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「それでは、残りの時間は松田美緒さんの弁論練習にします。みなさん、教科書、ノート、筆箱をしまって下さい」

片付けの音が響く中、山田先生は続けた。

「言い遅れましたが、このたび、松田さんは江東区の区長選に立候補することになりました」

教室から、えっ、という声がした。でもたぶん、みんなあまり意味は分かってないと思う。

「小学生が区長選に出馬するのは、全国の自治体でも初めてです」

こうして本当に発表されると、健太は背中の辺りが縦に伸びる感じがした。

教室の後ろのドアから、校長先生、副校長、頭の禿げた老人、眉毛の濃い中年がぞろぞろ入ってくる。拍手、と山田先生。生徒は、よく事情を飲み込めない顔でパチパチ。

美緒が原稿を片手に立ち上がった。彼女は不安そうな顔で健太の顔を見てくる。彼が小さく頷くと、彼女の口元が、小さくだが緩んだ。美緒の小さな背中が教壇に向かう。

「いいですか、今は変化の時代です。古い時代の殻を破って新しい時代に移行しようとしています。こういう時代を、カ・ト・キ、と言います。この言葉、覚えておいてくださいね」と山田先生は言うと 


過 渡 期 


とホワイトボードに大きく書き、脇へ退いた。

「カ・ト・キ」

健太は小さく声に出してみた。

毎日は少しずつ違っていて、社会は新しい何か、正しい何かを求めて彷徨い渡り歩いて見える。何もかもが混在していて、どれが正しくて間違っているのかさえ、本当のところ誰も分かっていない。それでも、そのときどきの多数派が「正しさ」を主張していく。

美緒は教壇の中央に立ち、用意してきた原稿を前に置いてお辞儀をした。

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