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自分の部屋でベッドの上で横になり。じっとスマホを握りしめていた。

かれこれ一時間ほど、絢斗君に送るメッセージを迷っていた。


「もう、こんな時間」


スマホの画面の時計は23時を回っていた。

あれから二日経って気持ちはだいぶ落ち着いた。絢斗君からは何も連絡は無かった。それでいい。お互い冷静になった方がいいと思えたから。


これはケンカとかじゃなくて。

きっと、気持ちのすれ違い。素直にそう思えるようになっていた。

写真のことも、松井さんのことも、絢斗君なりの私への愛情、好意には違いない。


それはあまりにも深くて。執着と呼べるほどのものだと分かった。


「私は……それを受け止めたいと思う。でも|真実《理由》を話してくれないと、受け止め切れない」


普通の恋愛だったら、きっとここで終わってしまっても当然だろうと思った。

契約妻から始まり。

大量の写真や試されたことは、百年の恋も冷めてしまっても何もおかしくない。


しかし、私自身も絢斗君と同じなのだ。

高校生の時からの長年の想いは──言い換えれば執着に間違いない。


「こんなことで私は終わりたくなんかない。私だって絢斗君に執着している。絢斗君しか欲しくない」


他の人と恋愛なんて今さら想像が出来ない。


それに絢斗君はいつだって私に、好きだとハッキリと好意を示し。母の事も含めて守ってくれた。ちゃんと優しかった。いつも私のことを一番に考えてくれていた。


絢斗君は執着だけじゃない、決してエゴでもなく。紛れもない愛情もあったのだと、私は信じている。


「だから、ちゃんと伝えないと……」


心の準備が出来てきたと思い、ギュッとスマホを握る。

やっと気持ちが整ってむくりと起き上がる。


手にしっかりとスマホを持ち、絢斗君へのメッセージを打ち込む。


指先を動かしながら考える。


絢斗君の口からハッキリと『過去は要らない』と聞いた。

絢斗君は高校生のときのことを覚えている。その確信をやっと得た。

しかし、私と再会して契約妻のことを持ち出した絢斗君の心中は分からない。


本当のことを聞かなければ分からない。

今だって、絢斗君を理解したい。深く知りたい気持ちに変わりはない。


今それらを聞きたくなるけど、それを我慢してメッセージを打ち込んだ。


「よし」


絢斗君に送るメッセージを打ち終えて、送信前に何度も読み返す。

散々迷ったけど。簡潔に要件だけをまとめることにした。


『連絡遅くなってごめんなさい。ここで全部のことを、今まで黙っていたことを話したいです。待っています』


日付は今度、絢斗君とドライブデートに行こうとしていた日だからきっと来てくれる。

時間はあの時の同じ時間。待ち合わせをした夕方の五時。


場所は──高校生のとき、約束をした神社の前を指定したのだった。


「私たち、ここでお別れをしてしまったから。ここからまた出会えたら、きっと」


願いにも近い思いで、ドキドキしながら送信ボタンを押した。


その直後。

絢斗君から直ぐに返事があり。

『分かった。必ず行く』とだけメッセージを受信した。

メッセージを絢斗君に送り。

一日千秋の思いをしながら約束の当日を迎えた。


メッセージを送ったあと、もっと違う内容が良かったかも。

電話で声を聞きたかったとか。絢斗君、怒ってる? 食事ちゃんと食べてくれたかな? とか。様々な思いが押し寄せてずっと悩んでいた。


そして何度も「それも含めて今日、言えば大丈夫」と、胸のうちで繰り返した。


約束した神社はここから少し離れている。

かつての地元だった場所は、ここからだと。電車で幾つか、乗り継ぎをしなくてはならない地域。

だから、早めに支度を進めて家を出ようと思った。


しかし。今日は生憎の曇り空で、朝からの予報では夕方には雨模様になる予報が出ていた。


「こんな時に雨なんか、降らなくてもいいのに」


一人、部屋で不満を漏らす。

少し遠出になるから動きやすい服装がいいのは分かっていた。しかも雨の予報もある。


でも、用意した服装は着物だった。

白地に百合の花が描かれている小紋。隣には雨コート。玄関には先に雨草履の準備もした。


本当はあのとき、着ていた白地に紫陽花柄の浴衣を着たかったが。引越しや父の葬儀のバタバタで、いつの間にか手元から消えていた。


だからそれに近いものを選んだのだった。


「こんなことをしてもあの時をやり直せるなんて思ってない。もう過去だもの。でも、ずっと言えなかったことを、ちゃんと言えないと。きっと私も絢斗君も過去から進めないよね……」


時間だけが過ぎて、気持ちはあの夏の日。

高校生のときから、動けないでいたとやっとわかった。

大人になったからこそ、上手く気持ちを背けることが出来ただけ。


「もう、背けないようにしないと」


これで絢斗君があの神社の前で過去を拒否してしまったら、きっと私は絢斗君と一緒の未来を描けないかも──と思った。


ううん、そんなことはない。

大丈夫。絢斗君ならきっと。

また胸中で繰り返す。


弱気虫を追い払い。着物をベッドの上に置いて。まずは髪をまとめてから、着物に着替える準備を整えた。

久しぶりに着物を着ると、帯が背筋をしゃんと伸ばしてくれるようで気持ちが良かった。

母には夕飯はいらないと、一言声を掛けてから家を後にした。


電車に乗りこむと人はまばら。

昼下がりの時間帯のこともあるけど、市内から離れた場所が目的なので車内は空いていた。

お陰でゆっくりとボックス席に座れることが出来た。

がたんと揺れる車内で絢斗君と再会した日。

こうして電車に乗って、弁護士事務所から帰る途中物思いに耽ったなぁと、なんだか懐かしくなった。


「懐かしく思うのは、いろんなことがあり過ぎたせいかな」


窓を見ると曇天。

暗い雨雲が迫っていると思った。


「せめて絢斗君と会うまでは雨、降らないで欲しいな……」


待ち合わせの場所まで、まだ時間は掛かる。

それでも一刻一刻と、絢斗君に近づいていると思うと、ちゃんと気持ちを伝えれるだろうか。

絢斗君は本当に来てくれるだろうかと、いろんなことが頭によぎって胸がざわめく。


ふうっと深呼吸して到着まではしばし。心を落ち着けようと、じっと曇天の空を見つめることにしたのだった。

二度、電車を乗り換え。

神社の最寄り駅に着いたころには懸念していた雨がしとしと、と降っていた。

駅のすみっこで、若草色の雨コートを羽織り。傘を片手に神社を目指した。


ここは昔、私が住んでいた地域。

この駅はあまり使わなかったが、それでも駅に降り立ち。駅から足を進めて見ると。

まだ角にあるコンビニはそのままで。

駅前のパン屋や小さな本屋。大きな窓ガラスの美容院も昔と変わらなくて。

歩いて行くと潰れてシャッターが閉まったお店や、新しく出来たドラッグストアもあったけど、神社への道は迷うことはないと思った。


歩道の水たまりを避けながら、神社に向かう。


この辺りは神社が近いからか、閑静な住宅地だった。晴れていたら、きっと気持ちの良い散歩道だろう。


今はあいにくの雨。それでも久しぶりに訪れた、かつての地元は懐かしさで溢れていた。


「学生のときの記憶って、こんなにも残っているものなね」


いつの間にか忘れていたことを、ふつふつと思い出す。

それと同時に父との思い出も蘇り。

母が中々、この地元に足を運びにくいと言っていたことも思い出した。


「決して楽しい思い出ばかりじゃないけど。どれも大切で……」


過去は要らないと言った絢斗君を思うと、切なくなる。


雨音のせいもあって、ノスタルジーな気持ちに浸りそうなるけど。

いつまでも思い出に浸るわけには行かない。私はこれから、しっかりと向き合いたい人がいる。


立ち止まり、体を道の端に寄せる。

手に待っていた白いハンドバッグからスマホを取り出して、時間を見ると16時45分。

すぐ近くには神社の看板も見えた。


「あと、五分ぐらいで着くかな」


あの夏の日。

私は約束の神社に辿り付けなかった。

時を超えて、また同じ人と約束が出来ることを自分に都合良く考えると、運命だと思いたかった。


そして、次こそはちゃんと気持ちを伝えたいと思い。スマホをバッグの中に戻して。

傘の柄を強く持ちなおし、今度こそ辿り着けるように。会えるように。


絢斗君の元に行けるようにと、神社にと急ぐのだった。


神社が近くなってくると、歩道の横の壁は剪定された緑になり。

足元はいつのまにか石畳になっていた。


日が落ち。辺りは早くも街灯が灯る。雨のざぁっとした音が絶え間なく続く。

あの夏とは全く違う景色。もちろん屋台なんか出ていない。祭囃子も聞こえない。温度も違う。

歩道を歩く人も少ない。


それでも、胸がドキドキした。

視界に鳥居が見えてきた。鳥居のサイドには街灯が灯り。まるで朱い鳥居が夜に浮かび上がるように見えた。


約束した場所はその鳥居の下。


「私、やっと来れたんだ……!」


胸がキュッと締め付けられる。

あの日どれだけここに来たかったか。


足早に進み。パシャリと水溜りを踏み抜いてしまったけれども、そんなの気にならなくて。鳥居の下を目指すと──背の高い。


人影が見えてドキッとした。


まさかと思い近寄ると、黒いシャツに黒いジーンズ。いつもの眼鏡は掛けておらず。

傘もささないで幽鬼の如く立ち尽くす、絢斗君がそこに居たのだった。


その姿を見て声を掛ける前に、高校生の時の記憶がぶわりと蘇った。


放課後。夕日が差し込む教室。

学ランに身を包んだ、黒百合のように綺麗な黒須君。


今、目の前にいる絢斗君の黒い装いが記憶とリンクして。


──早くも視界が滲んでしまった。


ぼやける視界に唇をギュッと噛む。

まだ、涙は早いと思い。

瞬きをして涙を誤魔化した。


「絢斗君?」


声を掛けると絢斗君は「──真白?」と、小さな声を発してから。


こちらを向き。

ゆっくりとこちらに近寄ってきた。

ぱしゃんと石畳みの水が跳ねる。


絢斗君がちゃんと来てくれたことが、嬉しいと思ったのも束の間。


近くで絢斗君を見ると。傘をさして無かったせいで、髪やシャツはじっとり濡れて。髪からはポタポタといくつも雫がしたたり。

長いまつ毛や滑らかな肌に水滴が滑り落ちている。


しっとりと濡れているせいで艶めかしく、暗い表情により深い影を落としていた。


全身濡れそぼったその様子に、私よりずっと前にここに居て待っていたんだと分かり、はっとして傘の中に絢斗君を招き入れた。


「絢斗君っ。大変。濡れちゃってる。ごめんなさい、私。待たせてしまって」


慌てて胸元から白いハンカチを絢斗君の頬に当てると、絢斗君の表情がとたんに柔らかくなり。


ゆっくりと私の体に手が伸びて。

優しく包み込まれるように抱きしめられた。


「真白……会いたかった」


「絢斗君……」


名を呼ぶと、私を抱きしめる手に力が込められ。それだけで絢斗君の想いを感じるものだった。愛されていると感じた。


そのまま、絢斗君の背に手を回したくなるのを我慢する。


まずは私から話を切り出そうと思った。


今の絢斗君なら大丈夫。ちゃんと聞いてくれる。大丈夫だと思い。


「絢斗君。来てくれてありがとう。嬉しい。私はここで聞いて欲しいことがあるの。まずは私から話したい。いいかな?」


「──分かった」


絢斗君の静かな声を聞いてから、抱きしめられた体をそっと離し。

絢斗君の手に傘を持ってもらい。

これ以上体が冷えないようにと、身につけていた雨コートを絢斗君の肩に掛けた。


そのままハンカチでさっと、絢斗君の濡れた頬を拭い。


しっかりと絢斗君を見つめた。


「絢斗君、来てくれてありがとう。 本当にたくさん、たくさん。待たせてしまってごめんなさい。もう気が付いていると思うけど。私は家の事情で今は櫻井と名乗っていますが……昔、高校生のときは『南』と名乗っていました。南真白です。同じクラスメイトでした。覚えていますか?」


絢斗君は私の言葉を受けて、静かに深呼吸したように見えた。

傘に雨粒がぶつかる音が絢斗君の返事を急かすように感じたけど、静かにじっと待っていると。

絢斗君は微笑した。


「忘れるわけがない。だって南真白は俺の初恋の人だから」


「──!」


絢斗君の顔を良くみると。苦笑とも微笑ともつかない淡い笑みを湛えていて。そのどこか幼い表情に高校生の面影が被り、懐かしく思った。


そのまま、色んなことを聞きたくなるのを我慢して。

一度鳥居を見上げてから気持ちを落ち着け、あの約束の日。


私の身に何が起きたのか、どうして来れなかったのか。そして私自身も過去を触れないでいたか。


ちゃんと伝えようと、意を決して口を開いた。


降りしきる雨音に、私の声が紛れないようにはっきりと喋った。


「あの夏祭りの日。浴衣を着て約束の神社に向かった。でも途中で父が交通事故で亡くなったって、連絡を受けて病院に行ったの。だから、絢斗君と約束していたのにお祭りに行けなかった。

あのときは凄く混乱していて、絢斗君に連絡しないといけなかったのに……連絡出来なかった。本当にごめんなさい」


雨粒が地面に落ちるような単調さで、淡々と喋る。感情に任せてしまったら、なんだか泣いてしまいそうだと思ったから。


「今でもね、あの時の記憶ってあんまり良く覚えてなくて。事故の加害者の人と揉めたこともあって、ちょっと家が大変で……。気がついたら私。引っ越していた。そこでやっと絢斗君に連絡しなきゃって思った。そんなの遅いよね。遅すぎるよね。それでも連絡したら良かったのに。

けど。その当時、使っていたスマホはいつの間にか、壊れてしまっていて連絡が出来なかった。会いに行けば良かったのに。それも、出来なかったのは……」


怖かった。

嫌われたと思った。

そんな現実と直面するのが嫌だった。

自分の気持ちを優先させたから。

ぐるぐると言葉が頭の中に駆け巡ったとき。


「──出来なかったのは?」


スッと絢斗君の言葉が耳に入った。

絢斗君に促され、言葉を続けた。


「怖かった。怒られると思った。そうじゃなくても、約束を破ってしまった罪悪感が凄くあった。どんな顔をして会えば分からなくて。行けなかった事は事実だから……もう、何を言ってもダメだと思ってしまった。そして、それっきりになってしまった。これが……私が当時。行けなかった本当の理由」


絢斗君は私を見つめたのち。

ゆっくりと雨の間を縫うように深呼吸してから。


「知っていた。後日、親から事情は聞いた。それに夏休みが明けてから、クラスメイトの急な引っ越しは、噂にもなっていた。来なかったことに対して俺は、何一つ怒ってなんかいない。それよりも肉親が亡くなったのだから、喪に服す期間があって当たり前だと思う。真白。辛かっただろう。そんな最中でも、俺の事を気に掛けてくれていてありがとう。やっぱり真白は優しい」


絢斗君の言葉は、まるでこの雨のようにしっとりとしていた。慈雨のように心に沁みる。


怒っていないと言う言葉に救われた。

今すぐに絢斗君に縋って、泣きつきたくなるの我慢する。


だって私はまだ全てを話していない。

むしろ、ここからが私の浅ましい。絢斗君への執着と思える気持ちの暴露を、しなくてはならなかった。



「そう言ってくれてありがとう。ずっと後悔していたから。ずっと忘れる事が出来なかったから──そしてね、ここからが私の本当に話したいことなの」


一区切りしてから。

きゅっと胸に手を当てた。


「弁護士事務所で再会して。私、すぐに絢斗君の事を思い出した。そして契約妻の申し出を受け入れたのはずっと好きだったから。絢斗君のことがあって、誰とも恋愛出来なかった。何となく良いなと思った人はいても……それだけだった」


「そうだったのか」


絢斗君が傘の柄を握り直し。

いつの間にか私の頬に落ちていた、雫をすっと指先で拭ってくれた。

その動きが、愛おしくて恋しい。

だからこそ、伝えなくてはいけないと勇気が湧いた。


「だからね、絢斗君が私の事を忘れていようが、何でも良かった。自分から『南真白』だと、名乗らなくてもいいって思った。その方が好都合だから──忘れたふりをしたの。だって私。高校生のとき。絢斗君のお嫁さんになりたいと思っていたから」


口に出してみると、なんて夢見がちな言葉なんだろうと思ってしまった。

自分自身を失笑してしまいたくなるのを、言葉で誤魔化す。


「それがやっと叶うと思うと、過去の事をわざわざ引き合いに出す必要なんかない。今の私を愛される努力をしたらいい。契約妻から本当の妻になったらいいんだって──そんなことを思っていたの」


自分の本心を曝け出すと、決して綺麗なモノばかりじゃなくて、嫌になってくる。


ずっと後回しにしていた事が、いつの間にかこんなにも重苦しいものになっていたなんて、気が付かなかった。


せめてこの雨と一緒に、私の中のイヤなモノも流れて欲しいと思った。

そんな私の言葉を、じっと真剣に。

耳を傾けてくれている、絢斗君の視線を逸らさずに喋る。


「ふふっ。浅はかでしょ? 呆れたかな? ずっと黙っていたらいい。それだけで夢が叶うと思った。こんなのずるいよね──絢斗君の優しさに身を委ねるのはとても心地よくて、このままがいいと思ったの。だって、絢斗君が今更私の事を思い出して。都合の良い契約妻の誘いに、乗ったことをバレるのが……軽蔑されるのが、怖かったからっ……」


感情がどうしても籠ってしまい。

ぐっと強く拳を握る。


「黙っていたら問題ない。このまま大丈夫だって。言い聞かせたけど。でも……やっぱり。ちゃんと言わなくちゃって。過去があるから今の私があって。それは絢斗君も同じで。妻になるからこそ、ちゃんと絢斗君を理解したくて、絢斗君の気持ちを知りたくて。本当の妻に、本当のお嫁さんになりたいと思ったから。全部告白したかった」


これで軽蔑されても──後悔なんてない。

あと、もう少しで全部言い終わる。


「絢斗君。ううん。《《黒須君》》。夏祭り誘ってくれて、本当に嬉しかった。あの日、凄く楽しみにしてました」


この言葉は笑顔で言いたいと思い。

顔をしっかり上げる。

なのに、いつの間にか瞳から涙が溢れていた。それは雨の雫だと気付かない振りをして、そのまま告げる。


「黒須君──私はずっとあなたのことが好きでした」


絢斗君には何度も伝えた気持ちも『好き』だと言う言葉も。


今、やっと心の底から言えたと思った。


周りは暗く。針のような雨が降っている。

それでも私には、あの夏の日に舞い戻った気持ちだった。


「今も好きです。ずっと黙っていてごめんなさい。私はこれからも黒須君と一緒にいたいです。だから本当の気持ちを私に教えて下さい」


やっと全部言えた。

思えば遠回りし過ぎてしまった。

そう思うと、また瞳から涙がこぼれる。


泣いているのをもう誤魔化せないと思った。

瞳からはらはらと流れ落ちていくそれは、雨の冷たい雫とは違い。


暖かな涙だった。


止まらない涙が、頬をつたうのを清々しく思った。


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