テラーノベル
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相変わらず暇を持て余してしまう17時以降。折り紙で食事をしてやろうという人は誰もいらっしゃらなくて、ぼんやりしていた。昔、常連客が見たいというので設置した古いテレビから、経済ニュースが流れている。フジノ商事、今期の第2期(2Q )決算は前年比の80パーセント増収、増益となり、株価は大幅にアップ――…という内容だった。
いいなあ。うちの店なんか、マイナスの一途だよ。はあ。
ため息をついていると、カラカラと音を立てて古い扉が開いた。18時半をすぎたあたりだ。開いた扉の間からパリッとしたスーツが見えたので、水島君だとすぐにわかった。
「いらっしゃいませ。……今日も来てくれたんだ」
「売上貢献に」
「ありがとう。嬉しいよ」
海外で活躍していた一流商社に勤める人が、わざわざ寂れた定食屋に足を運んでくれるなんて、すごくありがたい。
「今日はなににする?」
「チキン南蛮定食とだし巻き玉子」
「高校の時はずっとそれだったよね」
水島君がいつも注文してくれていたメニューを思い出した。
「ここのチキン南蛮が今まで食べた中でいちばんうまいから」
「そっか、嬉しいよ。南蛮のタレは母の秘伝なの。すっごくおいしいよね」
チキン南蛮を褒められて嬉しくなった。うちの店は、昔、タルタルソースも手作りでやっていた。ただ、客足が途絶えて回転が悪くなってしまってからは市販のものに切り替えてしまった。ドレッシングも、昔はなにもかも手作りだったのに。
でもこのタレの味だけは変えられないので、今でも作っている。チキン南蛮を頼む人は減ってしまったけれど、それでも母の味を守りたくて頑張っているのだ。
定食の盛り付けをして南蛮を作り、ご飯をよそって準備を整えた。味噌汁をトレイに乗せた所で水島君が定食を取りに来てくれた。
続いて玉子焼きに取り掛かる。焼けたので席まで運んだ。
「ありがとう。南蛮うまい。やっぱここの定食は日本一だ」
「よかった。喜んでもらえて。でも、日本一なんて大げさだよ」
「いや、謙遜しなくていい。ほんとのことだから」
「ありがとう」
嬉しい言葉だ。素直に受け取っておこう。私も折り紙は日本一いい食堂だって思っているもの。
「それよりさっき、佑里香さんの旦那に会ったよ。会社(フジノ)で」
ん?
佑里香さんって言われた?
今までそんな風に呼ばれたことなかったのに、急にどうしたんだろう。
それに睦月君に会ったって言った?
「思ったんだけど、佑里香さんと旦那って結婚したばかりなのに、大事な話とか黙っているの? ちょっと信頼関係が見えないというか」
「えっ、そんなことないよ。ちゃんと話すよ」
どうしてそんなこと言うのかな?
「俺が昨日、佑里香さんにフジノ商事で働いている話はしたけれど、彼はぜんぜん知らなかったよ。夫婦なら普通言うよね?」
「あ、そ、それは…お仕事のことはクライアントも関わっていることだから、むやみに口出ししないようにっていう話をしたところだったから…それで、言わない方がいいと思ったの。夫がフジノ商事と深い取引をしているっていうことも、今、知ったのに」
フジノ商事と進めている事業は、もしかするとマルヨーさんが関わっている件かもしれない。詳しいことは知らないし、私が下手なことは言えないと判断した。
「そうなんだ」
納得いかないような顔つきで水島君は私の顔を見た。首筋に注視した後、不愉快そうに顔をしかめた。暫く気まずい空気になった。
水島君が食事を続けている最中にカラカラと音を立てて折り紙の入り口が開き、例のチンピラ3人が現れた。
「へえええ~この店にま~だ来る客がいたのか」
「さっさと立ち退けよオラ」
「どう見ても閉店寸前の店なのになぁ」
チンピラのうちの一人が水島君に絡んでいった。「なあ兄ちゃん、この店の料理は遅いし不味いし、もっといい店あるからそっち行けよ」
「なんですか急に。見てわかりませんか? 食事中ですが。それに、この店の定食は日本一うまいと思っていますので」
水島君はアロハシャツを着たチンピラを一瞥し、食事を再開した。
「こんな不味い飯、食うなって」
チンピラは水嶋君の右手を掴んだ。しかし彼は器用にその腕を掴み直し、逆にチンピラの手をひねりあげた。
「イデデデデ、イデエ”ッッ」
「ここは食事をするところですから、暴れるなら外へ行ってください。なんなら俺が連れて行きましょうか?」
一歩も引かない水嶋君。チンピラたちは以前、常連客にもこうやって絡み、食事の邪魔をして帰らせた。怖がらせて折り紙に来させないようにされたのだ。警察に相談しても、なんの解決もしてもらえなかった。まるでなにかの圧力がかかっているみたいに、通報したこちらが悪者扱いされたのだ。
「お客様に迷惑をかけたら許しませんよ!! お帰りください!!」
悔しくて私は叫んだ。力もない非力な女では、到底敵わないけれど。
「すっこんでろ、このアマ!」
別のチンピラが威嚇し、私に向かってきた。殴られる――と思ったら、さっと私をかばう様に滑り込んできた人がいた。
睦月君だ!!
コメント
1件
ああ、もう、この回すごかった……! 水島くんが「ここの定食は日本一」って言ってくれたところ、じんわり嬉しかった。 それなのにチンピラが出てきて、佑里香ちゃんが叫んだシーンは胸が締め付けられたよ。 そこに滑り込んできた睦月くん…!! もう展開が熱すぎるよ😭 さぶれさんの書く日常の積み重ねと、急な緊張感のバランスが本当に好きです。 次が気になりすぎる……
#文芸アクション
大正
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