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『一回だけだから』
夜。
みすずはベッドの端に座ったまま、窓の外を眺めていた。
月明かりだけが、薄暗い部屋を照らしている。
「……まだ起きてたんだ」
背後から声がした。
「……なぎ」
振り返ると、なぎが扉のそばに立っていた。
「眠れない?」
「お前がいるから」
「そっか」
なぎは苦笑する。
「じゃあ、少し離れてる」
「……」
なぎが一歩下がる。
けれど、みすずはなぜか目を逸らせなかった。
「……何?」
「いや」
「見てるけど」
「……顔」
「顔?」
「近くで見ると、意外と普通だなって」
なぎが笑う。
「初めてちゃんと見てくれたね」
「……うるさい」
なぎがゆっくり近づいてくる。
「嫌なら言って」
「……」
みすずは答えなかった。
なぎはベッドの前で止まる。
いつもより近い。
手を伸ばせば触れられる距離。
「みすず」
「何」
「触ってもいい?」
少し迷って。
みすずは小さく息を吐いた。
「……少しだけ」
なぎの指先が、そっとみすずの頬に触れる。
驚くほど優しい。
「……熱い」
「お前の手が冷たいんだよ」
「そうかも」
指が頬をなぞり、耳の近くで止まる。
みすずは逃げなかった。
なぎが少しだけ顔を近づける。
「……キス、していい?」
「……一回だけ」
「うん」
唇が触れる。
ほんの一瞬。
それだけだった。
けれど離れたあとも、二人の距離は近いままだった。
みすずは思わず目を伏せる。
「……今ので終わりだからな」
「分かってる」
「絶対だから」
「うん」
そう答えたのに、なぎはみすずの顔を見つめたまま動かない。
「……何」
「もう一回したいって思ってる」
「……駄目」
「分かってる」
なぎは笑う。
そして、今度は自分から一歩離れた。
「だから我慢する」
「……」
その言葉に、みすずは少しだけ戸惑った。
「お前……」
「何?」
「……意外とちゃんと止まれるんだな」
「君が嫌がることはしたくない」
「……監禁してるくせに」
「それは……」
なぎの笑顔が消える。
「ごめん」
初めて聞いたその言葉に、みすずは何も返せなかった。
ただ。
さっき触れた唇が、妙に熱かった。
そしてその夜。
みすずはなかなか眠れなかった。
自分から許した、たった一度のキス。
それを思い出すたびに。
胸の奥が、少しだけ騒がしくなった。
コメント
1件
このエピソード、めっちゃ良かった……。「一回だけ」って約束したキスのあと、なぎがちゃんと止まって「ごめん」って言ったのがすごく刺さった。監禁してる側が謝るって、なんか複雑な関係性を感じさせて胸がざわつく。みすずの「自分から許した」って思う気持ちと、離れたあとも唇が熱いままっていう余韻がめちゃくちゃリアルだった。次が気になる🔥