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2025年5月25日、ホニャイヤダ本拠地に暗い空気が流れていた。
「本隊長!このままでは奴らに対抗できません!我らも武力を用いるべきです!」
沈黙の中、一人の部隊長が声を上げるとそれに連なるように他の部隊長も声を上げだす。
「あぁ!攻撃しないと奴らを止められねえ!」
「そうだ!だからサドルをブロッコリーに替えられるのを止められなかったんだ!」
「ばかやろう!本隊長はな!その、目的の為なら相手を傷つけてもいいって考えが宇宙人野郎と同じだからやらねぇんだろうが!あんな自分たちの面白いの為に人を傷つけるような奴らと同類に成り下がっていいのか!?」
「じゃあ、目的の為なら俺たちは傷ついていいのかよ!前回のアブダクション時、俺の部隊は退避行動すら無力化されて相手の攻撃になす術もなく一方的にやられたんですよ……相手が攻撃する以上、我々も攻撃をしなければ防御すらできません!」
「しかしだな!その拳で殴った時、お前等は奴らと同類になってしまうんだぞ!」
「しょうがないでしょ!話が通じるような相手でもないじゃないですか!なら……もう攻撃するしかないんですよ……そうでなきゃ……部下も誰も守れないんです……」
「み、みんないったん落ち着きなさい!」
フミネが意見のぶつかり合いを止める。
「申し訳ありません、副本隊長……」
「貴方達の意見はどちらも至極真っ当よ。だからこそ落ち着いて話さないといけないわ。まずはT市内全ての自転車のサドルをブロッコリーに替えると事前にモパンから予告されていたのに止められなかったのかを冷静に事実ベースで、何が出来て何が出来なかったのか振り返りましょう」
その後フミネの言葉で隊長たちは冷静になり会議は終了した。
しかし、その間にゼコウは一言も話すことは無かった。
「いやぁ~今回も最高のドッキリだったねぇ!今回は規模が大きかった分、見ごたえも大きかったね~!」
「あぁ。ゼコウ達もどう動くかは事前にわかっていたが想定以上に粘るからいい絵が撮れたな。奴のあの粘りには感服した。しかし、全てにおいて劣っている彼らでは我らには勝てないだろう。もう少し手心を加えるべきかもしれんな」
「確かにそうだね~。事前に予告をしていたりしても彼らじゃ僕らを止められないもんね~」
「圧倒的勝利は意外にも面白くない……」
「じゃあ、もうちょっとゲーム性のある公平な戦いを企画しようか~それならゼコウのあの驚異の粘りや発想力を生かせると思うんだ~」
「うむ、それならより接戦を演出できるかもしれんな」
「ゼコウも気になるが、あの男が俺は気になる。やはり変だ……」
「あの部屋を爆破されても笑ってた「笑い男」だね~。今回も自転車のサドルが変わってたのに笑顔で走って行ったもんね……」
「あいつだけブロッコリーの別種を使ったからじゃないのか?」
「しょうがないじゃん!足りなかったんだもん~」
「その結果、周りとの差別化が出来て見ごたえがあった……」
「でしょ!?なんかあいつ面白いし、この感じなら次のメインのターゲットにしてもイケるかな~」
「ほう、次のドッキリが決まったのか?どんなのだ?」
「うん!あの「笑い男」とゼコウをメインにした企画だよ!それはね~」
2025年6月4日、ホニャイヤダ本拠地にて。
ゼコウは悩む。誰かを守るために他者を傷つける事を正当化していいのか。もしそれでモパンを完全に止める事が出来たとしても、やっている事は奴らと同じなんじゃないのか。そう思って武力を用いずモパンを止めようとホニャイヤダを設立した。だが、奴らの技術は凄まじいものがあり止める事はおろか撤退さえ出来ない状況。ただ面白いという理由だけで人に危害を加えてゲーム感覚でこのまま止められずにいれば我々を完全排除をするとまで言ってくるような奴らとは話し合いなど出来る訳もない。退路無き状況で出来る事は1つしかない。答えは彼の中ですでに決まっていた。しかし、本当にそれでいいのか?。彼はまだ決断出来ずにいた。
「このままではまた誰かを守れずに終わってしまう……。でも、どうすればいいんだ……。俺はリーダーでいる資格はあるのか……」
あの日の会議からゼコウは1人部屋に籠ったまま悩んでいた。そんな時、部屋の扉が開く。
「ゼコウ、あの話、まだ悩んでいたのね」
フミネは悩むゼコウを心配するように話しかける。
「……あぁ、正直どうすればいいのか、まだ決めかねている……」
「戦いなさい」
「え?……」
突然のフミネからの言葉に動揺を隠せないゼコウ。フミネは続けて話す。
「戦うのよ、自分自身と。自分自身と悩んで戦って答えを決めるの。それが貴方の戦いよ。でも、今戦っているのは貴方だけではないわ。人や仲間を守るために自身の技術を高めようと戦う者、安全に退避するための技術を開発しようと戦う者、それぞれが自分に出来る戦いをしているわ。もちろん私もね。諜報のプロとして情報を集めてみんなをバックアップできるように戦うわ」
「フミネ……、しかし俺にはみんなに……」
ゼコウが話し終わる前にかぶせてフミネはさらに話す。
「貴方が逃げることは許されないわ。なぜみんなが戦うことを選べたと思う?貴方がいるからよ。組織を導く貴方を信じてみんなそれぞれの使命と戦うことを選んだの。だから、貴方も自身と戦うことを決めなさい。そして答えを見つけなさい。それが貴方のするべき事よ」
ゼコウは思い出す。これまでホニャイヤダとして行動できたのは、全てみんなが自分を信じてついて来てくれたからだと。そんな彼らから俺は逃げていた。彼らの気持ちを受け止めることも、自分自身の決断からも。
――みんなが僕を信じて待ってくれている。誰しもが自身に与えられた何かと戦いながら。なら俺が負けるわけにはいかないな!どんなに迷っても負けて逃げるわけにはいかないんだ!
「……ありがとうな。フミネ……」
「何よ感謝なんていらないわ!私は副本隊長としての仕事をしているだけよ。団員をまとめて貴方を支えることが私の仕事だから」
「そうか、やっぱりフミネは優しいよな。俺、自分と戦ってみるよ」
「それでこそゼコウよ。はやく本隊長として仕事が出来るように自分を倒して来なさい!」
そして背中を叩かれるゼコウ。
「いったぁ~」
「ふふふ!外でみんなが待っているわよ!」
「あぁ行ってくるよ!」
そして、ゼコウは部屋を出る。
部屋の外では久しぶりに見たゼコウの姿に団員たちが驚く。
「ほ、本隊長!?」
「みんな!俺はみんなからも自分からも逃げていた。すまなかった……。正直今でも答えは見つかっていない……でも、俺はもう逃げない!俺たちに出来ることをもう一度考えよう!もう誰も、傷つけさせやしない!これから作戦会議だ!」
盛り上がるゼコウと団員達。しかしフミネはそれを見て笑みを浮かべつつも強く胸を押さえていた。
――私に言われなくてもあなたは立ち直れたはずよ……本当に逃げているのは私なのにね……。
そしてフミネは本拠地を後にした。
そして、彼らの会議が中盤に入る頃に奴らはやって来た。
「私たちの開発したこの装置「DSD」ですが、相手の三半規管に乱れを発生させて一時的に行動不能にすることが可能です!」
「よく作ってくれた!それなら被害者を保護した後に煙幕などと併用することで安全に退避することも可能かもしれないな!」
「はい!ありがとうございます!」
「う~ん、確かにこれなら僕たちに効果的かもしれないねぇ~。地球人と同じでバランス感覚機能のある三半規管はついているから食らったら動けなくなるかも~!」
一人が喋った瞬間、場の空気が凍り付いた。すぐさま距離を取ってゼコウをかばうように陣形を作る。
「どこから入って来た!ジダイ!」
椅子に座ったままでジダイは話す。
「いやいや、普通にさっき入り口から入ったよ。それに僕だけじゃないよ~」
「あぁ、我らもいる」
「失礼している……」
声はゼコウの真後ろから聞こえる。全員がすぐさま振り向くとそこには誰もいない。
「こっちだ。まぁ気付けるわけもないか」
気付くと先ほどまではジダイだけだった場所にアルパとイゴエが何食わぬ顔で座っている。
「な……」
「これでわかっただろう。貴様らでは我らを止める事など一生出来ない」
「そんな君たちに大チャンスだよ~。明日、僕たちはある会社の一人をターゲットにまた行動するよ。内容はその子の身の周りで3回、物理的に危害を加えるよ~。それを止めるには僕たちと直接ゲームで勝負して勝つこと!一人に勝つごとに危害は免除するよ、一切の宇宙技術を使わないで相手してあげるからさ~」
「……なぜそんな事を提案する?」
「そりゃ~、そっちの方が面白いからだよ~。ただ、君たちが一人も捕まえられなかったらその子だけではなくこのT市全域に危害を与えるよ~」
「なんだと……」
「それにこれは提案じゃない。決定通知だよ~。それじゃ、明日2025年6月5日の8時スタートね。ターゲットはT市のT原商事で働く福永幸太。会社やターゲットに直接関わったらその時点で君たち消すからね~」
「な……」
「それじゃ、また8時前に来るからね~!」
「さらばだ」
「失礼した……」
そう言うと彼らは、一瞬でその場から消えた。さっきまでの出来事にみんな混乱している。
「おい、さっきのターゲットの会社って……」
「あぁ、フミネさんのいる会社だ……」
「なんで、ターゲットの名前を?」
「みんな!俺たちの使命を思い出せ!戸惑う事よりすべき事があるはずだ!」
ゼコウの声が響く。戸惑っていた団員達もその言葉にするべき事を思い出す。
「了解です!俺たちの使命は奴らから人々を守る事ですから!」
「こんなにコケにされて黙ってられるわけないっす!」
「よし!早速作戦会議だ!」
ゼコウ達は作戦会議を行った後、情報収集に出ていたフミネに明日の事を伝える。
「え、福永君が……どうして彼らに!?」
「わからない。だが、何かしらの意図があっての事だろう」
「そ、それは……」
「だが、俺たちが奴らを止めて見せる。しかし福永君にどんなことが起きるのかわからない。その子に何も伝えられないがフォローしてやってほしい」
「わ、わかったわ……」
「では、明日は頼む!」
「えぇ……」
ゼコウはさらに団員とのミーティングの為にその場を後にする。
――モパン……、どういう意味なの……。
そして夜が明けて、2025年6月5日、7時30分。奴らがやって来た。
「やぁ、ゼコウ君!今日は頼むよ~!」
「俺たちは必ず貴様らの企みを阻止して見せる!」
「いい意気込みだね~。それじゃゲームとルールを説明するよ~」
「これから君たちには1時間ごとに僕たち一人一人と幸太への被害免除をかけて戦ってもらうよ~。勝つごとに次の1時間は被害が免除!負けると被害が発生しちゃうからね!。勝負は合計3回の3時間。もし君たちが全敗したら幸太君とT市全域に特大の被害がやって来るよ!。あ、もちろん、宇宙技術は使わないから安心してね~」
「じゃあ、初めの8時から9時の勝負は僕、ジダイが相手だよ~。ゲームは日本古来より伝わる実践的訓練「鬼ごっこ」だよ~!」
「お、鬼ごっこだと!?……なんだそれは!?」
「え、知らないの~?」
「ほ、本隊長!鬼ごっことはホニャ国で言う抓人遊戲です……」
「あ、なるほど、あれか。よし勝負だジダイ!」
「そっか、国によって名前もルールも違うもんね……。じゃあ改めてルールを説明するよ~!」
ルール①
ホニャイヤダ全員が鬼で僕を触って捕まえられたら勝ち!
ルール②
ホニャイヤダは武器などの使用は良いけど、乗り物の使用はどっちも禁止!
ルール③
範囲は半径5キロ圏内の屋外のみ!
「以上だよ!こう見えても僕、走るの速いんだよ~」
「ふん、こちらには何万と団員がいるんだ!負けてたまるか!」
「後悔しても知らないよぉ~!」
「まもなく8時だ。ホニャイヤダはジダイが動いてから10秒後にスタートだ。10、9……3、2、1!」
8時になった瞬間、ジダイはその場から消えた。それを見て唖然とするホニャイヤダ。
「おい、10秒経ったぞ。お前らもスタートだ」
「へ?……よっしゃ行くぞ!」
そして、彼らの鬼ごっこが幕を開けた。
圧倒的な速さで消えたジダイを追って2万人の団員はエリアの全域にくまなく分散を始める。
しかし彼らの努力は虚しく1時間経ってもジダイを捕まえることは出来なかった。
「はい、お疲れ~。人数多くても捕まえられなかったね~」
「んだぁっはっ……ふぅぅん……」
「え、なんて言ってるの?」
「く、くそぉ……どうして見つかりすら、しなかったん、だ……」
「へっへっへ~、それはねぇ。僕、この場から逃げてなかったからだよ~」
「ど、どういうことだ……」
「実は僕たちは擬態と言う能力があるんだ~。だから始まった瞬間に透明になってみんなが走っていくのを見送って、時間になるまでそこらへんで横になってたんだぁ~」
「そ、そんなのありかよ……」
「ありだよ?これは宇宙技術じゃなくて僕たちの能力だから~。それじゃ幸太君に嫌なことが起きるよ~」
「すまない、幸太君……。だが、次は必ず守って見せる……」
一方その頃、T原商事。
「うわっ!コピー機詰まっちゃったよ~。あ、でも直すのに時間がかかるけど、その分デスク仕事から解放される……!ラッキ~」
――あ、福永君!。まさか、ゼコウ達負けたのかしら……。いや、彼はいつもあんな感じよね……。一体どっちなの!?
「まもなく2回戦目。今回は私、イゴエが相手。ゲームは日本で古来より伝わる勝敗を決める天下分け目の大勝負「じゃんけん」だ……」
「じゃ、じゃんけんだと……。じゃんけんってな……」
以下略。
「よし分かった勝負だ!」
「世界は広いのだな……。ではルール説明だ……」
ルール①
勝負はイゴエ1人とホニャイヤダ20人による20回戦。
ルール②
最初はグー、じゃんけんほい。でスタート。
ルール③
手はグー>チョキ>パー>グーの強さで勝敗を決める。
「以上だ。問題ないな……?」
「あぁ、これは小細工は出来ない真剣勝負だ!」
「かかってこい……」
その後、イゴエの19人抜きで最後の1人ゼコウとの一騎打ち。
「最後の一人だなゼコウ……」
「負けない、いや負けられないんだ……。勝負!」
ゼコウは拳を強く握り目の前に持ち上げ気合を入れる。
「「最初はグー、じゃんけん、ほい!」」
「お前の負けだ、ゼコウ……」
「な、なぜだ!」
「お前の考えなど読めている。出す前にグーを見せて印象付けることで自然とそれに勝てるパーを出させようとしたのだろう……。だが、この俺にはそれでは勝てない……」
「な、なんだと……」
「俺は手を出すギリギリで何を出すのかを見る事が出来る動体視力がある。そんな小細工は通用しないのだ……」
「そ、そんなのずるじゃないか!」
「ずるではない。もとよりルールには相手の手を見て出してはいけないとは書いていない。さらに、この技術はじゃんけんを極めた者なら使えて当たり前の基本技術だ。Gongoreで検索しても出てくるぞ。つまり貴様の敗因はじゃんけんを舐めすぎたことだ……!」
「本隊長!確かに調べたら出てきましたぞ!」
「そ、そんな……。じゃんけんにそんな技術があったなんて……」
「それでは、幸太に災難が降り注ぐ……」
「すまない幸太!俺がじゃんけんを舐めてたばかりに……。しかし、最後だけでも勝って見せる!」
「うわっ、なんでマクロが上手く動かないんだ……。誰か弄ったのかな~。でも大丈夫、僕MOSのExcelの資格持ってるもんねぇ~。復習にもなるし時間も潰せるしすっごくラッキーじゃないかこれ!」
――また、なにか起きたみたいね……。いったいこれはどっちなの……!?
「それでは最終ゲーム。最後は私、アルパだ。対戦ゲームは「にらめっこ」だ」
「な、なんだと!?以下略」
「ルールはターン制で制限時間5秒以内に相手を笑わせたら勝ちだ。俺とゼコウのタイマンで構わないな?」
「あ、あぁ……構わない……」
――一体どういうことだ。相手を笑わせたら勝ちのゲームで人の命を懸けるのか……。やはり奴ら狂っていやがる……。
「それでは先攻後攻はじゃんけんで決めよう。構わんな?」
「あぁ……じゃんけん、ほい」
「私の勝ちだな」
――しまったぁ……。また、じゃんけんで勝負してしまった……。まずい、考えすぎて冷静さを欠いているな。落ち着くんだ。とにかく冷静に……これまでの人生で学び経験したことを全てここで活かすんだ……!まずは相手の笑いを防御せねば!
「それでは行くぞ!笑うと負けよあっぷっぷ!」
アルパによる宇宙レベルの変顔がゼコウを襲う。
――な、なんて鋭い変顔なんだ!?ガードの上からでもこの威力……冷静さを欠いていたら一発でK.Oだったぞ。これが宇宙レベルの変顔か!?こんなの何度も食らってしまったらまずいぞ……。
「5秒経過。次ゼコウだ……」
「ではいくぞ、笑うと負けよーあっぷっぷ!」
ゼコウの人生の集大成の変顔がアルパに放たれる。
――ぐっ……なかなかいいパンチだ。しかしパワー不足だな。宇宙で鍛えし我々のレベルには遠くおよ……なっ、なんだ、このダメージは!?じわじわとダメージが蓄積されてガードが緩んでしまう!?こいつ……なんて技を……。
「5秒経過。次アルパだ……」
彼らの勝負は長期戦となった。
「はぁ……全然終わらないねぇ~」
「本隊長っ!頑張れ!(全然面白くないけどっ!)」
そして、彼らの低次元なにらめっこが繰り広げられる中、段々と天候が変わり始めて突風が吹き始める。
「ねぇ~そこの君。なんか天候荒れてきたから部屋に移動しな~い?」
「そ、そうですね~。本隊長!そのまま部屋に移動してください!」
「アルパ~そのままあっちに向かってよ~」
にらめっこに全集中している彼らに周りの声など耳に入ってはいなかった。
――まさか、地球人にここまでの技を見せられるとはな……やるではないか!……あっぷっぷ!
――なに、そっちこそ。宇宙ってのはこんなにも凄いんだなっ!……あっぷっぷ!
彼らの意識が何処かに行っている間に天候はさらに悪化する。そして、とてつもない突風と激しい閃光が彼らを照らすとその瞬間、地割れのような轟音が二人を現世に呼び戻す。
「っは!?なんだ、何が起きた!」
「アルパ、ゲームは中止だ!なにか、何かがおかしい……」
「どういうことだ……」
立っていられないほどの激しい風と雷が彼らを襲う。
「ぜ、全員本拠地に避難しろ!お前らもだモパン!あぶねぇ!」
ゼコウの言われるがまま、這いつくばりながらも団員やモパン達は施設に逃げ込む。それと同時にゼコウはモパンに詰め寄る。
「おい!これってお前らの所為じゃないよな!?」
「あ、当たり前だ!我らはルールに忠実!こんなことはやらない!いや、勝っていてもやらん!」
そして彼らを激しい地震が襲う。
「みんな、何かの下に隠れろ!」
その後、激しい揺れが続いた後、ボロボロになりながらも彼らは外に出て周りを見る。そこには崩れた建物と火が燃え広がる街並みだった。
誰もがその光景を見て言葉を失った。しかしその沈黙を2人の声が破る。
「全員!使命を果たせ!」「モパン、発進準備!」
2人の声を聞いたその場の全員が今、自分がすべき事を考え動き出す。
ゼコウはそれぞれの救助部隊を編成し、編成された陸上部隊はアルパにより高機動モジュールをレクチャーし直ちに救助に向かう。
イゴエは船のハッチを開放して発進準備に取り掛かる。そのハッチから航空部隊の団員は救援物資を運び入れて救助に向かう準備を始める。
ジダイと情報担当団員たちはすぐさま被害状況の把握のためにそれぞれの通信を連携させてデータ共有を始める。
その後、彼らが行政などが混乱で動けない間に初期消火や倒壊家屋からの救助が迅速に行い、その後に本格的に隣の市や町からの救助活動が開始された結果、死者をゼロに抑えることが出来た。しかし命に別状はないが入院を要する者や軽傷の被害者は数多く存在した。
だが彼らの行動はモパンの大規模記憶改ざんにより誰も覚えておらず、ニュースや新聞では国の迅速な行動によって多くの命が救われたと賞賛の声が上がり、その結果T市の奇跡とまで呼ばれる事になる。
そして、この令和7年度T市複合災害より1週間が過ぎる。
T市仮設病棟。
「福永君……目を覚まして……」
「……」
これにて第10話、おしまい。