七兵衛山の東に峰があって、その尾根に沿って浜から続く道がある。昔はこの道を魚屋道(ととやみち)といって、漁師がとった新鮮な魚を 行商する者が、都や内陸の避暑地に届けるのに 馬を牽いて山を超えて谷を川に沿って向かったもんなんだよ。クール宅急便がなかった時代だからね。
そこに悪いキツネが出たというんだ。
たいていの者はキツネにばかされて ひどい目に遭っていたんだが、浜に住む若い者で 魚の荷を山越えで運ぶたびにいつも小魚を投げ与えていた者が、
すっかりキツネと友だちになった気になり、
自分だけはキツネに化かされんと 仲間たちに自慢しておった。
ある日 この男が馬を牽いて峠に向かうと、路傍に四、五匹のキツネが出てきて、
「旦那さま、ただ今わしらの倅が嫁を取るんで、
ほんの真似事ばかりで 手間は取らせぬから、
ちょっと山かげまで来てはくださらぬか」という。
男はまんざらでもなく「そうか」と言って、すっかりその気になって、魚の荷を降ろし、積み馬を放して草を食ませ、キツネたちに呼ばれるまま山かげの方へとついて行った。
すると、婿らしいのや、嫁らしく頭に赤いテガラをつけた者が並んでいて、仲人やお客など ずらりと並んだキツネたちの、まずは上座に案内されて、男は「旦那さま、旦那さま」と持ち上げられる。いくら相手がキツネだというものの 男は良い気分だった。何より目出度い席だ。
「旦那さまの荷物はみんな沼の柱にああして吊るしてあるから安心なされ」
キツネが言うので見ると、いかにも荷はちゃんと沼の柱に吊るされていた。
安心して食ったり酒を飲んだりしていると
「旦那さま、湯がいい加減なのでお入りなされ」と風呂をすすめる。
いかにも風呂場から湯気が立ち昇っているのが見える。
男は言われるままに風呂に入ると、女キツネが来て流してくれる。
男はいい気分になって、じゃぶじゃぶと湯を使っていた。
ところが俄かで大きな怒鳴り声がする。
おかしいなと思って振り返ると、
「お前は何をしている!💢」と怒って爺が駆け付けて来た。どうにも何を怒っているのかと 我に返ってよく見ると、風呂だと思っていたものは 麓の畑の糞壺で、男は裸で頭から糞を浴び 畑にも撒き散らしていた。
男は、馬も魚の荷も着るものも山に置いてきて、すっかり無くなってキツネにまんまと騙くらかされていたんだとさ。
むか〜し、ぽっこり。お話はこれでおしまいだよ☺️✨