テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
沖田は音もなく彼女と距離を詰め、流れるような動作で壁際へと追い込んだ。
左右を腕で囲い、完全に逃げ場をなくす。
…いわゆる壁ドンである。
一方の彼女は驚きもせず、静かに彼を見据えた。
「よう雌豚ァ、もしやサボりかァ?いけねェなァ」
にたり、と黒い笑みを浮かべる。
少し間があいた後、彼女の口が開いた。
「なわけないだろこの雄豚、私は用事があるのです」
沖田の思考が一瞬止まった。
あれ、なんか思ってた反応とちがう…。
まあいい、と沖田は彼女を見下す。
「へえ、雄豚。上司とかわす会話の一言目がそれかィ」
いや君部下とかわした一言目雌豚だったんですけど…。
矛盾に気づいていないのか、沖田はそのまま続けた。
「用事ィ?なんだ、言ってみろィ。どうせろくな用事じゃねェんだろうけどよ」
彼は近かった顔をさらに近づけた。
鼻先がついてしまいそうなほどの距離である。
「私は団子屋に行って団子を消費するのに忙しいのです」
「それを人はサボりというんだぜィ」
初日からサボるとは、なかなか度胸がある。
斜め上の回答をしてきたもので、沖田は珍しくその先の言葉が思いつかなかった。
まずい、ペースを崩されている。
そんな彼を無視して足を進めようとする彼女の肩を沖田は勢いよく掴んだ。
「ちょーど俺もサボろうと思ってたところでねィ、なに、ついて行ってやるよ」
そう口にした瞬間、彼女はじとりと彼を見た。
「うえぇ、君と共に食す団子なんて不味くなるに決まっていますついて来ないで下さい」
沖田の顔に苛立ちが垣間見えた。
完全に上司に対する態度ではない。
「うるせェなァ、減給するぞ」
「何してるんですか?早く行きましょうよ」
こうして二人は大通りへと出た。
天気がいいのもあるのか、人であふれかえっている。地面には踏み潰されたチラシがところどころに見てとれた。
「で?どこに行くんでィ。まさか決めてないだなんて言わないですよねィ?」
「ところがどっこい決めてません。という訳で帰れ」
彼女が即答すると沖田はわざとらしく大きいため息をして頭を左右に振った。
「はあー。使えねェ副隊長なこったい」
悪態はつくが、どうやら帰る気はさらさらないらしい。
沖田は顎に手をあて辺りを見回した。
「あそことかどうでィ、文句は食べてから言いなせィ」
沖田の視線の先には、少し色の抜けた赤色の暖簾がはためく、ちんまりとした団子屋がたたずんでいた。
えのきのこ
67
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!