その日は朝から体調が悪かった。
熱は無いが、軽めの頭痛と倦怠感。
「風邪でもひいたかな…」
重い体を起こしてリビングに行く。同棲中の彼氏である悟はもう仕事に行ってしまったようだ。
私と悟が出会ったのは高校生からの付き合いで、5年ほど前から同棲している。周りからは結婚してないことに驚かれる長さだ。
悟は結婚の話どころか、最近少し冷たいような気がする。倦怠期というやつだ。
元々家にいる時間は短いのに、ここ数ヶ月は合わない日の方が多い気がする。家にいても会話はあまりない。
同職なので忙しいのはわかるのだけど、もう少し構ってくれてもいいのではないだろうか。
それとももう、私には冷めてしまったのか。
あぁダメだ。体調が悪いと暗いことばかり考えてしまう。
今日は平日だから私も普通に任務がある。気合い入れてかないと。
いつもより軽いご飯を食べ、身支度を整える。薬は無かったので後で適当に買っておこう。
「よし、行ってきます」
誰もいない部屋に響いた
何件か任務を終え、昼時になったのだが食欲がない。頭痛も酷くなってきた気がする。途中で買った薬もあまり効果が無い。「どうしよ…」独り言が聞こえていたのか運転席にいる伊地知くんから声がかかる「樢つたさん、どうかされましたか?」「あ、ううん。何も」「……顔色も悪いですし、先程風邪薬を買っておられましたよね」「見られちゃってたかぁ」「この任務が終わればあとは報告書だけですので、早退されても大丈夫ですよ。私が提出しておきます」「いや、でも」それじゃ伊地知くんの仕事が増えてしまう「こういう時ぐらい休んでください。私も少し往復するくらいなので苦ではありません」嗚呼、本当に、良い後輩を持てたな「それじゃあ…お願いします」「ふふ、任せてください」
その後の任務は無事に終え、家まで送ってもらってしまった。申し訳ない…。家に帰っても何もする気が起きず、そのままベットで寝てしまった。
「…ぇ、、ねぇ、せり……せりは…芹葉!」
「わぁっ!?」
「あ、やっと起きた」
目の前には悟。外は暗くなっている。
「え、悟?おかえり…」
「ただいま、ところで今何時だと思う?」
「ぇ…7時とか?」
「正解は10時。君はご飯もお風呂もやってない。僕より先に帰ってきたんだよね。何時に帰ってきてたの。ずっと寝てたの?」
「うそ…」
冴えてきた目で悟を見ると怒っているように見える。それはそうだ、私何もやってない。
「ご、ごめん…」
「はぁ…こっちは疲れてるのにさ…。呑気に寝てるし」
「ほんと、ごめんッ。ご飯すぐ作るから!」
「もういいよ。…使えねぇな」
その言葉を聞いた瞬間、昔の記憶が呼び起こされた。お母さんと悟の姿が重なる。
「ご、ごめんなさい!ちゃんとするから!」
痛む頭も怠さも無視して必死に悟を追いかける。
「だからいいって!しつこいな。僕外で適当に食べてくるから」
「いかないで!お願い、お願いだからッ」
「あ゛ーもう!何回言ったらわかるの?僕結構疲れてんだよ!」
────何回言ったらわかるのよ、役立たず!
「ごめ、ごめんなさい!」
「うるさい!ひっついてくんな!」
────私に触らないでちょうだい!
私の手を払い除けてこちらをギロリと睨み、玄関に向かっていく。その姿はお母さんにそっくりで。
─────あんたなんか産まなきゃ良かった!
喉の奥がヒュっと鳴る。追いかけたいのに足は動かない。伸ばした手は空を切った。
「ぃ、かないで…お願い…。捨てないでよ…」
バタンと荒々しくドアを閉める音がした。
「ひ、さとる…置いてか、ないで……。ぅ…さとぅ…おがぁさ…やだ……」
突然体の力が抜けてその場に倒れる。
「あ、れ…いき……すえな…」
苦しくて苦しくてしょうがない。頭も胸も痛くて、目の前は霞んでいる。
怖い、こわいよ。だれ、か……
たすけて
五条side今日は上の連中共との話もあってとてもイライラしていた。
勢いのまま出てきてしまったが行くところがない。ファミレスで時間を潰そうと足を進めていると、横に車が止まった。「五条さん、こんな時間にどうされました?」警戒したが声をかけてきたのは伊地知だった「あー…散歩、かな。伊地知は帰り?」「はい。あ、ちょうど良かった。あれから樢さん大丈夫でしたか?」「え?なんで芹葉?」「今日具合が悪そうだったので私が早退させたんです。」「…は?」「本人は大丈夫と仰ってましたけどかなり辛そうでしたね。…ご存知なかったですか?」待って。てことは寝てたのって体調が悪かったから?言われてみれば顔色が悪かったような気がする「五条さん?」「ッ!」後ろで何か伊地知が言っているが何も言わずに駆け出す。最速で家へ向かってドアをぶち破る勢いで開けた。「芹葉!!」リビングで倒れている芹葉を見つけてどっと冷や汗が出る。急いで駆け寄って震える手で芹葉に触れる。「熱い…」熱もあるのか。何度揺さぶっても名前を呼んでも起きない。ただただ、か細くて不規則な呼吸を繰り返すだけだ。「い、やだ…せりは、おきて…!」また、失うのか。抱きしめて何度も名前を呼ぶ。返事は無い。「ぁ、!硝子、電話!」まだ高専にいるはずだ。はやく、はやく出てくれ!「こんな時間に何「硝子!芹葉が!!」あ?」ことの次第を伝えると早く連れてこいと言われて切れた。
芹葉をお姫様抱っこしてそのまま高専に飛ぶ。硝子がいる部屋までの道のりがとても長く感じた。「硝子!」「うるせぇ。そこに寝かせてお前は外にいろ。処置が済んだら呼ぶ。…後で話よく聞かせてもらうからな」「うん。……ごめんね」寝かせる時に囁いたがやはり起きなかった
「五条、入っていいぞ」入るとさっきよりも幾らか顔色が良くて、呼吸も正常な芹葉が寝ている。「風邪を拗らせていたのと過呼吸だな。今は点滴で落ち着かせてる。何があったんだ」「あぁ、それが…」さっきの喧嘩のことを伝えると軽蔑の目でこちらを見上げてきた。「お前ほんとクズだな。」「面目ないよ…」「どうせ酷いことでも言ったんだろ。過呼吸はそのせいじゃないのか?あいつの過去、忘れたのか?」過去…。あぁ、そうだ。芹葉は、良家の娘に生まれたけど術式が相伝じゃないという理由で母親に捨てられたんだった。それを学長が拾って高専に入らせた。
高専に来たばかりの時はいつも暗い顔をしていたのを思い出す。置いていかれることをとても恐れていた。「俺…ほんっと何やってんだ……」「……今回は風邪を拗らせただけだ。直に目を覚ますだろ。次やったらお前の命はない」「次は無いよ。絶対に」「あっそ」帰るという硝子にお礼を言って、ベットの隣の椅子に座る。「ごめんね」握った手は熱のせいで熱かった。
夢主side「ん…」外がやけに眩しくて目を開ける。見知らぬ天井が見える。いや、高専か。なんで?
確か、喧嘩して悟が出ていって、それで…。ああ、風邪のせいで頭がぼんやりする。不意に左手に重みを感じて見ると、私の手を握りながらそこに突っ伏して寝ている悟がいた。なんで??「さ、と…ゴホッゴホッ」咳まで出てきてしまった…最悪だ。「う゛ー……せりは……?」ゆるりと顔をあげた悟と目が合った。瞬間、ガタッと席を立ち私の肩を掴んだ「大丈夫!?」キーンと大声が頭に響く「う゛…さとる、頭に響く」「あっ、ごめん……」「高専…ゲホッなんで?」「あの後僕が倒れてる君を見つけて硝子のとこに連れてきたの。てか苦しいでしょ、無理しなくていいよ」「ん、」そうか。運んでくれたのか。
喧嘩の時とは全然違う悟に少し驚いている。「ごめんね。僕が体調悪いの気づかなくて、その上酷いことまで言って。ごめん」「んーん、私も、ずっと寝てたし」「いや、これは完全に僕が悪い。過呼吸も…起こさせて」ああ、苦しかったの過呼吸だったからか。「君が倒れてるの見た時、本当に怖くて、何も出来なくて。またッ大切な人を、失うかと…」これは現実なのだろうか。あの悟が泣きそうになっている。「泣か、な、ゲホッゴホゴホッ」「芹葉…!体制変える?横向きがいい?」1つ頷くと優しく、でも力強く抱えてくれて、背中をさすってくれて、悟の温かさに私も泣きそうになる「泣いたら苦しくなっちゃうよ。熱もさがってないし、お話は良くなってからしよう」ほら、寝な?と甘い声で言われると睡魔がだんだん襲ってきた「おやすみ芹葉」
その後、五条悟は彼女に甘々になり、過保護ということでも有名になったとか。
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