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「四十五度の正しい角度、できてるわ。よく練習してきたわね。背中も猫背にならずに、正しく伸びてた。でも、もう少し溜めたほうがいいわね。もう一度」
「はい」
先生は頭が下がったところで、美緒のあごと頭に手を添えた。
「頭ここで溜める。しっかりあご引く。ゆっくりイチ、ニッ、サン。はい起き上がる。さあもう一度」
「はい」
美緒は「正しいお辞儀」を何度か繰り返したあと、原稿を読み始めた。
「過渡期の時代を生きるワタクシ達子供は、大人達による巧みな支配機構、癒着、ばら撒き政治に対抗し、新しい時代に生きる江東区を形作ることにしました」
山田先生が止めた。
「そこ。『ワタクシ達』というところを、『俺達』にしてごらんなさい」
「あ、異議あり」
教室後ろから、老紳士が手を上げた「有権者の中には多くのお年寄りがいます。『俺達』では、ちょっと理解が得られないのではないでしょうか」
「でも、新しい時代をェッピーァするにはその方がいいのではないでしょうか」山田先生は英語の発音が意味もなく上手だ。普通に、アピールと言えばいいのに。
老人のとなりにいる背の高い中年が手を上げた。
「それは、どこの層を取り込むかによりますね。若年層を取るなら『俺達』で、中高年なら『ワタクシ達』。党本部とも話し合ってみます。とりあえず、今回は真ん中を取って『アタシ』で進めてみてください」
健太が山田先生を見ていると、先生はめずらしく気づいたようだった。思わず聞きのがしてしまうところだが、彼ら大人達は今禁止したばかりの敬語をお互いに使っている。
しかし、きっと問題ない。彼らのことだ、「例外」を作ればそれで済む。健太は手を上げるのをやめた。