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コンコンコン
ドアをノックする音が薄暗い廊下中に響き渡る。
『入りなさい』
「……」
中から聞こえる愛おしい声に
自然と体が惹き込まれてゆく。
『こんな時間になん…
あ、また髪の毛を触ったのか。』
「あぁ。」
『こっちに来なさい、なおしてあげよう。』
「…おう、」
サッ、サッ、サッと髪の毛を櫛で梳かす音が
微かに流れるクラシックと共鳴する。
「大分癖が着いてきたんじゃないか?
もうすぐ纏まりそうだ。」
その言葉に体がビクンと跳ねる。
この時間がもう終わってしまうのかという
焦燥感に駆られ、其れが俺の心悸を速める。
「もう終わるのか。」
『そこは “もう終わるのですか?” だろう?
直終わるよ。』
「…そうか。」
俺は一言だけそう発し、彼の手を払い除ける。
その手から滑り落ちた櫛が床に着し、
机上のアイスコーヒーの氷のように
カラン、と音を立てる。
彼の視線が其れに奪われている間に、
案の定ほぼ整い切っている髪の毛に手を掛け、
わしゃわしゃと逆立てる。
『いきなり何をする……….何をしている?』
櫛を拾い上げこちらを怪訝そうに見つめる彼を前に
又更に心悸が速まり、呼吸が荒くなる。
「髪、崩した。」
『…どうやらお仕置が必要なようだな。』
彼の言葉を待っていたかの様に
頬が紅潮するのを感じる。
そして口角が上がりそうなのを堪える様に口を開く。
「はい。」
嗚呼、今日も俺は悪い人。