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日が明けて、今日はそれぞれ自由行動をすることにした。
考えることが多いため、まとまった時間を確保したかったのだ。
ひとまず私は、一人で工房に行ってみた。
職業柄か、何だかここが落ち着くんだよね。
改めて工房を見回してみると、いくつかの窓が目に入った。
工房は1階にあるので、外から覗こうと思えば覗ける作りだ。
ルークは昨日、ここから私の様子を眺めていたのだろうか。
……うん、まったく気が付かなかった。
ちなみに今、ルークは裏庭で剣の修練をしているようだ。
エミリアさんは、どこかに出掛けたみたい。
「……さて、先のことを決めようかな」
工房の椅子に座って宙を眺める。
これから一体、どうやって進めるのが良いだろう。
……まずは神器作成を起点に考えよう。
流れとしては――
①作りたいものを決める
②素材を調べる
③素材を集める
④作る
――の4段階になるかな。
④が一番簡単だから、考えることは実質3つか。
①は、『私の考えた最強の神器』のイメージを固める作業だ。
でも私は剣なんて使ったことが無いし、ここはルークの理想を聞きながら決めることにしよう。
特別な準備も要らないから、今晩にでも話題に上げてみようかな。
②は、ユニークスキル『英知接続』を使えばすぐなんだけど、そのあとが怖いんだよね。
先日キャスリーンさんに作った『皮膚再構成の軟膏』……高度な回復アイテムだけど、これでも反動で1日倒れるくらいだったし。
それよりもさらに高度であろう神器を調べた日には、どれだけの反動が来るものやら……。
でもこれをやらないと先に進まないから、やっぱり覚悟を決める必要があるんだよなぁ……。
③は、必要な素材が分かったあと……つまり、私が目覚めたあとに進むところだ。
この大陸の中心は、今いる王都なわけだから、ある程度のものはお金で揃うとは思うんだけど……。
問題は自分たちで揃えなければいけないものがあったとき、どれだけの労力が必要になるか……かな。
「――結局、まずは素材を調べないといけないわけか。
それじゃ、それまでにやらなければいけないことは何だろう……」
反動の時間を抑えることを考えるのであれば、『安寧の魔石』を先に探すのがひとつだろう。
仮に買うとなると、小さいものでも金貨1万枚……とかなんだっけ? 買うには厳しいな……というか、さすがに買えないわ!
次は……錬金術のお店を開くのは、どうしようかな。
開店早々に私が寝込んで営業停止、っていうのは流石にね……。
それなら、神器の素材を調べ終わったあとに開店した方が良さそうだ。
あとは、ルークの剣のお師匠さんも見つけてあげないと。
私が倒れたら修行どころではないだろうし、早ければ早いほうが良いだろうし。
……となれば、王族と接点を持って、何かしらのコネを作ることにする?
お店はまだ開かないけど、王族には個別営業をする……とか。
それ以外には、お屋敷の使用人を増やして、クラリスさんにもお屋敷の運営資金を多めに渡して――
ああ、この前注文した、服とかぬいぐるみも受け取らないといけないか。
そうだ、それに錬金術師ギルドで受けた依頼の残りもやってしまわないと――
……考え始めると、案外やることは多い。
何だかんだで色々やっているのだから、これは仕方ないか。
「ひとまず、今日は依頼の残りをやっちゃおうかな。
今日中に全部納品して、また新しい依頼とか情報をもらって……」
依頼の受注を止めるのは、『英知接続』を使う日が決まってからでも問題ないだろう。
むしろそれまでは、頑張ってお金を稼いでいかないと、ね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方にはまだ早い頃、依頼のアイテムを作り終わった私は錬金術師ギルドを訪れた。
「アイナさああああん! いらっしゃいませえええええ!」
いつも通りに響き渡るテレーゼさんの声。
ここは是非、『お客様の声』を投函するポストが欲しいところだ。クレーム入れたる。
「こんにちは、テレーゼさん。ダグラスさんを――」
「っと! その前にひとつ、よろしいでしょうか!!」
「え? 何でしょう?」
「あのあの、見て頂きたいものがあるんです!
以前、ダンジョンのお土産で宝石をもらったじゃないですか。あれを使って指輪にしたんですよー!」
そう言いながら、彼女は指にはめた指輪を見せてくれた。
比較的シンプルながら、なかなかに素敵なものである。
「……え? これ、テレーゼさんが作ったんですか?
へぇえー、可愛いですね! 凄いです!」
「そう言って頂けると嬉しいです!
それでですね、アーティファクト錬金で効果を付けて頂ける、というお話があったと思うのですが!」
「はい、覚えてますよ。
一旦お預かりになるのですが、大丈夫ですか?」
実際はすぐに出来るんだけど、本来はそれなりに時間が掛かるものだからね。
一応、それを誤魔化すために持ち帰らないといけないのだ。
「もちろんです!
それではお手隙のときにお願いしますね!」
そう言いながら、テレーゼさんは指輪を外して渡してくれた。
「ああ、一応預かり証のようなものを……」
「いえいえ、プライベートのことなので大丈夫ですよ!
宝石は頂きものですし、さすがに預かり証だなんて!」
今は仕事中のはずだけど……とは思ったものの、お土産を渡したのも仕事中だったし、ここは良しとしよう。
「それじゃ、できるだけ早くやってきますね」
「はい、よろしくお願いします!
それでは主任を呼んできますので、少々お待ちください!」
テレーゼさんは元気よく言うと、小走りで奥に消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
錬金術師ギルドの応接室で、作成済みの依頼品をダグラスさんに渡していく。
いつも通り手際よく、ダグラスさんは鑑定をしながら書類を次々に処理していった。
「――はい、確かに。残りの47件、受領したぞ」
「ありがとうございます。
そうそう、例の『付箋』も作ってきましたよ」
「おお、それは助かる!
それじゃ報酬を渡すのと一緒に、書類も作成するから……もう少し、時間は大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。
あ、それとまた依頼が来ていたら持ってきて頂けますか?」
「おお、やる気十分だな!!」
「お屋敷をもらっちゃったので、稼がないといけなくて……」
「ははは、何とも羨ましい悩みだな。応援してるぞ!」
そう笑いながら、ダグラスさんは本棚の後ろの隠し扉から一旦出ていった。
……うーん、やっぱりあのギミックは良いなぁ。
いつか建物を建てることになったら、こういうこともやってみたいものだ。
しばらくぼーっとしていると、ダグラスさんが皮袋と書類を持って戻ってきた。
「お待たせ! これが報酬な。
俺は『付箋』の依頼書を作ってるから、アイナさんはその間に金額の確認をしててくれ」
「はい、分かりました。
それじゃここに『付箋』を出しておきますね。……よいしょっと」
ドスンッ
アイテムボックスから『付箋』を出して、テーブルの上に置く。
予算が金貨1枚ということだったので、それなりに量を作ってきたのだ。
両手で何とか抱えられるくらいの量――
「……え? こんなにたくさんもらっても良いのか?」
「これ、言ってみれば紙と糊だけですからね。
今回は最初ということもあって、多めに作ってみました」
「それは助かるなぁ……。そのうち、追加注文も良いかな?」
「大丈夫ですよ。お気軽にどうぞ!」
そう言いながら、報酬のお金を確認する。
不備も過不足もなく、今回もしっかり頂戴することができた。
「それじゃアイナさん、『付箋』の依頼書の確認とサインをしてくれ」
「はーい」
依頼書を確認して、サインをして、そのまま報酬を受け取って終了。
「さて、ご要望のあった次の依頼だけど……今回は、これくらいかな」
そう言いながら、ダグラスさんは依頼書を渡してくれた。
S-ランク以上の依頼が4件、王族からの私指名の依頼が7件だった。
「……さすがに減ってきましたね」
「アイナさん、次々とこなしているからな。
これ以外だと、貴族筋からも問い合わせが来るようになったぞ」
「そういえば、今までは貴族からは無かったんですね」
「アイナさんの噂が広まってきたのと、あとは王族からの依頼が一巡したから、かな?
貴族の方が人数は多いし、受け始めるとまた凄いことになりそうだけど……」
ふむふむ……。でも、コネ……もといお客さんがたくさんいた方が、ルークのお師匠さん探しも捗りそうだよね。
でも、今の形で進めていても、コネまではなかなか作れなそうだなぁ……。
そう思いながら王族からの依頼を見ていると、やはり美容関連のものが多いことに気付いた。
美容関連のアイテムであれば、人それぞれの体質に合わせて、ある程度の調整ができる。
しかし逆に、それには直接依頼者と会わなければいけないわけで。
それならここら辺を利用して、何とかコネを作れないものだろうか……。
「あの、ダグラスさん。
少しご相談があるのですが――」
ひとまず私は、ダグラスさんに話をしてみることにした。