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若井side
2020年7月8日。曇り空。蒸し暑い、夏の午後。
「はぁ〜、やっと終わった……」
高野が大きく伸びをしながら、スタジオの床に仰向けに倒れ込む。
「ミセス、5周年……ですね」
綾華が感慨深そうに呟いた声に、全員の動きがふと止まる。
「でも、もうフェーズ1は完結なんだよなぁ〜……」
涼ちゃんがちょっと寂しそうに笑った。
その場の空気が、少しだけ重くなる。
笑ってるけど、みんな、どこか言葉を飲み込んでいる。
その空気を、俺は知ってる。
このあと、元貴は何も言えなくなって、写真は撮られないまま終わってしまうんだ。
(……でも)
俺は、この日のために戻ってきたんだ。
(もう一度、言えるチャンスをもらったんだ)
立ち上がる足が少し震える。
でも、逃げたくなかった。
だから、口を開いた。
「ねぇ、せっかくだしさ――写真撮ろうよ」
全員の視線が、俺に集中する。
一瞬、時間が止まったみたいだった。
「え?」
最初に声を上げたのは涼ちゃん。
「……5周年記念。フェーズ1、完結の日。たぶん、こうして5人で集まれるのって、もうそんなにないじゃん?」
「……うん」
「だから、今撮らなきゃ、もう撮れない気がするんだよね…」
静まり返る部屋。
その沈黙が、怖くなる。
「あ、いや、べつに無理にとかじゃなくてさ、ただ……」
訂正しようとしたそのときだった。
「……撮りたいっ」
元貴の声が、空気を破った。
「……俺もっ……みんなで撮りたい」
さっきまであんなに静かだったのに、声が少し震えていた。
「俺のアルバム、この日だけ空いちゃうの、やだよ。最後の最後でさぁ」
「最後に……5人揃える日なんだもんっ」
その言葉に、高野がため息混じりに笑う。
「……しょーがないなぁ〜」
「私も、この日だけ空白は嫌だな」
綾華が優しく微笑んで頷く。
「ほら、元貴。カメラ、出してよ」
涼ちゃんが小さく笑いながら、元貴の肩をぽんと叩く。
「……うんっ!」
⸻
「はい、チーズ!」
シャッター音が響き、部屋が一瞬だけフラッシュの光で包まれる。
笑い声と、はしゃぐ声と、安堵と、少しの涙が混ざった、最高の瞬間。
「これで、空白は埋まったな」
俺がぽつりと呟くと、
「ん?なにか言った?」
元貴が顔をこちらに向けた。
「いや、なんでもない」
(この写真が、未来に届けばいい)
(お前のアルバムに、この“今日”が、ちゃんと残ればいい)
⸻
あの日、言えなかったことを。
あの日、叶わなかった願いを。
やっと、“この世界”で、叶えることができた。
⸻
📸 to be continued…
コメント
2件
神でしかない 表現うますぎるんすよ
あぁぁぁもう最高。神