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:ノイズの混じる通話
いつものように、5人のDiscordサーバーに通知が飛ぶ。
『スプラ上位勢ガチマ練習』。でも、今日のリオラの動きは明らかに不自然だった。
krh「おいリオラ! 右から来てるって! なんで引かないんだよ!」
mrtn「リオラ、スペシャルの吐き所そこじゃないだろ、どうした?」
ror「(少し間があって、困惑したような声で)……あ、……ごめん。……このステージ、どうやって動けばええんやったっけ……。」
grgn「はぁ!? リオラ、ここ一番得意なステージじゃん! 適当なボケはいいから集中しよ!。」
ror「(乾いた笑いで)……おん、せやな。……ちょっと、コントローラーの調子悪いんかも。」
通話の向こうで、リオラが小さく息を吐く音が聞こえた。
コウだけは、その呼吸が震えていることに気づいていた。
数日後の深夜。コウのDiscordに、リオラから個別の通話がかかってきた。
出ると、聞こえてくるのは静かな泣き声だった。
kou「……リオラ? どうしたの、こんな時間に。」
ror「(掠れた声で)……コウちゃん。……俺、さっきまで動画編集してたんやけどな。……自分の声聞いて、……これ誰やろって思ってしもてん。」
kou「え……?」
ror「画面の中で喋ってる『リオラ』が、どうしても自分やと思えへん。……スプラの操作も、指が勝手に動く時もあれば、急にボタンの意味がわからんくなる。……怖い。俺、消えていっとるんかな。」
kou「……大丈夫。僕が毎日通話繋ぐよ。画面共有して、一緒に練習しよう。何回でも、僕が教えるから。」
ror「……おん。……ありがとう。……コウちゃんだけは、……忘れたくないわ。」
さらに一週間後。
いつもの5人通話に、リオラが入ってきた。でも、彼は一言も発さない。
krh「お、リオラ来た。準備いいか? 今日はリグマだぞ。」
ror「(長い沈黙の後……とても丁寧で、他人行儀な声で)……あの。……すみません。」
grgn「……え? リオラ、なんやその声。」
ror「……ここ、何のグループですか? ……僕のDiscord、勝手にここに入ってたんですけど……皆さんは、僕の知り合い……なんですか?」
サーバーが、一瞬で凍りついた。
誰も言葉が出ない。通話のアイコンが光っているのに、そこにはもう、自分たちの知っている「リオラ」はいなかった。
mrtn「……嘘、だろ……。」
kou「(震える声で)……リオラ。……僕だよ、コウだよ。毎日、寝るまでスプラの話してたじゃん……。」
ror「……コウ、さん……? ……すみません、……思い出せなくて。……僕、スプラの実況をしてるんですか? ……何も、……分からないんです。」
リオラの一人称が「僕」に固定され、敬語になった。
それは、画面越しの彼が、完全に「他人の世界」へ行ってしまった合図だった。
それから、5人での実況は止まった。
リオラは活動を休止し、通話にも来なくなった。
でも、コウだけは毎日、メッセージを送り続けた。返信がなくても、今日あったこと、スプラのアプデのこと、昔の思い出……。
ある日、一ヶ月ぶりにリオラから通話がかかってきた。
kou「(慌てて出る)……リオラ!?」
ror「(少し懐かしそうに、でも寂しそうに)……こんばんは、コウさん。……毎日、たくさんのメッセージ、ありがとうございました。」
kou「……うん。……少しは、思い出した?」
ror「……いいえ、全く。……でも、コウさんのメッセージを読んでると、指が勝手にキーボードを叩きたくなるんです。……あ、……今、少しだけ思い出しました。」
kou「(期待に胸を膨らませて)本当!? 何を……!?」
ror「……僕、……コウさんのこと、『コウちゃん』って呼んでませんでしたか?」
kou「(涙が溢れて、声が詰まる)……っ、……そうだよ。……そう呼んでたよ、リオラ……。」
ror「……ふふ。やっぱり。……なんだか、その名前を呼ぶ時だけ、胸の奥がすごく熱くなるんです。……名前も、顔も、一緒に遊んだ記憶も全部ないのに。……心だけが、君を呼べって言ってるみたいで。」
kou「(泣きながら笑って)……それでいいよ。……また、一からリグマしよ。……僕が全部、キャリーしてあげるから。」
ror「……生意気ですね。……でも、……お願いしようかな。……コウちゃん。」