「やあ。【月の精霊】ちゃん。やっと起きたのか?」
リュシアンが僕の顔を覗き込んだ。
「ん…ここどこ……?」
「あ~まずは運んでくれてありがとうでしょー!?全く急に倒れるんだから~。」
「その話し方辞めてくれる?寝起きがこれとかキツい……」
「はぁぁぁあん??」
「とにかく質問に答えてくれるかな?」
やっと僕のターンが来た。
「ああ。ここは宿だよ。こう見えてもボクは金持ちだからね」
彼は冗談混じりに言った。
僕は夢であるはずなのにグッタリと疲れていたが、リュシアンのノリで楽しくなった。
「んじゃボクは先出てるね~」
……
「ねぇリュシアン。」
「はーあーい」
リュシアンは僕の方を見ず、上着を羽織った。
「君は一体何者なんだ…?」
彼は一瞬ピタっと動きを止めた
「ボクはただの吟遊詩人さ。」
「じゃあ何で昨日僕の存在を知っていた?“やっと来た”ってどう言う意味なの?“月の精霊”って何?
「一気に質問しないでくれよ。」
リュシアンは僕の顔を見ない。
「…魔法使いかなんかなの?」
「……」
「ねぇ。」
「ボクの存在を知ってなんになるのさ。ボクは君に話す気はないよ。ただの詩人だってば。」
リュシアンはちょっと低い声で言った。
きっと怒らせてしまったのだろう。
「…ごめん。色々踏み込み過ぎて。誰しも話したくない事はあるのに……」
そう。少女が話してくれなかった様に。
「うん。全然いいよ。謝ってくれてありがとう。」
「感謝はおかしくないか?」
「おかしくないって笑」
「さっき変な夢を見たんだ。」
「どんな?」
僕達は朝の光が遮る木陰で雑談をした。
「…僕にはずっと探してる少女がいるんだけどね。」
「うん。」
彼は“知っている”と言わんばかりの眼差しで頷いた。
「昨日その少女が出てきたんだ。
彼女は『君と約束した“あの場所”で待っている”って言っていたんだ。
でも僕はあの場所が思い出せない。」
暫くの沈黙の中、リュシアンが口を開いた。
「ボクがヒントをあげようか?」
……
「…きっとまたあの光が指す所で 罪人を殺め
魔女を忘れよう。」
あの光が指す所……
「君はさ、ボクの正体を知りたいと言っていたね」
「ボクは『ボクの正体を知ってもなんにもならない』と言ったが【月の精霊】ちゃんの励ましになるかもしれない。
そんなにボクの正体を知りたいかい?」
「知りたい。」
何故少女の約束の場所を知っているのか、
何故ボクを【月の精霊】と呼ぶのだろうか
「……夜道を歩く1つの影があった
その影は“人間”という型に収まらない 夜道から咲く闇の花が 影に覆い被さっていた
それでも影は苦しそうではなかった
まるでその花が綺麗だと言っている様な気がした
闇を切り裂く風が影のローブを吹き飛ばした
影の正体はある少女だった
『形ある物は崩れていく 名残惜しさも残さずに…どうか私の体も崩れていきます様に』
彼女は自分が崩れ落ちていく事を望んでいた
彼女と絆を深め合い、彼女の身体にヒビが入った 『月の精霊よ。どうか私を見つけて』
彼女のただ1つの願いをボクは叶えるしかなかった ボクは【月の精霊】を探した 」
もしかしたらリュシアンと少女は会った事があるのかも知れない。
でもリュシアンがあまりにも悲しそうで苦しそうな表情をするので僕は深追いできなかった。
「影の名前は…“セツナ”と言った。」
セツナ……!
やっぱり僕は彼女の名前を思い出したみたいだ。
「これを君に…」
リュシアンから渡されたのは十字架のペンダントだった。
「神から背く者は神の象徴である十字架も持ってはいけないと影が言っていた。」
「彼女…セツナは魔女になったのか……?」
「…影はよく僕に君の話しを聞かせてくれた。
だからボクは君の事を知っている。
影は君の事を探している。」
リュシアンの瞳が潤っていた
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