「本当に何もないね」
砂浜に転移したところ、聖奈の第一声がこれだ。
ここは九十九里浜か?と言いたくなるほど、砂浜が広がっている。
遠くに林が見えなかったら、まるで砂漠だ。
「何で砂浜に転移するのよっ!」
「林の中だと、魔物か何かに襲われる危険があるからな。それくらい砂浜近くは反応が多かった」
「私がいるのだから何の問題もないでしょっ!!馬鹿なの!?」
「…いや、この旅でルナ様の力をなるべく借りたくないんだ。歪みを突破してもらっておいて、言えることじゃないけどな」
というか、そんなに砂浜を歩くのが嫌なのかよ!!この駄女神がっ!!
そもそもヒールなんてカッコつけて履くなっ!!
「そ、そう…なのね…」
……はぁ(クソデカ溜め息)
「別にルナ様を蔑ろにするつもりはないからな?むしろ、もっと我儘を言ってくれないと割に合わん。そうだろ?二人とも」
「はいっ!ルナ様!夕食は何をご所望でしょうか?」
「ルナ様!もっと私に色々と命じてください!!ルナ様とセイさんに仕えるのが、私の幸せなのですっ!!」
うん…約一名重い…が、それもよし。
大体敬われるのに慣れていない神様って、本当に神か怪しいぞ?
「っ!!わかったわっ!!そうね…じゃあ、聖!あの林まで、私を連れて行きなさい!!」
「…やっぱ面倒だったんじゃん」ボソッ
ヒールじゃ歩きづらいんだろうなと、足元を見ると、ルナ様のヒールは砂に埋もれていなかった。
どうなってんだ???
「まぁいいか」
「なによ?」
「なんでも。ほらっ。さっさとおぶされよ」
俺はルナ様の前にしゃがむとそう告げた。
「違うわ。あの聖奈に時々する持ち上げ方を所望するわっ!!」
「聖奈に…ああ。お姫様抱っこか…」
何だよそのリクエストは……
俺達を覗いた時に、いつかは…と、思っていたのか?
「ほらっ。これでいいか?」ギュッ
「何だか不思議な感覚ね。でも、悪くないわ」
「……」
悪いって言ったら、放り投げていたところだぞ。
というか、流石にルナ様だと二人も何も言ってこないし、変な目で見てこないな。
むしろ、羨ましいとかではなく、尊敬の眼差しを感じるが…なぜ?
「よし。行くぞ」
「うん!」「はい!」「揺らさないでよね」
…締まらん。
「凄いですね…」「見事になにもないねっ!!」
砂浜を歩き林へと辿り着いた俺達は、さらに奥へと進んでいた。
道中魔物とは遭遇したが、他の生き物には未だ出会えていなかった。
「砂浜の近くは木の密度が低かったが、この辺はもう森だな」
「そうだね。それにしても魔物が多いね……これだと人がいなくても当然だね」
「はい。ここの魔物の強さはD〜Cランク程度の強さですが、この数は人の生活限界を遥かに超えています」
冒険者になった直後の俺たちだと苦戦したか、もしくはやられていただろう。
それほどの数の魔物が生息している場所に、普通の人は暮らせない。
仮に暮らしていたとしても、俺は住みたくはないな。
「この感じだと、近くに人は住んでいないという意見は一致したが、どこまで進むんだ?」
「ごちゃごちゃ言っていないで、先に進みなさいよ。貴方、それでも私の使徒なのかしら?」
「…アンタの使徒だからだよ」ボソッ
「なんか言った?」
なにも……
俺はそれだけ言い返して、先頭を歩いていく。
人と話すのも怖がっていた神様の使徒なんだから、ビビりでも仕方ないだろっ!!
まぁ俺が恐れているのは、俺がやられるとかいうよりも、ミランや聖奈に何かあればと思うあまりなんだがな。
ここまでに出てきた魔物は、聖奈とミランが率先して狩っていたから、俺の出る幕はなかった。
ここからは俺も踏み込んでいない領域だから、俺もぼちぼち身体を動かそうかな。
「セイくん。面白くない」
マイスイートハニー1号が、とんでもないことを告げる。
「面白くないって言われてもな…」
「セイさん。私達にも任せてください」
「いや…見つけた端から、始末していっているだけだからな?二人も見つけたら頼むな?」
別に魔物の独り占めなどはしていない。
ただ、見つけたら魔法でチョチョイと倒しているだけなのである。
ここは砂浜近くの林から2時間の距離にある、森の中だ。
そう…未だに森を抜け出せていないんだ。
別に起伏も激しくなければ、山や谷でもない。
平地に森が延々と続いているのだ。
亜熱帯地域であればジャングルだが、ここはそこまで蒸し暑くもない。
過ごしやすくはあるのだが、ただそれだけの場所。
「見つけた端からって!セイくん魔法ですぐに見つけるじゃんっ!!私達にも、冒険させてよっ!!」
「聖。譲りなさい。男らしくないわよ」
「男なら妻を守るのが普通なのでは…?」
俺の声は、三人には届かなかった。
まぁいいけど。
これは余談で、ただの自慢だが。
ここ最近の俺は、さらに魔力操作のスキルが上昇しており、魔力波を使いその範囲内であれば、魔法を好きなところへ放つ事が出来るようになっていた。
この森でもそれを使い、ほぼ無限のような魔力を惜しみなくばら撒いていたのだ。
「右から二体くるぞ」
「りょーかいっ!」「わかりましたっ!」
張り切っているから、案外これで良かったのかも。
「そろそろ戻るぞ」
森は元々薄暗く、ライトの生活魔法(初級魔法)をずっと使っていたから探索は問題ないが、とっくに月が見える時間になっていた。
休まないと俺も疲れるからな。
「うん。半日以上歩いたけど、結局人っ子一人見つけられなかったね」
「森はまだまだ終わりそうにありません」
「そうだな。まぁ時間はあるんだ。じっくりと探索しよう。それよりも、船に転移でいいよな?」
何せ船は無人の沖合いに放置してあるからな。
流石に捨てるようなものでもないし、俺達なら多少の手間で維持することが出来るからな。
「そうだね。月が出ていたら地球で休んで、出ていなかったら船で休んで、探索を続けよう」
「賛成だ」「それが良さそうですね」「夕食はなにかしら?」
……締まらん。
コンもそうだが、長い時を本当のぼっちで過ごすとこうなるのか?
『テレポート』
最早、森の異物でしかない俺たちは、船へと転移した。
「凄いわ。初めは変わった色のお米だと思ったけど、こんなにも美味しかったのね」
今日のご飯はいつもの白米ではなく、炊き込みご飯だった。
おかずは卵焼きに焼き魚、漬物と豆腐サラダだ。
ここはいつものアメリカにある別荘のリビングだ。
そこで晩飯を食べながら、今日の出来事を話し合っていた。
「それは良かったです。ルナ様にとっては、今日は退屈だったことかと思います。せめて食事くらいはと。楽しんでもらえたのであれば幸いです」
堅い……
「いいのよ。二人とも気にしなくて。私もそれなりに楽しませてもらっているわ。だから、私の事は聖に任せて、二人は思い思いに行動なさい」
「「ありがとうございますっ!」」
「俺が見るのかよ…」
「何かいった?」
………。
「明日に備えて、俺はもう寝るよ」
元々二対一なんだ。
それがさらに増えて、なんで敵しかいないリビングにいなくてはならんのだっ!
そう気付いた俺は、寝室で一人晩酌をすることにした。
ちなみに神不在の月への祈りは欠かしていない。
喋る神より、物言わぬ神(月)の方が敬えるな……
「さっ!今日もじゃんじゃん魔物を倒そうねっ!」
「はいっ!!昨日はセーナさんの方が多かったですが、今日は負けませんよっ!」
あのぉ…ゲームじゃないのですが?
翌日は朝から昨日の続きをすることになった。
もちろんルナ様も一緒だ。
「二人とも。その気持ちを忘れないことね」
「「?」」
はあ。
ルナ様の言葉に、二人は気のない返事をする。
もしかして…ずっとこれか?
俺は気付きたくなかった事実に気付くも、やはり気のせいだと思うことにして、知らないフリを決め込んだ。
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