「あらすじ」の部分をキャプションとして使用しております。
詳細はそちらに明記しておりますので、どうぞ一読のほうをお願いいたします。
※加筆修正いたしました。
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クスリが抜けた先にある現実は、ナムギュにとって地獄以上の苦痛であった。
ナムギュはまだうら若く、これまで穢れを知らずに生きてきた。
そこで唐突に降りかかってきたドス黒い恐怖と強大な悪意。
たったの2週間足らずで受け止めきれるような逞しさなど持ち合わせていなかった。
誤魔化していた苦痛を真正面から受け止めなければならないのは、苦しいに決まっている。
逃げたいと思うのは自然な話である。
ナムギュは幸せになれるからクスリを使っていたのではない。
引き裂かれるような苦痛を誤魔化すために使っていたのだ。
ナムギュはそれに、薄々気付いていた。
目を逸らしていただけで。
嫌がらせ目的でクラスメイトを誘惑した時も、そうだった。
貞操観念は完全に抜け落ちていたが、だからといって何も感じないわけではなかった。
恐怖は感じていた。
震えそうになるほどの恐怖を。
自分を酷いやり方でレイプしてきた相手が目の前にいる。
それが如何に恐ろしいことか。
あの時、ナムギュは腰が抜けんばかりの恐怖心を必死に押し殺していたのである。
「怖いっすね、ホントは」
隠せなかった涙声で、ナムギュは心の内を素直に吐露した。
死ぬのだって怖い。
全部怖い。
耐えられない。
だから死にたい。
でも怖い。
「なんかもう、クスリ無いとキツいんです。弱いんですよ俺」
自分を指して弱いと断言するナムギュの手は爪が食い込むほど握りしめられ、震えていた。
自分は弱い。
そう言い切るのがどれほど悔しく情け無いことか。
サノスはナムギュの手をそっと触り、指を解いてやった。
「俺も弱ぇよ」
呟くように言いながら。
「嘘吐かないでください」
「いや?マジで弱ぇよ俺は。テメェと同じような時期あったしな」
「嘘吐きっすね、そんなわけない」
「嘘じゃねぇ。酒だのクスリだのがねぇと生きてすらいけねーな、って時期あったぜ。首括っちまえば楽になれるだろうなとか、生まれてきたことが間違いだったなとか、あん時は本気で考えてたわ。つーか嘘吐く意味ねぇだろ」
己の過去を語るサノスの目つきは、口調は、どこか懐かしげだった。
「過ぎちまえば、ああスゲェバカだったなーで終わる話だ。細けぇことで大袈裟に騒いでたなー、ってよ」
「俺…逃げ場が無いんです。もう、どこにも」
「人生って思ったより長ぇんだわ。たった今ヤベェ状況だとしても、そんなもん秒で風化すんだよ」
「でも、」
「あとな。エロ動画だの画像だのをばら撒かれる心配はすんな。こっちで何とかすっから」
「テキトーなこと言うんすね、出来ないのに」
「出来るんだなぁーコレが」
「そう、っすか…」
とは言え信じ切れないのだろう、涙が止まる様子は無かった。
しかしながら。
何故だろうか。
その悲痛な様子に、サノスは異様なまでの劣情を覚えた。
コイツに過剰なまでの性的快楽を与えてやりたいと。
ブッ壊れるまで抱き潰してしまいたいと。
(…いや、え?俺は何を考えてんだ?ヤバくねぇかコレ?どういう状態だよ?ヤベェだろコレは。ダメだろ。え?は?どうしちまったんだ俺?)
今までに感じたためしの無いベクトルの劣情を覚えた事に対し、サノスは自分の頭が心配になった。
「ちょっと待ってろ、すぐ戻るから」
サノスはナムギュに優しく言うと、邪魔しないよう離れた場所で見守っていた仲間達に事情を説明し、また自分がナムギュに対して覚えてしまった劣情に関しても正直に吐露した。
「ヤらねぇのが正しいって、分かっちゃいるんだけどよ…」
バツが悪そうに話すサノスに対し、しかし仲間達は問題無いと言った。
むしろ抱いたほうが良いと。
サノスは当然、理由を聞いた。
すると仲間曰く、
「ナムギュは初体験が輪姦という悲惨なものであり、惚れている人間との健全な性行為という概念を知らない。性行為に関してであれば、今のナムギュはあり得ないほどのマイナス地点に立っている。ならば丁寧に抱いてやれば容易くトぶ。そうすればサノス自身も簡単に満足できる」
とのこと。
また、
「あのバカ共に鉄槌を下すための正当な理由としてもナムギュは使える。アイツらを潰せばナムギュも正気を取り戻し、目が覚める。賢い子だから自殺も取り止めにするだろうし健全な性行為が何かという概念も理解できる。自分達の利益だけじゃない、抱いてあげたほうがナムギュのためにもなる。それに、」
サノスが妙な方向性の劣情に走る気持ちは痛いほど分かる。
ナムギュには男を狂わせる何かがある。
オスを滾らせてしまう何かが。
輪姦した連中もソレにあてられて狂ってしまったのだろう。
だからサノスに一切の非はない。
非があるとすれば、ナムギュのほう。
もはや最後の辺りは責任転嫁になってしまっているが…とは言え仲間達からの言葉に背中を押されたサノスは、
「じゃあ、このままホテルに連れ込んでくるわ」
どこか安心した様子で答えた。