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ダンス種目『パソドブレ』闘牛を表現したダンス.女性を魅せるダンスが多い中,唯一男性の魅力を引き出した種目.
「女性は,ケープや牛を表現します.」
と先生.
「(私は牛….)」
「男性は闘牛士として勇ましさを表現してください.」
「んなもん余裕だろ.」
「(早くも勇ましさが殺気となって表現されている!!)」
先生のお手本を見てから,いざレッスン開始.
「おい!!あん時はフツーに踊れてただろ!!」
「ワルツとはステップが違うからー!!」
ステップの練習から早くも波乱の予感.
「また湿布の数が増えたか.」
「うんまぁ,普段使わない筋肉使ってるからね.」
あれから3週間,初めて2人で踊ってみる.
「お互い先生と踊ってたから,リードとかテンポとか,やっぱ違うね.」
「だな.」
「もう1回お願い.」
「おう.」
「(爆豪君の息遣い・間の取り方・表情,よく見て…!!)」
と深く考えていると振り付けが疎かになり.
「っと!!大丈夫か??」
「だっ,大丈夫!!」
よろけたのを支えて貰うことも度々.
仕事の合間にも練習を重ね,本番1週間前.衣裳合わせの日.
「見てー!!めっちゃテンション上がるね!!」
「…だな.」
試しに踊ってみると.
「ジャージで踊るより,世界観に入り込みやすくて良いね.」
「そうだな.結構直に肌に触れたけど,その辺は大丈夫か??」
「あっ,あわわっ!!!!!」
「(余計なこと言っちまった….)」
向かえた本番.
「(あー.もっと踊っていたかった….)」
この数分のために何ヵ月も過ごした日々があと少しで終わる.
はずだった.
「また観てやがる.」
「ふと見返したくなるの.この時が1番キラキラしてたなぁと思って.」
話を戻して,あれから1年後の今日この頃,彼の部屋のテレビで当時の映像を観る.
「何だかんだ残してるんだから,自分だってたまに観てるんでしょ??」
「ほっとけ.」
「私が牛の役ってなった時,内心笑ったでしょ.」
「笑ってねぇよ.なんつーか,意外だった.ほとんどのダンスが女性の優雅さを魅せる振り付けだから,まさか牛の役があったなんて.」
「まぁそれは確かに.ベタなワルツとかじゃなくてラテン.ラテンの中でも男性を魅せる種目.次期No.1ヒーローにふさわしいダンスだったね.」
「…からかってんのか??」
「そう言う訳じゃなくて.なんか,皆が面白がって企てたものがこんな形で成し遂げられて,面白くないって思う女の子多そうだし.“お前は所詮牛,ちょっとちやほやされたくらいで調子乗んな”ってアンチも湧いてきそうだし…」
「わーかった!!もうそれ以上喋るな.」
隣に座って肩を抱き寄せる.
「これだから自己肯定感低め野郎は.この俺のリードに食らいつけたのはお前くらいだ.」
「確かにハードだったわ.1人だけレベル高いし.」
「そんでもって,この先も俺の隣にいるのはお前であってほしい….」
「…牛として??」
「牛から離れろ??」
「ありがとう,そんな風に思っててくれて….私も同じこと思ってた.」
「そうかよ….」
「あれ,ドキュメンタリーも録画残してるの!?観よう観よう!!」
「(雰囲気ぶち壊し!!でも,そういうあっけらかんとしてる所に案外救われたりしてるんだよな.)」
彼の青眼に思わず話を逸らしてしまったのをだいぶ後悔した私.
恋愛はダンスのようにはうまく立ち回れない.