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#⛄️
kaede🍁
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阿部は走っていた。
どこへ向かっているのかも、もう分からない。
ただ。
目黒から少しでも離れたかった。
「はぁ……っ、はぁ……。」
胸が苦しい。
足も痛い。
それでも止まれなかった。
さっきの光景が、頭から離れない。
確かに。
ナイフは目黒の胸に刺した。
それなのに。
目黒は笑っていた。
まるで、何もされていないように。
(……効かなかった。)
阿部は走りながら呟いた。
吸血鬼には銀。
そんな知識を頼りにした。
でも。
少し考えれば分かることだった。
(自分の弱点になるもの……置いておくわけないじゃん……。)
ここは目黒の屋敷なのだ。
食器も。
家具も。
調理器具も。
全部、目黒が用意したもの。
自分を傷つけられるものを、わざわざ置いておくはずがない。
(どうしよう……。)
逃げるしかない。
あと何時間も。
人間ではない目黒から。
ずっと。
___________
廊下の角を曲がる。
その先に扉があった。
阿部は迷わず開ける。
中へ入り。
静かに扉を閉めた。
「……。」
しばらく待つ。
足音は聞こえない。
阿部はようやく周囲を見る。
「……書斎?」
壁一面。
天井近くまで続く巨大な本棚。
中央には古い机と椅子。
窓には分厚いカーテンが掛かっている。
本棚には。
何百冊もの本が並んでいた。
「……。」
阿部は少しだけ安心した。
ここなら。
何か分かるかもしれない。
吸血鬼について書かれた本。
この屋敷について。
目黒について。
逃げるための手掛かり。
阿部は本棚へ近付いた。
「……?」
すぐに違和感に気付く。
一角だけ。
同じような装丁の本が並んでいる。
小説ではない。
背表紙には。
名前。
そして。
年号。
「……何これ。」
阿部は一冊抜き取った。
かなり古い。
表紙を開く。
最初のページには。
一人の女性について書かれていた。
年齢。
容姿。
性格。
この屋敷へ来た日。
そして。
『気に入った。』
「……。」
阿部の指が止まった。
嫌な予感がする。
ページをめくる。
目黒が書いた日記だった。
屋敷へ連れてきた女性について。
毎日。
細かく記録されている。
最初は。
彼女がどんな人間なのか。
何を話したのか。
何を食べたのか。
何をすると笑ったのか。
そんなことばかり。
けれど。
読み進めるほど。
内容が変わっていった。
「……。」
阿部の顔から血の気が引く。
ページをめくる手が遅くなる。
目黒は。
嘘をついていなかった。
気に入った人間を。
すぐには殺さない。
長い時間をかけて。
少しずつ追い詰めていた。
逃げようとすれば捕まえ。
また逃げる希望を与え。
それすら奪う。
そして。
その女性が弱っていく様子まで。
淡々と。
時には楽しそうに。
記録していた。
「……嫌。」
それ以上読みたくない。
なのに。
阿部は最後のページを開いてしまった。
そこには。
その女性の最期が記されていた。
「……っ。」
阿部は勢いよく本を閉じた。
胸が苦しい。
吐きそうだった。
こんなの。
恋愛でも。
執着でもない。
ただ。
目黒が楽しむためだけの記録。
阿部は本棚を見る。
同じ本が。
何冊も。
何十冊も。
並んでいる。
全部。
過去に。
目黒が気に入った女性たち。
一冊。
一人。
「……。」
阿部は後ずさった。
背中が机に当たる。
その拍子に。
机の上に置かれていた本が目に入った。
「……。」
一冊だけ。
本棚に入っていない。
他の日記と同じ形。
でも。
明らかに新しい。
阿部は嫌な予感がした。
触りたくない。
それでも。
確認しなければならない気がした。
震える手で。
表紙を開く。
「……。」
最初のページ。
『あべちゃん』
そこに書かれていた名前を見て。
阿部は息を止めた。
手が震える。
自分の日記が。
もう。
作られていた。
___________
阿部はページをめくった。
最初の日付は。
今日。
『四人来た。』
『三人はいらない。』
阿部は唇を噛む。
その先。
『最後の一人。』
『見た瞬間に決めた。』
「……。」
次のページ。
『白が似合うと思った。』
阿部は自分のワンピースを見る。
白。
これも。
目黒が選んだ。
『目を覚ました時、怯えていた。』
『思った通り綺麗だった。』
阿部の呼吸が浅くなる。
さらにページをめくる。
『友達のことを聞いた。』
『優しい子らしい。』
『自分のことより先に友達を心配していた。』
「……。」
全部。
見られていた。
観察されていた。
そして。
記録されていた。
『鬼ごっこを提案した。』
『怖がっていたけれど、逃げることを選んだ。』
『嬉しい。』
『簡単に諦める子じゃなくてよかった。』
阿部はページをめくる。
衣装部屋。
『見つけた。』
「……やっぱり。」
阿部は小さく呟く。
『懐中時計の音が聞こえた。』
『息を止めているのも分かった。』
『まだ捕まえるには早い。』
『気付かないふりをしてあげた。』
「……。」
予想していた。
それでも。
文字として見ると怖かった。
最初から。
完全に見つかっていた。
さらに。
調理場。
『武器を探していた。』
『賢い。』
『ナイフを刺してきた。』
『驚いた。』
『ますます気に入った。』
阿部はページをめくる。
そして。
止まった。
その先。
何も書かれていない。
「……。」
当然だった。
ここから先は。
まだ起きていない。
阿部は少しだけ息を吐く。
その時。
最後に文字のあるページ。
一番下。
小さく。
もう一行書かれていることに気付いた。
『次は、書斎へ行く気がする。』
「……え?」
阿部の心臓が跳ねた。
日記を見る。
今日。
調理場の出来事まで。
その後。
『次は、書斎へ行く気がする。』
「……。」
阿部はゆっくり。
顔を上げた。
目黒は。
自分がここへ来ることまで予想していた。
「……嘘。」
急いで日記を閉じようとする。
でも。
一つだけ。
情報を見つけたことを思い出した。
さっき読んだ。
過去の女性が書いた日記。
目黒について。
書かれていたこと。
『日の光が差し込む時間になると、彼は姿を消した。』
別の日にも。
『朝だけは来ない。』
そして。
『太陽を嫌っているようだった。』
「……太陽。」
弱点。
銀はない。
十字架も。
目黒なら対策しているかもしれない。
でも。
太陽だけは。
この屋敷から消すことはできない。
阿部は窓を見る。
分厚いカーテン。
「……だから。」
全部の窓が。
あんなに厳重に塞がれている。
阿部は懐中時計を取り出した。
まだ。
夜は続いている。
でも。
朝は必ず来る。
「あと少し……。」
逃げ切ればいい。
朝まで。
太陽が昇るまで。
その時。
コツ。
「……。」
廊下から。
足音がした。
コツ。
コツ。
ゆっくり。
こちらへ近付いてくる。
阿部は日記を机へ戻した。
そして。
ショルダーバッグを握る。
足音が。
扉の前で止まった。
「……。」
静寂。
阿部は息を止める。
そして。
扉の向こうから。
楽しそうな目黒の声がした。
「俺の日記。」
「勝手に読んだ?」
阿部の体が。
震えた。
コメント
1件
うわ……この展開、心臓に悪い……!阿部ちゃん、ずっと逃げてるのに、目黒の日記で最初からぜんぶ見抜かれてたって分かっちゃうところ、鳥肌が立ったよ。それに、過去の女性たちの記録が何十冊も並んでる描写がもう、♡♡♡的に無理って感じで怖かった……。でも、太陽が弱点ってヒントを見つけたところは、まだ希望あるのかなって思えた。次が気になる……!