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(…うむ?)
鬼の形相でこちらへ迫るセイカの存在に、ザイファも気づいた。
返り血を全身に浴び、無言で歩み寄るその姿は、人というよりも修羅そのものだった。
「ジーファの将、ザイファだな」
「ああ、そうだが……お前は?」
「カンジュのセイカ軍、大将軍セイカだ」
戦場には無数の呻き声と悲鳴が渦巻いているというのに、
二人の将軍の間だけは、異様なほどの静寂が流れていた。
「ふっ……敵討ちか」
ザイファが、嘲るように笑う。
「敵討ち……そうかもしれん。
だが、お前を討ち取れば戦況は一変する。
今の俺は、カンジュの将としてお前を討つ」
いつもふんぞり返っていた下衆な父ダリンとは違う。
その倅ザイファは、言葉少なに剣を構え、まっすぐセイカを見据えた。
(敵討ちなどと考えるな。
今はただ、将としての務めを果たせ)
一瞬、目を閉じる。
そして、次の瞬間——
剣と剣が、激しく噛み合った。
鋼が打ち合う音が、戦場に鋭く響き渡る。
(この男…父親とは違う。強い……!)
互いに斬り結び、間合いを詰め、退き、また斬り込む。
その刹那――
ザイファの剣が、セイカの胸元を深くえぐった。
「…っ!」
激痛に、思わず声が漏れる。
(死んでなるものか…!
ユイを……皆を連れて、必ず城へ帰る!)
「ザイファァァァーー!」
怒号とともに、セイカは渾身の力で斬りかかった。
(…やはり、よく似ている。
十八年前、母を殺した、あの男に……)
噴き出す血の中で、過去の記憶が脳裏をよぎる。
母を奪われ、父を失い、弟と二人で生き抜いてきた日々——。
「死ねぇぇぇぇーー!」
振り下ろされた剣は、迷いなくザイファの心の臓を貫いた。
ザイファは、その場に崩れ落ち、即死だった。
ジーファの将が討たれた瞬間、戦況は一気に傾いた。
もはやジーファに勝利はなく、カンジュが奇跡的な勝利を収めたのだ。
地獄の底にいた兵士たちは息を吹き返し、
残る敵兵を次々と討ち取っていく。
「セイカ軍、万歳!」
「セイカ様、万歳!」
歓喜の声は、戦場を駆け抜け、
左翼から攻めていたユイの耳にも、はっきりと届いた。
(兄様…!
ジーファの将軍を討ち取ったんだ…!)
胸が震える。
(早く…早く、兄様の元へ!)
だが、まだ敵の残党が立ちはだかる。
焦る気持ちを押し殺しながら、ユイは剣を振るい続けた。
(兄様……兄様……!)
ただ一人、愛する兄の姿だけを思い浮かべ、
狂ったように敵兵を斬り伏せていく。
(早く…早く、会いたい……)