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「ですので……健二さんからもお母様へお口添えいただきたいのです。恐らく宮美さんの中では今回のお話、健二さんと結びついていないんじゃないかと……そんな風に思ってしまって」
修太郎さんと一緒に宮美さんのもとへお願いに上がったわけではないのではっきりとは言えないけれど……修太郎さんの口振りと、宮美さんからの反応をお聞きして、私はそんな風に思っていた。
ほぅ、とひとつ溜め息をついたところで健二さんに呼びかけられた。
「日織さん」
「――?」
改まった声音にキョトンとして健二さんを見上げたら、いきなり頭を下げられてしまって、私は驚いてしまう。
「俺、日織さんのことぼんやりしたあまり考えのないお嬢さんだとか思って、結構見くびってました! ホント、すんません!」
貴女が、俺が思っている以上に色々見てるって分かってびっくりしました、と付け加えられた時、「あ、ありがとうございます」と思わず返してみたものの、もしかしてここは怒るところだったのでは?と少し遅れてハッとする。
「ほら、そういうところ。思いっきり抜けてるでしょう?」
クスクス笑われて、ムッとして健二さんを睨んだら、「けど、貴女は兄さんのことは本当によく見てくださってるって分かって、正直安心しました。――ありがとう」
言われて、ニコッと微笑まれた。
私は初めて健二さんの心からの笑顔を見せていただいた気がした。
「母さんのことは任せてください。首に縄つけてでも引きずって行きますんで。日程、みんなの都合がつきそうな日で調整つけてまた連絡ください」
健二さんの言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。
***
「日織さん、どちらへ?」
大事をとって健二さんが戻られてから数分置いて席に戻ると、すぐさま修太郎さんに声をかけられた。
「お、お手洗いへ」と苦しい言い訳をすると、修太郎さんは瞳を細めて私をご覧になられてから、「健二との話はつきましたか?」とおっしゃった。
(わーん、お見通しなのですっ)
泣きそうになりながら健二さんのほうをチラリと見たら、申し訳なさそうに手でごめんなさいの形をとりながら頭を下げられた。
それを見て、修太郎さんは私よりも先に弟さんに詰め寄られたのだと悟った。
「か、勝手なことをして申し訳ありません。健二さんのお母様のことを……宮美さんのことをお願いしていました」
修太郎さんに連れられて廊下に出た私は、壁と修太郎さんに挟まれるようにして立っている。
眼前に立ちはだかる彼を見上げながらそう申し上げたら「どういう意味ですか?」と静かに問いかけられて……。
以前健二さんと仲良くした時に感じたような威圧感はないけれど、やはり長身なだけに修太郎さんに問い詰められると緊張してしまう。
私はドキドキしながら、恐る恐る健二さんにご説明させていただいたのと同じことを修太郎さんにもお話した。
すると、修太郎さんが息を呑まれたのが分かった。
「日織さん、貴女はとても聡明な女性です」
抜けているとかぼんやりしているとか評されたことはあったけれど、聡明だと言われたことはなかったので、一瞬何を言われているのか分からなくてキョトンとする。
ソウメイ……ソウメイ……と頭の中で繰り返してから、〝僧名〟?と変換して絶対違う、と頭を振る。
#御曹司
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それなのに。途端、頭の中に何人ものお坊さんが向かい合わせになって座られて、お一人お一人が自己紹介を始めてしまわれた。
無意識に、名乗られたお名前を「英信さんに明慧さん……」と復唱してしまってから、自分の声に気付いて恥ずかしくなる。
「日織さん?」
一人で真っ赤になってあたふたする私に、修太郎さんが怪訝そうなお顔をなさってから、それでも優しく私の頭をポンポン、と撫でてくださった。
「庁舎でなければ抱きしめているところです。――日織さん、絶対今、変な想像してましたよね?」
そう仰ってから、「本当に貴女って人は……」とお顔を覆われて、吐息交じりにつぶやかれます。
「修、太郎さん?」
呆れさせてしまったのかと心配して覗き込んだら、涙目になっていらして……。
肩を震わせながら必死に笑いを堪えておられた修太郎さんが、私と目があった瞬間、我慢しきれないようにふっと頬を緩められて、
「英信さん、明慧さんって……っ。もう、可愛いすぎて……いっそ、凶悪です……!」
と大笑いなさるのです。
修太郎さんの言葉をお聞きした途端、恥ずかしくて「復唱禁止ですっ」と抗議してみたものの、こんな風に子供のようなお顔で笑われる修太郎さんを拝見するのは初めてで……。
気がつくと、いつしか一緒になって笑ってしまっていた。
(修太郎さんこそ、笑顔が可愛すぎるのですっ! 胸がギュッと苦しくなるくらい大好きです!)
そう思ったけれど、悔しいので口に出して言うのはお預けにしておきます。
コメント
2件
ひおりちゃん、本当賢い!
「僧名」って変換しちゃう日織さん、可愛すぎてやばいです(笑)修太郎さんが「職場じゃなければ抱きしめてる」って言ってからの、涙目で笑い堪えるシーン……もう胸がぎゅっとなりました。二人の距離が確実に縮まってるのが伝わってきて、読んでてじんわり温かくなりました。健二さんとの関係もすれ違いが解けてほっこり。鷹槻れんさん、本当に素敵な関係性の描き方しますね…!