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#⛄️
kaede🍁
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「俺の日記、勝手に読んだ?」
扉の向こうから聞こえた声に。
阿部は動けなくなった。
「……。」
逃げなければ。
頭では分かっている。
なのに。
足が震えて動かない。
扉一枚隔てた向こう側に。
目黒がいる。
それだけで。
さっき読んだ日記の内容が次々と頭に浮かんだ。
過去に目黒が気に入った女性たち。
その全員が。
最後には――。
「怖くなった?」
目黒の声がする。
「……。」
阿部は答えない。
すると。
クスクスと。
楽しそうな笑い声が聞こえた。
「可愛い。」
「……。」
「あべちゃん。」
目黒の声は穏やかだった。
「俺ね。」
「今まで会った女の中で。」
少し間を置く。
「あべちゃんが一番好き。」
「……っ。」
嬉しい言葉のはずなのに。
今は。
死刑宣告にしか聞こえなかった。
一番気に入られた。
つまり。
日記に書かれていた誰よりも。
長く。
目黒に弄ばれるかもしれない。
阿部は唇を噛む。
「だから。」
目黒が続ける。
「特別。」
「……何が。」
やっと声が出た。
目黒は楽しそうに答える。
「十秒あげる。」
「……。」
「早く逃げな。」
次の瞬間。
ガチャ。
扉が開いた。
「っ!」
考えている暇なんてなかった。
阿部は走り出した。
目黒の横を通り抜ける。
「いーち。」
背後から。
声が聞こえる。
阿部は廊下を走る。
足が痛い。
疲れている。
でも。
止まったら終わる。
「にー。」
角を曲がる。
「さーん。」
階段。
阿部は手すりを掴みながら駆け下りる。
「よーん。」
「……っ、はぁ……!」
「ごー。」
まだ。
もっと遠くへ。
「ろーく。」
廊下へ出る。
「なーな。」
阿部は後ろを見る。
目黒は。
まだ追いかけてきていない。
「はーち。」
あと二秒。
「きゅーう。」
阿部はさらに走る。
そして。
「じゅう。」
声が止まった。
「……。」
阿部の背筋が冷たくなる。
来る。
「あべちゃん。」
遠くから。
目黒の声。
「意地悪したくなっちゃった。」
「……え?」
次の瞬間。
何かが。
暗い廊下を飛んできた。
「っ!」
阿部は咄嗟に体を捻った。
鋭い痛みが足首を走る。
「痛っ……!」
さっき目黒に刺したステーキナイフだった。
刃先が。
阿部の足首を掠めた。
「……っ。」
白い肌に細い傷ができる。
そこから。
血が溢れ始めた。
「嘘……。」
痛い。
走らなければならないのに。
足をつくたびに。
傷が痛む。
「……っ。」
阿部はよろけた。
後ろから。
ゆっくり。
足音が聞こえる。
コツ。
コツ。
「大丈夫?」
心配しているような声。
でも。
やった本人だ。
「血出ちゃったね。」
声が。
少し嬉しそうだった。
「……。」
阿部は唇を噛む。
逃げないと。
でも。
このまま走れば。
血の跡が残る。
居場所まで分かってしまう。
それに。
足を怪我した。
さっきまで以上に不利になった。
(どうする。)
足音が近付く。
(考えて。)
阿部は床を見る。
そこには。
さっき自分を傷つけた。
ステーキナイフが落ちている。
「……。」
阿部は。
突然。
床へ倒れた。
ドサッ。
「……あれ?」
目黒の足音が止まる。
「あべちゃん?」
返事をしない。
「転んだ?」
阿部は床へ伏せたまま。
ナイフへ手を伸ばす。
あと少し。
指先が。
柄に触れた。
「もう走れない?」
目黒が近付いてくる。
コツ。
コツ。
阿部はナイフを握った。
「残念。」
目黒の声が。
すぐ近くまで来た。
「もう終わりかな。」
その瞬間。
阿部は勢いよく振り返った。
「……っ!」
ナイフを投げる。
目黒の顔から。
一瞬だけ笑みが消えた。
「!」
目黒が反射的に避ける。
その僅かな時間。
阿部は立ち上がった。
「まだ!」
走る。
足首が痛む。
「……っ。」
それでも。
走る。
「捕まってない!」
阿部は必死に廊下を走った。
背後。
目黒は。
ゆっくり顔を上げる。
床には。
阿部が投げ返したステーキナイフ。
そして。
廊下には。
小さな血の跡。
「……。」
目黒は数秒。
黙っていた。
そして。
笑った。
「すごい。」
完全に。
転んだと思った。
自分を騙した。
「……やっぱり好き。」
目黒はナイフを拾う。
刃には。
阿部の血がついていた。
目黒はそれを舐める。
そして。
逃げていった阿部の方を見る。
「あべちゃん。」
その声は。
さっきまでよりも低かった。
「でも。」
目黒の表情から。
少しずつ。
遊ぶような笑みが消えていく。
「それは駄目だなぁ。」
床に残る。
赤い跡。
一滴。
また一滴。
あべちゃんがどこへ向かったのか。
道標のように続いている。
「血の匂い。」
吸血鬼から逃げるには。
あまりにも。
致命的だった。
目黒は静かに歩き出す。
「どこまで逃げられるかな。」
その先では。
阿部が痛む足を引きずりながら。
必死に。
朝を目指していた。
コメント
1件
うわっ、第6話めっちゃ怖かった……!まずカウントダウンからのナイフ投げ、阿部ちゃんが咄嗟に体捻ってかわすところ、読んでて息止まったわ。それに「転んだフリしてナイフ拾う」って冷静な判断、脳筋じゃない強さが本当に刺さる。最後の血の跡が道標になってるオチもゾッとするし、続き気になりすぎる🔥 みらさんのスリル演出、マジで解像度高いよ!