「聖奈。何か見えるか?」
昨日新たな目標は出来たが、今は別大陸を目指すことに集中しようとみんなで約束をした。
そして、今日からは何が起きてもおかしくは無いため、聖奈とミランが船の前方で見張りをしているのだ。
もう別大陸の行動範囲に入っているだろうからな。
漁業目的の船なら良いけど、海軍なんかがいて、先に俺達が見つかっては困るからな。
「ううん。まだ何も。ルナ様は一人で平気かな?」
「船は揺れてないし、慣れた頃だろうから平気だろ。それにあまり気を使うと却って遠慮させることになるぞ」
「そうだね…でも、私達の大恩ある神様だから…どうしても、ね?」
ほっといてやれよ……
ぼっちが長いと、いくら寂しくても時々一人になりたいもんなんだよ。
リア充にはわかるまいがなっ!!
新たな発見は、昼食後すぐに訪れることになった。
「島だよ!ここより少し南に、島が見えるよっ!!」
「遂にかっ!」「やりましたねっ!」
前方を見張っていた聖奈が島を見つけたようだ。
俺は逸る気持ちを抑え、エンジンを止めてから魔導具の動力を入れた。
音で誰かに見つかるのを恐れたからだ。
「よし!行くぞ!」
「はいっ!」「うんっ!」
燃費は悪いが、かなり速い。
俺たちはあっという間に島の近くまで辿り着いた。
「登れそう?」
聖奈が聞いてくるが、島は波で削られたのか断崖絶壁ばかりで、さらには岩礁が至る所に見えるため、迂闊には近寄ることも出来ないでいた。
「本気を出せば飛び移れるが、難しいな。やっぱり転移魔法で移動するしかなさそうだ」
やってやれないことはないが、本気で踏み込むと船の甲板が壊れるしな。
「何があるかわかんないけど、それで行くしかなさそうだね」
「誰が行きますか?」
「何があるかわからんが、俺達は三人で冒険に出たんだ。三人で一緒に行こう」
ルナ様はそもそも人じゃないし、恐らくこの島に興味もないだろうから、断りを入れて船を見ておいてもらおう。
「わかったよ!楽しみだね!」「ワクワクします!」
「とりあえずルナ様に伝えてくるから、二人は探索出来るように準備をしておいてくれ」
二人の返事を聞いて、俺は船内へと向かった。
「森だね」
ゲームに夢中なルナ様は、案の定船にいると言ってきた。
島の見える所へと転移した俺達は辺りを注視する。
特にこれといって脅威は見当たらないことを確認すると、聖奈が感想を漏らした。
「だな。とりあえず高いところから全体を見たいな」
「でしたらあの山に登りましょうか」
「りょーかいっ!」ビシッ
新天地にテンションが上がった聖奈は、ミランの提案に敬礼で応える。
三人でこうして冒険をしていると、何だか懐かしく感じるな。
ミランが指し示した山は大した高さもなく、30分もしないうちに頂上まで辿り着けた。
辺りを見回した俺達に、島の全容が映る。
「……島だな」「島ですね…」「私の冒険が…」
島は周囲数キロ程度の小さな島だった。
遠くにも似たような島は見えるが、大陸のように大きなものは見えなかった。
「残念だが、冒険とはこういうものだし、気を取り直して大陸を目指そう」
「そうだね。何もかも上手くいっていたら、有り難みがなくなるもんね!」
「ルナ様がお待ちです。帰りましょう」
聖奈はポジティブだな。
ミラン、ルナ様は別に待っていないぞ?
三人の中で一番ガッカリしていたのは俺だろうな。
俺はその気配がバレる前に、転移魔法を発動した。
「そういうことで、また揺れるからな」
転移で船に戻ってきた俺は、ルナ様に船を再び出すことを伝えた。
「何がそういうことよ…まぁ見ていたから知っているけど」
「だろ?説明を省いたんだよ」
長年連れ添った夫婦でもここまで共有出来ないだろう。
こんな性格の奥さんは面倒で勘弁だけどなっ!!
「私が酔わないように気をつけなさいよ」
「へいへい…」
じゃあゲームやめろよ…とはいえ、好きなだけして欲しいとも思っている。
酔い止め薬飲んでいたけど、薬って効くのか?
疑問だが、まぁ造りは人ベースだから効くんだろうな。
暫く穏やかな海上を走らせていると、突如船が北に流され出した。
「これは…海流か」
「だね。近くに大陸か大きな陸地がある可能性が高いね」
もちろん陸地がなくとも海流は生まれる。
だが、可能性が高いのは聖奈の言っている方だ。
「流され過ぎないように逆らって進んでいく」
「うん!それが良さそうだね」
北に流されて、陸地に着きました。 氷の大地でした。
だと、生き物がいない可能性が出てくるからな。
もしかしたらそんな不毛な大地ですら生きていけるほどの文明があるのかもしれないが、態々それに賭けないといけないほど、この船の動力は柔じゃないしな。
何せ億だからなっ!億っ!!
「見えました!陸地ですっ!!」
目の良いミランが陸を発見したのは、島を見つけてから一日後のことだった。
「やっとか…ソニーを一周するんじゃないかと、疑い出したところだったぞ……」
「ミランちゃん!何か見える!?」
「えっと…砂浜とその奥に林が見えますね。それ以外は特には」
ミランの応答に聖奈は目に見えて落ち込む。
「これだけの海があるのに、港どころか船も人もいないってことは…」
「まだわからんぞ。例えばその砂浜付近には強い魔物がいて、村規模では討伐も出来ず、違うところで生活しているとかな」
「そんなことってあるの?それよりもその陸地が無人島っていう可能性の方が高いんじゃないかな?」
悪い方に考えたらそうだな。
だが!ここは頼りになる夫セイくんの出番だ!!
「もう俺でも見えるから、転移で確認してくるよ。少し待っていてくれ」
「うん…期待しないで待ってるね」
俺も期待するのはやめておこっかな……
「お帰りなさい。どうだった?」
陸地の調査を終えた俺は、船へと転移で戻ってきた。
「あそこは馬鹿でかい島か、俺たちの目的地のどちらかだ」
「えっ?嘘でしょ?」
「魔力波で調べたが、反応がかなりあったぞ。ずっと森だから上からは確認できていない。つまり、人の痕跡は未確認だ」
砂浜付近には強い反応はなかった。
だから強い魔物がいて無人になっているというのはハズレだ。
だが、めちゃくちゃ広いのは確認した。
「広いって…どれくらいかわからないほど?」
「そうだ。かなり遠くにとんでもなく高い山が見えたからな。
あそこがその山の裾野からなる島じゃないのなら、別大陸で間違いないだろう」
「とにかく、行ってみませんか?その反応が魔物であっても、私達なら問題ないと思います」
百聞は一見にしかず、か。
まぁ俺もこの二人を今更危険だからといって、籠に閉じ込めたりするつもりはない。
「と、いう訳なんだが、行ってきていいか?」
「「えっ??」」
俺が確認の声を上げると、二人は驚き、俺の視線を辿った。
「行くのを止めることはしないわ。でも、私も着いて行くわね」
「それこそ止められないからな…」
だってあたい、貴女の使徒なんだもん。
つーか、ゲームに飽きたのか?
それともあの森の向こうに何か……
いや、よそう。
ルナ様の行動から先を読むのは、絶対に面白くない。
それにこの天邪鬼神のすることに意味があるのかなんて、本人にもわからんことだろうから、考えても無駄だしな。
「ご同行してくださりありがとうございます」
「大変心強く思います」
「いいのよ。好きでしていることなのだから」
うん。本当に好きでしているんだぞ?
いい加減その余所余所しいのをやめないと、ルナ様は泣くぞ?
見てみろ。今も俺の方を向いて何か言いたそうにしているじゃないか。
だが!!
俺は天邪鬼神の使徒だからな!助けん!!
ルナ様の視線に気付かないフリをして、砂浜へと転移した。
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