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えのきのこ
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沖田に諭され彼女が暖簾をくぐると、団子のほろりと甘い匂いが鼻をかすめた。
客はまばらで、奥には店のおばあさん一人。
静かな空間だった、聞こえるのは咀嚼音と串を皿へと戻す乾いた音のみ。
この空気を壊さぬよう彼女は静かに椅子に座るも、沖田はどかっと場違いなほど大きな音を立てて隣に座る。
「みたらし、あんこ、草餅…全部いきやしょう」
この男に遠慮という概念はない。
「私はみたらし十本で」
…彼女も大概であった。
客の視線が一気に彼女へ向く。
沖田も驚いたのか、少し目を見開いた。
「はァ?食い過ぎだろィ」
お前が言うな、と客達に心の中でツッコまれる。
「いいぜ、負けてらんねェ。おいばあさん、俺もみたらし十本に変更だ」
おばあさんの顔が引きつる。
小さな店に対し大きすぎる注文である。
待ち時間、しばらくは沈黙が続く。
暖簾のはためく音や、布が擦れる音が、いつもより大きく聞こえた。
その沈黙を破ったのは沖田だった。
「名前、なんていうんでィ」
「朝自己紹介したはずですが」
「聞いてなかった」
無礼な男である。
彼女は一瞬視線を逸らしたあと言った。
「山田ゴンザレスです」
「嘘つけ」
偽名のセンスが死ぬほどない。
…何だか調子が狂う、またペースを崩されてはかなわない。
再び問おうと口を開きかけたとき、コト、と小さく音が響いた。
「召し上がれ、熱いから冷ましてから食べてね」
タイミングのいいばあさんだ、と沖田は視線を団子に落とす。
どうやら焼きたてらしい、微かに甘い湯気が出ている。
彼女は一本手に取って、ふうふうと息を吹きかけ口へと頬張った。
途端、彼女の顔が幸せそうに緩んだ。
よっぽど美味しかったのだろう、もう次の串へと手を伸ばしている。
そんなに上手いのかと、沖田も団子を頬張った。
「…こりゃいいや、悪くねェ」
団子はほどよい弾力がある。そしてみたらしはちょうどよい甘さでしつこさがない。ほんのりとほろ苦さがあるのがまたいい。
感心していると、彼女がちょん、と沖田の肩をつついた。反射的にそちらを向く。
「君の名前は何ですか?」
「…隊長で十分でィ」
一瞬言おうと思ったが、なんとなく癪で言い濁した。
「俺も聞くが…オメェ、年齢は?」
彼はずっと疑問だった。
彼女は自分よりも背は小さいが、どことなく大人びている。
いえば、10代にも見えるし20代にも見える。
でもまあ、恐らく17歳くらい……
「23歳です」
…マジか。
沖田は今日イチ驚いた。