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いや、これ良かった……。 なぎの「嫌がる君にしたら、君はもっと僕を嫌いになるから」って台詞、ガチで刺さった。 拒否されたのに距離を詰めずに待つ姿勢、そしてみすずが初めて名前を呼んだシーン。 「なんでこんなに嬉しそうなんだよ」って思わず画面の前で呟いたわ。 変化の兆し、すごく丁寧に描かれてて好き。次の話、めっちゃ気になる🔥
はじめの一歩
翌朝。
みすずが目を覚ますと、部屋の隅に置かれた椅子に、なぎが座っていた。
「……っ!」
「おはよう」
「お前……いつからいた」
「さっき」
「嘘つけ」
なぎは笑った。
「寝てる君を見てた」
「最悪……」
みすずは布団を引き寄せる。
「出てけ」
「嫌だ」
「……」
「朝ごはん持ってきた」
「いらない」
「昨日も食べなかったね」
「お前のせいだろ」
「でも、お腹空いてるでしょ」
「……」
図星だった。
なぎはベッドの脇に腰を下ろす。
「少しだけでも食べて」
「……近い」
「そう?」
「近いって」
みすずが離れようとすると、なぎが手を伸ばした。
「……!」
肩に触れられる。
みすずは反射的にその手を振り払った。
「触るな」
「ごめん」
なぎは素直に手を引いた。
けれど、その目はみすずから離れない。
「……何見てんだよ」
「君」
「ずっとそれだな」
「好きだから」
「それ、便利な言葉だな」
みすずが吐き捨てる。
なぎは少し寂しそうに笑った。
「じゃあ、好きって言わなかったらいい?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、何ならいい?」
「何も」
「……そっか」
なぎが俯く。
その様子を見て、みすずは一瞬だけ罪悪感を覚えた。
「……悪いとは思ってる」
「何が?」
「言い方」
「いいよ」
「……」
「君に嫌われてるのは、分かってるから」
なぎが顔を上げる。
その距離が、思っていたより近かった。
「……みすず」
「何」
「一つだけお願いしていい?」
「嫌だ」
「まだ何も言ってない」
「どうせろくなことじゃない」
「……キスしたい」
みすずの目が見開かれる。
「は?」
「一回だけ」
「嫌に決まってるだろ」
「うん」
「じゃあ言うなよ」
「でも、言いたかった」
なぎが少しだけ笑う。
「君に触れたい」
「俺は触れられたくない」
「……うん」
なぎはそれ以上近づかなかった。
そのことに、みすずは少しだけ驚いた。
「……諦めた?」
「諦めてない」
「じゃあ何で」
「嫌がる君にしたら、君はもっと僕を嫌いになるから」
「……」
「それは嫌なんだ」
なぎは立ち上がった。
「いつか、君のほうからしてくれたらいい」
「そんな日は来ない」
「それでも待つよ」
なぎが扉へ向かう。
みすずはその背中を見つめた。
そして――
「……なぎ」
初めて、その名前を口にした。
なぎの足が止まる。
ゆっくり振り返る。
「……今、名前呼んだ?」
「一回だけ」
「もう一回」
「嫌だ」
「……そっか」
なぎは嬉しそうに笑った。
「一回で十分」
その笑顔を見て。
みすずは、なぜか胸の奥がざわついた。
自分はまだ、この男を知らない。
何も知らない。
なのに。
たった一度名前を呼んだだけで、こんなにも嬉しそうにする。
「……ほんと、変な奴」
「知ってる」
「……」
「でも、みすずが初めて僕の名前を呼んでくれたことは、一生忘れない」
扉が閉じる。
今度は、なぜか昨日ほど怖くなかった。
――それが、みすずにとって最初の変化だった。