テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
(……ん?)
鬼の形相でこちらへ迫るセイカの存在に、ザイファも気づいた。
返り血を全身に浴び、無言で歩み寄るその姿は、人というよりも修羅そのものだった。
「ジーファの将、ザイファだな」
「ああ、そうだが……お前は?」
「カンジュのセイカ軍、大将軍セイカだ」
戦場には無数の呻き声と悲鳴が渦巻いているというのに、
二人の将軍の間だけは、異様なほどの静寂が流れていた。
「ふっ……敵討ちか」
ザイファが、嘲るように笑う。
「敵討ち……そうかもしれん。
だが、お前を討ち取れば戦況は一変する。
今の俺は、カンジュの将としてお前を討つ」
いつもふんぞり返っていた下衆な父ダリンとは違う。
その倅ザイファは、言葉少なに剣を構え、まっすぐセイカを見据えた。
(敵討ちなどと考えるな。
今はただ、将としての務めを果たせ)
一瞬、目を閉じる。
そして、次の瞬間—–
剣と剣が、激しく噛み合った。
鋼が打ち合う音が、戦場に鋭く響き渡る。
(この男……父親とは違う。強い……!)
互いに斬り結び、間合いを詰め、退き、また斬り込む。
その刹那――
ザイファの剣が、セイカの胸元を深くえぐった。
「……っ!」
激痛に、思わず声が漏れる。
(死んでなるものか……!
ユイを……皆を連れて、必ず城へ帰る!)
「ザイファァァァーー!」
怒号とともに、セイカは渾身の力で斬りかかった。
(……やはり、よく似ている。
母を殺した、あの男に……)
噴き出す血の中で、過去の記憶が脳裏をよぎる。
母を奪われ、父を失い、弟と二人で生き抜いてきた日々—–。
「死ねぇぇぇぇーー!」
振り下ろされた剣は、迷いなくザイファの心の臓を貫いた。
ザイファは、その場に崩れ落ち、即死だった。
ジーファの将が討たれた瞬間、戦況は一気に傾いた。
もはやジーファに勝利はなく、カンジュが奇跡的な勝利を収めたのだ。
地獄の底にいた兵士たちは息を吹き返し、
残る敵兵を次々と討ち取っていく。
「セイカ軍、万歳!」
「セイカ様、万歳!」
歓喜の声は、戦場を駆け抜け、
左翼から攻めていたユイの耳にも、はっきりと届いた。
(兄様……!
ジーファの将軍を討ち取ったんだ……!)
胸が震える。
(早く……早く、兄様の元へ!)
だが、まだ敵の残党が立ちはだかる。
焦る気持ちを押し殺しながら、ユイは剣を振るい続けた。
(兄様……兄様……!)
ただ一人、愛する兄の姿だけを思い浮かべ、
狂ったように敵兵を斬り伏せていく。
(早く……早く、会いたい……)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!