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第4話「夜の試練」
夜、トオルの家のガレージ。トオルは手に入れた緑の180SXのマフラーを手に持つが、取り付け方が分からず工具を握ったまま途方に暮れている。そこへ幼馴染の三田ユウジがS13シルビアでやって来て、「お前、それどうすんの? 自分で付ける気か?」と笑いものにする。トオルは「後藤さんに頼みたいけど、まだ返事もらえてないし…」と少し落ち込むが、ユウジに「なら俺たちでC1走って気分転換しようぜ!」と誘われ、車に乗り込む。
首都高C1の夜。トオルとユウジが走っていると、後方から眩しいヘッドライトと共に鋭いエンジン音が迫ってくる。鮮やかな赤いFD3S RX-7が二人の横をすり抜け、華麗なドリフトでコーナーを抜けていく。ユウジが興奮して「あれ、速すぎだろ! 誰だよあいつ!?」と叫ぶ中、トオルは黙ってその走りを目で追う。赤いFDは一瞬で視界から消えるが、トオルの中に新たな闘志が芽生える。
走り終えた後、トオルとユウジはC1の休憩スポットであるパーキングエリアに立ち寄る。そこで界隈の走り屋たちが集まり、噂話をしているのを耳にする。「さっきの赤いFD、あれは『カイト』だよ。最近C1で名前が上がってる新星さ」。カイトこと藤原カイトは20歳の若手走り屋で、抜群のドライビングテクニックと攻撃的な走りで注目を集めているらしい。トオルは「帝王じゃないのにあんな走りができるのか…」と感嘆しつつ、自分との差を痛感する。
翌日、トオルは意を決して再び後藤の自転車屋を訪れる。マフラーを手に「お願いします、後藤さん。このマフラーで俺の180SXを走れる車にしてください」と頭を下げる。後藤はしばらく黙った後、ため息をつきながら立ち上がる。「お前、しつこいな…。分かったよ。マフラーだけなら付けてやる。但し、それ以上は期待するな」と渋々承諾。トオルは目を輝かせ、「ありがとうございます!」と感謝を伝える。後藤は自転車屋の奥から古びた工具箱を持ち出し、「昔の感覚が戻るか分からんがな」と呟きながら作業を始める。
その夜、後藤の手によってマフラーがトオルの180SXに装着される。エンジンをかけると、今までとは異なる低く力強い排気音がガレージに響き渡る。後藤は「これで少しはマシになる。だが、フルノーマルのままじゃ大した変化はねえぞ」と釘を刺すが、トオルは「十分です! 試してみます!」と興奮を抑えきれずC1へ向かう。ユウジも付き合い、二人で夜の首都高を走り出す。新たなマフラーによる微妙なパワーアップを感じつつ、トオルは「これが第一歩だ」と実感する。
走行中、再び赤いFD3Sが姿を現す。トオルがアクセルを踏み込んで追いかけるが、カイトのテクニックに全く歯が立たない。それでも諦めずコーナーに挑むトオルを見て、カイトはスピードを落とし、並走しながら窓を開ける。「お前、面白い走りするな。名前は?」と挑発的に笑う。トオルが「桜井トオルだ!」と返すと、カイトは「覚えておくよ。もっと速くなったら、また会おうぜ」と言い残し、一気に加速して去っていく。トオルは悔しさと興奮が入り混じった表情でその背中を見送る。
トオルはガレージに戻り、マフラーから響く音を聞きながら「カイトか…篠原マコトか…そして緑の180SX。全部超えてやる」と静かに決意を固める。後藤が店の奥からその姿を見て、微かに口元を緩める。首都高の遠くの光がトオルの夢を照らし、次の戦いを予感させる。