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#極道
鷹槻れん

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#シングルマザー
水羽凛
183
月詠 涼
696
鷹槻れん

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ヒロとふたり、そんな3人のやり取りをポカンと眺めていたら、「あ、彼女、俺たちと同じクラスの川本梨香子ね」とそのさんが紹介してくださる。
「で、何しにきたん、梨香子。俺、バイトやめたけん、もう一緒には行かれんっちゅったよね?」
そのさんが言って、梨香子さんに向き直った瞬間。
彼女が一瞬だけ悲しそうに眉根を寄せたのが見えて、私は「あ、この感じ身に覚えが……」と思った。
「でもっ、究がいないと私、夜遅くにひとりで帰んなきゃいけないんだもん……。私がバイト入ってる日はお店、飲みに来てよ」
言って唇を尖らせる梨香子さんに、
「お前、俺を破産させるつもりか」
そのさんがすぐさまそう反論して。
それから困ったように溜め息を落とすと、声のトーンを低めて続けるの。
「じゃけぇさ、俺、彼女ができたって話した時、もう梨香子の送り迎えは出来んって話したじゃん? どうでもいけんにゃ、お前もバイト辞めてしまえとも言ったよな? それに――」
そこで一旦視線を彷徨わせると、そのさんがもう一度吐息を落として続けた。
「お前もいつまでも俺とそういうのしよったら、周りから変な誤解されるぞ?て言ったのも覚えちょるじゃろ? ――梨香子、お前さ、好きなやつおるって前に田中に話しよったの俺、たまたま聞いてしもぉーたんよ。……それで俺、あー、このままじゃいけんなって思ったんじゃって」
そのさんがそう続けたら、梨香子さんがキュッと唇を噛んだのが見えて。
そのやり取りを黙って聞いていた田中先輩が「はぁ〜」と大きく溜め息を吐きながら、戸口のところに落ちたままになっていた梨香子さんのカバンを拾って彼女に差し出した。
そうして、そのさんに聞こえるように
「うんちく垂れのきわむぅ〜なんてあてにすんな梨香子。何なら俺に頼め〜。俺ならいつでも喜んでお前の送り迎えしてやるぜ? もち、友達として、な?」
と梨香子さんの頭をクシャリと撫でて意味深に笑って。
「ちょっ、田中、お前がそれやったら俺がやらん意味がないじゃろーが」
そんな田中先輩にそのさんが慌てて言って、ついでのように梨香子さんにも「梨香子もっ! 簡単に田中に頭とか撫でさせたりしたらダメじゃろ。バカなん?」って怒るの。
――ああ、そのさん、それ。きっと火に油ですよ?
と思ったのと同時。
「究の方こそバカじゃないの!?」
って涙目で梨香子さんがそのさんを睨んだ。
ああ、このあれこれ食い違ってうまくいってない感じ。凄く既視感があって辛いです――。
これはさすがに、黙っているのが何だか辛くなってきた。
「あ、あのっ――」
居た堪れなくなった私が口を開こうとしたのを片手でスッと制して、ヒロが言った。
「実はそのさんね、昨日彼女と別れたみたいですよ? だから川本先輩さえ気になさらないんなら、今まで通りそのさんに送り迎えしてもらっても問題ないんじゃないですかね?」
さっきから話に出ているバイト先って、昨夜行ったあの居酒屋かな。
私がそう思って、梨香子さんとそのさんと田中先輩を順繰りに見つめたら――。
「居酒屋なんて俺、梨香子には向かんと思うって一緒にバイトしよる時から再三言いよったじゃろ? 俺ら、もう4年じゃし、色々やらんといけんこととかもあるじゃん? じゃけぇ……その、あれよ」
そこで決まり悪そうに一旦言葉を止めると、そのさんが梨香子さんの方を睨み付けるようにして言うの。
「お前が……図書館とかで調べ物すんのに遅くなるっちゅーんなら付き合っちゃらんこともない。けど、あんな飲兵衛に囲まれるようなバイト先への送り迎えは金輪際しちゃらんし、お前がバイトするけぇって飲みにも行かん。――そのつもりで今後の身の振り方を考えーよ?」
そのさんが珍しく強い口調で一気に言ったと同時、田中先輩がくすくす笑って。
それに気付いたそのさんが、田中先輩をガシッと捕らえると、
「もち、そん時は田中も連れて行くけん、ふたりきりにはならんよーに配慮しちゃる。安心しい」
って、梨香子さんを見るの。
あーん、そのさーん。
そこはふたりきりの方がきっと梨香子さん、嬉しいと思いますっ!
心の中でそう言っていたら、不機嫌そうな顔をしたそのさんと目が合った。
「……鳴宮さん、何か変な誤解しちょるんかもしれんけど、俺と梨香子はそういうんじゃないけんね? こいつは俺にとっちゃあ歳の近い妹みたいなもんじゃけ」
そこで、まるで言い訳するみたいに「さっきも言ったけど、俺が好きなんは鳴宮さんじゃけぇね?」と、付け加えたそのさんだったけど、私には「今はまだ」という前置きが聞こえた気がして。
それでかな?
さっきまでのように申し訳なさに曇った気持ちではなく、晴れやかな気持ちで「はい、分かってます。でも、私はもうヒロのものなので」ってにこやかに答えることができた。
ねぇ、そのさん。〝今はまだ〟そう言う「お兄ちゃん」みたいな世話焼きさんの気持ちで梨香子さんのことを見ているのかもしれないですけど、ずっとそうとは限らないですよ?
だってほら。一緒にいるうちにお互いの関係性って変わってくることがあるものでしょう?
――私と、ヒロみたいに。
「さ、ヒロ。培養室に変形菌、取りに行こ?」
そのさんたちに手を振って、私はヒロの腕にスッと手を回した。
ヒロはそんな私を見下ろすなり、パチッと私にウインクをして、「田中先輩、ちょっと教えていただきたいことがあるんで、後で培養室、来てもらってもいいっすか?」と声をかけた。
私はヒロのそう言うところが大好きなんだよ、って彼の腕に絡めた手に、そっと力を込める。
研究室の窓からちらりと見えた空は、雲ひとつない青天。
今日もいい変形菌観察日和になりそうです!
END(2021/05/28-7/9)
※このあと短編をひとつ載せて完結します
o(^▽^)o
鷹槻れん
コメント
2件
そのさん、りかこさんはきっとそのさんのこと。 人のことには鋭いのに自分への好意には疎いんだから(笑)
ああ、この回、すごく好きです……! そのさんと梨香子さんの「食い違ってる感じ」がもう、見てるこっちがもどかしくなるくらいリアルで。ヒロがすっと入って「彼女と別れたみたいですよ?」ってさらっと言ったところ、絶妙なタイミングすぎて笑っちゃいました。最後の「私はもうヒロのものなので」って場面はもう、胸がじんわり温かくなりましたね。今日もいい変形菌観察日和、素敵な締めくくりでした🌷