を添えて耳元で語りかける。
「なるほど。だが、それは隣国の話。この国では何の効力も持たない」
「え……?」
「ここはサンディ国だ。そしてレイニルは国王であるオレの妃だ。お前の家はここで、家族はここにいる」
シャインは太陽のように明るい笑顔で自分の事を親指で差した。
今、一番ほしい言葉と温もりを心に与えてくれる存在が側にいるのに……レイニルは、今の自分が泣き顔でいる事すら申し訳なくなる。
「シャイン……ありがとう……」
シャインの優しさが余計にレイニルの涙を誘う。それでも精一杯の感謝を返そうとして作った笑顔はシャインの心も柔らかく刺激する。
ただでさえクラウディ家の女性は魔性とも言える美貌の引力がある。そこにレイニルの澄んだ心が加われば、シャインの太陽の心さえも取り込んでしまう。
そんなレイニルに見とれながらも、さすがのシャインも困った顔をしている。これでは、まるで自分が泣かせたような気にもなる。
「それならレイニルには勝負に勝ってもらわないとな……うーむ、どうするか」
あくまで契約結婚の勝負にこだわるシャインは、なぜかレイニルが勝つ方法を真剣に考えだした。
レイニルが確実に勝つ方法。雨が降るかどうかなんて運次第。するとレイニルが言いにくそうに以前から思っていた意見を伝える。
「あの……前々から思っていたのですが、シャインは晴れ男ですよね」
「ん? あ? そうなのか?」
この反応だと自覚もないし、今まで誰もそういう指摘はしなかったのだろう。
シャインが晴れ男だとしたら、その力はレイニルの雨女の能力よりも遥かに強い。今もこうして雨女と一緒にいても雨が降らないのだから。
言われて納得したのか、晴れ男の自覚を持ったシャインはさらに解決案を捻り出そうと考える。
「オレの力が強すぎるから雨が降らない。そう言いたい訳だな」
「はい……申し訳ないですが」
「ふむ。ならば足して混ぜて緩和させれば良い感じになるか」
何の計算式だろうか。シャインがぶつぶつと何かを言っているが、レイニルには全く意味が分からない。
その意味を問いかける前に、シャインの逞しい両腕に肩を掴まれて長いソファに仰向けに倒されてしまった。
「え……?」
なぜ、この状況で押し倒されるのだろうか。驚きすぎて涙も止まってしまった。
シャインは黒のベストを脱いで乱暴に放り投げると、白いシャツの前ボタンを外し始める。そして掻きむしるように乱暴に胸元の肌を出した。
(あ、あ……シャイン、そんな、まさか……)
男性の肌など見た事も触れた事もないレイニルは、顔を真っ赤にして逃れようとする。だが上から被さる形で両腕を掴まれて完全に拘束された。
「レイニル。交わるぞ」
シャインが何を言っているのか分からない。ただ理解できるのは、どうやら初夜を迎えてしまいそうだという事だけ。
すでに夫婦なのだから、それ自体は問題ない。だが今はまだ勝負の期間内だし、このタイミングでいきなり言われても心も体も準備ができていない。
肯定も否定もできずにレイニルが口だけをパクパクさせていると、面白いと感じたのかシャインの笑顔の光度が増していく。シャインという名だけにSなのか。
「雨女と晴れ男が交われば、ちょうど良い感じになるだろう」
その理屈は意味不明だが、つまりシャインはレイニルを抱きたい。あわよくば、それで晴れ男の能力が中和されて雨が降ればいい。もはや雨はオマケだ。
雨が降らなくても、レイニルがシャインに惚れてしまえばシャインの勝利。どう転んでもシャインが得をする、上手く仕組まれたサクセスストーリーである。
「あ、あの、ですが……まだ夕飯前ですし……」
唇が触れそうなほどに迫ってくるシャインに、どうしたらいいのか分からずにレイニルは混乱している。
シャインとのキスは初めてではないが、その先は未知。光り輝くシャインの金色の瞳は、雨色のレイニルの瞳を呑み込む勢いで迫り来る。
「……嫌か?」
急に真面目な顔をして疑問形で問いかけるシャインだが、その質問はずるい。確実に否定の言葉しか出させない誘導である。
「……嫌では……ないです」
紛れもなく、その否定はレイニルの本心だった。その言葉を引き出してしまえば進むのは簡単。
最終的には『愛してる』と言わせるのが目標だが、これだけでも全身をゾクゾクと震わせるほどにシャインの支配欲を満たしていく。
「ふっ、可愛いな」
ようやく二人の唇が重なろうとした瞬間、部屋にノックの音が響いて中断されてしまった。
メイドが二人分の夕飯を乗せたワゴンを引いてドアの外で待っている。
シャインは起き上がると盛大にため息をついてオレンジ色の髪をかきあげた。そしてシャツの前ボタンを留めて服を整える。
「しまった……夕飯をここに運ぶように言ってしまった……」
レイニルも体を起こしてソファに座るとクスクスと笑う。勝負も恋も、まだ『おあずけ』のようだ。
今日、レイニルがアメリア国に行っている間にサンディ国に雨が降ったが、シャインはそれをレイニルには教えない事にした。
あれはレイニルの能力による雨ではないのだからノーカウント。勝負のルールを決めるのは結局はシャインであった。
こんなに早く決着がついても面白くない。シャインは勝負の30日間を楽しむと共に、レイニルが離れられなくなるほどに愛を注いで完璧に自分に溺れさせたい。