「あらすじ」の部分をキャプションとして使用しております。
詳細はそちらに明記しておりますので、どうぞ一読のほうをお願いいたします。
※加筆修正いたしました。
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「マジ!?告られんじゃねぇか俺!?」
次の日、朝っぱらからサノスは大声で言い放った。
早速ナムギュはサノスを呼び出したのだ。
朝早く登校し、ロッカーの中に手紙を入れる形で。
放課後、校舎裏の作業道具倉庫前に来てくれと。
だがサノス側からしてみれば、知らない人間からの突然の呼び出しである。
手紙には1人で行くと書いていたが、複数人で待ち構えている可能性も捨て切れない。
サノスは元々フィジカル面全てに於いて非常に優秀で、運動神経は抜群。
また体格もガッシリと丈夫な、骨太で筋肉質の長身。
当然ながら喧嘩も強い。
とは言え複数人を蹴散らすのは現実的ではない。
それに、人数も分からない。
手紙の字は美しく丁寧で、並ぶ言葉も教養の高さを感じられるものだった。
シンプルな封筒に入っているそれは綺麗な三つ折りで皺1つ無い。
裏に貼ってある赤いハート形のシールは、表面がぷくりとした厚みのあるタイプでとても愛らしい。
わざわざレターセットを使っているその手紙からは、書いた人間の真心と誠意が伝わってきた。
だが、肝心の名前が書いていない。
そうなると、どうしても悪い想像ばかりが膨らんでいく。
色々と心配になったサノスの仲間達は着いて行くと言い出した。
サノス自身は必要無いと何度も言ったのだが、仲間達は頑として譲らなかった。
妥協したサノスは、せめて陰から見守っていてくれと頼んだ。
もし本当に相手が1人だった場合、あまりにも恥ずかしいからと。
そんな中、ナムギュは直前でビビッてしまっていた。
呼び出した場所に立っているサノスを見た途端、ビビッてしまった。
怖いからではない。
想像の遥か上を行く男前な立ち姿にド緊張してしまったのだ。
(え、待ってヤバい、超かっこいい…)
ナムギュは焦りながら手鏡を取り出して、自分の顔を確認した。
そして後悔した。
ヘアアイロンを使って髪型は女性的にしてきたし、髪自体も質が良く艶がある。
清潔感も問題無い。
しかしナムギュは、顔に問題を感じた。
(メンズメイクとか…すれば良かった…)
何だか不細工に見えてしまったのだ。
当然ながら、そんな事実は無い。
普段ナムギュは周囲から綺麗だと褒められている。
そもそもからしてグループに目をつけられた原因も、見た目が際立って美しいからである。
どこか女性的な妖艶さも持ち合わせており、性別や年齢と解離した独特の雰囲気を纏っている。
例えるなら、熱さで濡れた妙齢の美女。
多少の差はあれど、ナムギュの外見に対する周囲の評価は高いのが現実。
だが今のナムギュは、自分を美しいと思う事が出来なかった。
そこでつい、1錠食った。
殆ど反射で食ってしまった。
しかし、ただでさえもキマっているところに追加したそれは余計な1錠でしかなく。
ナムギュは完全なトランス状態でサノスと会う羽目になってしまった。
だがそれでも恥ずかしく、ナムギュは下を向きながらしか話せなかった。
照れのあまり、やたらと髪を触ってしまう。
札束入りの封筒を手にヘラヘラと笑いながら要求を口にしたナムギュに対して、サノスは困惑するより他に無かった。
要求の内容にではない。
それ以前の問題である。
そもそも何を言っているのかが、さっぱり理解できなかったのだ。
トランス状態のナムギュは、まともに話すことすらできなかった。
相手に伝わるように話すことができなくなってしまっていたのだ。
「お前、さっきから何が言いてぇんだよ?」
腕を組んだ困り顔のサノスに対し、ナムギュはただ下を向いたまま笑った。
「確かぁ、サノスさんってクスリやってるんですよねぇ?」
「あ?脅しか?それが目的か?残念だけど通用しねぇんだわ、ソレ」
「いえ?一応確認しただけですけどぉ?」
「は?確認?何の確認だよ?クスリか?」
「やってない人に無理強いはダメだよなぁーって事くらいは俺も分かってるんでぇ、だから確認しただけですぅ」
「どういう意味だ?クスリの話か?それを確認して…で?結局何がしたいんだ?」
「えーっとねぇ、これ使ったら俺相手でもヤれると思いますよぉ」
恐ろしく会話が噛み合わない。
だがラムネ菓子の入れ物を手渡しながら引き付けを起こしたように笑うナムギュの様子に明らかな異常を感じたサノスは、
(コイツ…何かヤベェ事情があるな)
そう思い、じっくりと話を聞くことに決めた。
サノスは仲間に向かってアイコンタクトをとり、いつも集まっている場所にナムギュを連れて行くことにした。
クスリの効果もあり、ナムギュは恥ずかしげも無く全てを話した。
相変わらず下を向いて、髪を触りながら。
自分がゲイだということ。
クラスメイトに騙されたこと。
クスリを盛られて複数人にレイプされたこと。
脅されたので自殺すると決めていること。
死ぬ前にサノスとヤりたかったこと。
「今まで見た中で一番の男前だから」
サノスを選んだ理由は単純にそれだけ。
性格はドクズだろうと考えていたから期待していない。
クラスメイトからの伝聞で、ドクズだと決めつけていた。
だが大金積んで頼み込めばOKしてくれるのではないかと思って、行動に出た。
「それを思い出しながらだったら、幸せな気分で死ねると思うんですよねぇー」
ナムギュは笑いながら言った。
「まさか話を聞いてくれる人だなんて思いませんでしたけどぉー」
しかしだからこそ余計に惹きつけられてしまい、完全に恋愛対象として好きになってしまっているのが現状。
(…で、合ってんのか?いや分かんねぇ、自信ねーわ。全体的にとっ散らかってんだよなコイツ…)
要領の得なさ過ぎるナムギュの話。
サノスは頭を抱えた。
「てか、ぶっちゃけ今も心臓爆発しそうなんですよぉ、まだキマってるんですけどねぇー」
「だから下向いてんのか?」
「そうですぅ。恥ずくて目も合わせられないんすよぉー」
「あのなぁ…キマっててソレとか難易度クソ高ェわ。まともにヤれねぇっつーか、セックスとして成り立たねぇだろ」
「いやそのへんはぁ、まあー、なんかぁ、頑張るんでぇー」
「何をだよ?つーかまず俺の外見に慣れろよお前は。顔上げろ。目ェ見て話せ。髪ばっか触ってんじゃねぇ」
「まともにヤろうと思ってくれてるんすねー」
「あ、いや、えーっと」
「ふふっ、嬉しいですー」
「違ェ!まだヤるかは決めてねーわ!」
「あー…まだ、お金とか受け取ってくれてないですよねぇー…」
「それも違ェんだよ!大前提を変えろマジで!」
「俺ぇ、背中は完全に女ですよー?めっちゃ綺麗だしー?動画とか見ますぅ?」
「いらねぇ!ざけんな!」
「えー…」
「えー、じゃねぇ!まずコトのヤバさを自覚しろテメェは!何だ自殺って!?バカか!?」
「バカ…は否定しないですけどぉ…でも解決する方法が無いんだからぁ…仕方ないっすねぇー…」
「仕方なくねーよ!対処法なんか死ぬほどあるわ!」
「無いですぅー…あったらやってますぅー…」
「テメェが気付いてねぇんだよ!ある、っつってんだろ!」
「無い…ですって…」
「あるわ!何回も言わせんな!」
「あー…ヤバい…抜けてきたかも…」
言いながらナムギュは受け取ってもらえなかったラムネ菓子の入れ物に手を伸ばしたが、サノスに手首を掴まれて阻止されてしまった。
ナムギュはビックリし、テンパりながら抵抗した。
「やだ!触らないで下さいよぉ!マジで心臓爆発しちゃいますってぇー!」
「お前がキマっちまってるせいで会話が成り立ってねーんだよ!頭痛くなるわ!俺に会話させろ!」
「会話も何も、お金受け取って俺にバックから一発ブチ込めば済む話じゃないですかぁー!」
「あーもう、マジで頭痛ぇ!」
「頭痛いなら会話しないで下さいってぇー!クスリ飲みたいですぅー!離してぇー!恥ずかしいからぁー!」
「うるせぇ!暴れんな!」
サノスはナムギュを取り押さえて、顔を見た。
泣いていた。
大きな猫目から、大粒の涙が、まろい頬を伝っていく。
それはナムギュの意思とは関係無く、つらつらと勝手に流れてしまう。
ナムギュがクスリに手を伸ばした理由はそこにある。
クスリが抜けかけると同時に、突然涙が溢れ出てきたのだ。
突然、笑えなくなったのだ。
突然、胸が苦しくなったのだ。
ナムギュは幸せなまま笑っていたかった。
これ以上の苦しみなど味わいたくない。
だからクスリが欲しかった。
笑うために必要だから。
「やだ…」
見られたナムギュは、即座に顔を背けた。
「クスリ…のみたい…」
「抜けたか…?」
「やだぁ…離してぇ…死んじゃう…」
「抜け切ってはねーな…でも会話はできるみてぇだし、まあいいか」
溜め息を吐きながらサノスはナムギュを床に寝転がせ、羽織っているジャケットをかけてやった。
拘束着として。
(こうすりゃ動かなくなるだろ。ここまでド緊張するくれぇに惚れてるヤツの私物を雑に扱える性格じゃなさそうだしな)
その予測は当たったようで、ナムギュは身じろぎもせずに黙った。
サノスは寝転んでいるナムギュの前に胡座をかいて座り、疲れと呆れの混じった溜め息を吐いた。
一仕事終えたというべきか、癇癪でギャーギャー騒ぎながら暴れ回るメス猫を何とか大人しくさせた気分だった。
(…って、え?メス?いや何でナチュラルにメス認定したんだよ俺は…?オスだろコイツ…)
「いや、まあ、別にいいか…」
「ん…?」
「気にすんな、つかクスリ無しで話せ。マジで何言ってんのか分かんねーんだよ」
「無理…恥ずかしい…」
「しゃーねーな。じゃあ俺が質問してくから答えろ、いいな?」
「はい…」
「で、名前は…ナムス?だったか?」
「ナムギュ…です…」
「あー、悪ィ。俺のと混ざった」
「…え?」
「まあ、フツーに考えたらナムスなわけねぇわな。個性的どころの話じゃねぇ」
「俺と…混ざった…」
「おい待て!アレな方向にイチイチ繋げんな!こっちが真面目に質問すんだからテメェも真面目に答えろ!」
「あ…はい…」
サノスは事情を理解するためなら幾らでも質問を重ねるつもりだったが、10すら行かずに全てを理解した。
はらわたが煮え繰り返る思いだった。
怒髪天を突くとはこの事だろうか。
サノスの身体は怒りで震えた。
「アイツら…さすがにコレはねぇだろ…しゃーねぇ、ぶっ潰すか。面倒くせぇ事になったな」
コメント
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