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とーとさん、第11話読ませていただきました…! 御幸と光示先生が海のことを語り合う場面、すごく胸に迫るものがありましたね。「先生は海のことを何も知らない」って思ってた御幸が、実は先生もちゃんと海の弱さを知っていたって気づくところ。あの銀色の指輪が太陽の光を跳ね返す描写が、すごく美しくて切なかったです。 最後の「せんせ」と呼ぶ海の声が、現在と過去をまたいで響いてくるような構成が素敵でした。大好きだけど伝えられなかった想い、届かなかった約束。とーとさんの言葉の一つひとつが、心に染みました。
「せんせ」
「先生っ!おはよーございます」
「うん。おはよう」
「明日先生おやすみなんですね」
「そうだよ。大切な用事なんだ」
「へぇー。あっ。先生。今日の放課後――せん?」
「ははっ。懐かしいな。よしっやるか」
「やった。せんせありがと」
御幸とリリーは海の見える道を沈黙のなかあるいた。
向かうは海の通っていた高校。
あの学校に行けば流星と海の中学校がわかるかもしれない。
なんだかんだ石を蹴って波の音を聞いて、空をみて。
たまには鼻唄を歌ったりして歩いた。
会話はほとんどなかった。
でもお互いに隣に誰かがいることに安心感を覚えているようだった。
「着いた――」
田舎の学校であるため校舎はちいさい。
でも周りが広々としているからか窮屈さは感じない。
校門の前のピンポンを御幸は動悸のおさまらない胸に手を当てて押した。
「すみません。ここの卒業生の御幸と申します。
先生。――光示先生はいらっしゃいますか」
『御幸?どうしたんだ?』
ピンポンの音の後に聞こえたのは懐かしい光示先生の
声だった。
「少しお話があって」
『――わかった。そこで少しまっててくれ。』
しばらく時がたった。
御幸は少し緊張している。
それが移ったのかリリーも少し緊張している。
「ごめん。待ったか」
「――いえ。」
「そうか。そこの女の子は」
「リリー。」
「そうかそうか。友達か。」
変わらない。光示先生はあの頃からなにもかわらなかった。
それが少し御幸には海の死を軽いものとしているようで少し。いやかなり胸がいたくなった。
いまの光示先生をもし海がみていたら変わっていなくてよかったと笑っていただろう。
私は笑えない。
「先生にお話があって」
「あぁ。そうだった。で?なんだ」
「――覚えてますか。海のこと」
光示先生の目が少し細くなって。愛おしい記憶の本をめくるように。でもどこか痛そうで。
「あぁ。もちろん。――少しさんぽでもするかい」
学校から離れた海の見える道をあるく。
「海はいいこだったよ。」
光示先生は口を開いた。
「いつでもかっこよくて頼りになった。」
御幸は心の中で答えた。
「海はかわいらしい」
それは間違いない。先生のために努力していたよ。
「海はいつでも笑顔だったよ。」
先生が笑顔が好きだって言ったから。
海は無理やり笑っていたよ。
「努力家で」
海は嫌われたくなかったんだ。
怠け者だと先生に言われないように。
「心が強くて」
違う。ぼろぼろに碎ける度にテープで無理やりくっつけていただけ。
「泣かずに耐えて」
涙の数だけ強くなれるなら海は唇を噛み締めて強くなった。
やっぱりこの先生は海のことをなにも知らない。
「――でも弱かった」
「――え?」
「少し手を離すと壊れてしまいそうだった。
人を頼れない弱さだって知ってた。
怖いこと、痛いこと大っ嫌いだって」
「なのに僕は彼女を殺してしまった。」
光示先生の左手薬指の銀色の指輪が太陽の光を跳ね返していた。
「あの日。僕が学校にいれば。代わりにでも死ねたのに。海に生きていてくれたのに」
光示先生の瞳は幼い子のように歪んだ。
人間は結局は子供だ。
弱くて脆い。
暖かくて冷たい。
転んで立って。死んで生きて。
先生の胸の傷が治ることはないだろう。
でも必死に絆創膏を貼ってつないで、こころが壊れないようにしている。
あぁ。この人は大丈夫だ。
御幸は暖かな水滴が頬を伝ったことにしばらく気が付かなかった。
「――先生。本題に入るんですが。」
「――あぁ。なんだい」
「海が通っていた中学校。知りませんか」
「あぁ。その事ね。確か『海里中学校』だったかな」
「――ほとんど同じですね」
「あぁ。高校も海里高校だったからね。」
「せんせ――ありがとうございました。」
「あぁ。――御幸もリリーちゃんも」
「はいっ」
御幸が最後に見せた表情は光示先生にしかわからない。でも御幸の顔をみた光示先生が言ったのだ。
「ははっ。あの頃のまんまだ。」
光示先生の顔は涙をはらみ、笑った。あの頃の。海の好きだった先生のままだった。
まだ明るい朝の教室明るい声が響いた。
「ねぇ。せんせ。今日の放課後。鬼ごっこせん?」
「ははっ。懐かしいな。よしっやるか」
「やった。せんせ。ありがと」
あの日の笑った海の顔が光示先生の目蓋裏によみがえった。
「せんせ」
と呼ぶあの子の笑顔が、あたたかな心が大好きだった。
「大好き」
恋愛の好きだとわかっていた。
でも答えられなかった。
「ばいばい」
どこか寂しそうなあの子の顔が胸を締め付けた。
「せんせ。またね」
その言葉の約束が果たされることはなかった。
あの日。
最後に鬼ごっこをした。
柄にもなく本気で。
他にも生徒を誘って。
先生も誘って。
結局校長先生も教頭先生も誘って。
ケイドロなのかドロケイなのかつまらない喧嘩をした。
もっと本気で話したらよかった。
海には僕以上に好きな人がいるだろうから。
会話の途中でふと海が呟く台詞はいつも
「元気にしとるかな」だった。
つまらない意地を張った高校生どうしの恋愛は
可愛らしくてほほえましかった。
あぁ。あの日。次の日も。ずっと昔も。
ずっとずっと。もっと追いかけていればよかった。
もう追い付けない。
「せんせ」と呼ぶあの子の肩に。
昼下がりの廊下。ふと笑い声が聞こえて。
後ろみると嬉しそうなあの子を。
もう追い付けない。
「ばいばい」
と寂しげに言うあの子に「またな」と言うことも。
「またね」
自分に言い聞かせるように言ったあの子に
また出会うことも。
もう。出来ない。
「なぁ。あいたいよ。いつか会いに来てくれよ?」
「せんせ。」
静かに学校の木が揺れた。
それは確かに海風で。
微かに潮の匂いがした。