「”あいつ”のとこ行ってくる!」
「はーい、暗くなる前に帰ってこないと青鬼が……じゃなくて、熊が出るからなー」
「はいはい!わかってますよー!」
1番遅くに起きてきて、すっかり冷めてしまった朝食をかき込んだら彼にあげるのだろう荷物を持って元気よく出て行った。黄色の光るあの瞳が眩しくて仕方がない。
最近は『青鬼』に夢中なようで、毎日のように森へ足を運んでいる。聞くには来るなと言われているらしいが、邪険にされているわけではないらしい。まぁ毎日のように果物などを貰ってくるのだから、それは一目瞭然なのだけど…
「あれ?クロノアさん、ぺいんとさんは?」
「森に行ったよ〜、あ、鍵穴直った?」
「またか…直りましたよ、ついでに色々やったんで開閉しやすくなったと思います!」
「おっ、ありがとう〜!」
紫の髪をサラサラと揺らす、少女のような見た目の彼は我らが頼れる末っ子。鍵穴が潰れてしまったのか、鍵が入らなくなってしまったから修理を頼んでいたところだった。
彼は機械類に強く、手先も器用なことから様々なことを頼まれて(押し付けられて)いるちょっと不憫な子でもある。
トラゾーは朝早くから建築系の仕事に出ていて今はいない。お昼もぺいんとはあっちで食べてくるだろうし、今日はしにがみくんと2人だ。俺も彼も食が細いほうなのでボリュームがない方がいいだろう。そんなことを考えていれば家のチャイムが鳴る。ドアコックを開いて外を覗きみれば、見知った赤色が目に入った。
「やっほ〜、ごめんね急に来ちゃって」
「いえいえ、別に暇でしたし、ともさんなら大歓迎ですよ」
「ありがとう〜!…って、ぺんちゃんは?トラゾーさんが仕事なのは知ってるけど…」
「ぺいんとさんならいつも通り森ですよ?」
「……え、」
森、という単語に反応してルビーのような瞳が大きく開かれる。さっきまであんなに穏やかな笑みを浮かべていたのに、今は打って変わって殺気を感じるような険しい顔になっている。
「…え、ともさん…?」
「……ぺいんとは、森にいるんだね?」
「はい…なんかありました?」
「うん、ちょっとまずい…後で説明するよ、2人とも絶対森に入んないでね!」
そう言って風のように出て行った。口調こそ優しいが、雰囲気は戦闘前のそれだ。一体何なのだ、今日森に行かせてはいけなかったのか?今日…何かあったか?
「……あ、今日、忌月の日だ」
「え?…忌月?ってなんですか?」
「忌月は………」
もうこの道にも慣れたものだ。何度通っていると思っているんだ。最近は彼も拒否するのも面倒くさくなったのか俺が森に入れば家への一本道を作ってくれる。この道は熊や蛇などの害獣は入ってこれないようになっているらしい。だからあの2回以来危ない目に遭ったことはない。……はずなのだけれど、今日はどれだけ進んでも一本道ができることはなかった。お土産として持ってきたヤグルマギクが妖しく揺れる。不安が煽られ、柄にもなく弱気になってしまった。
「……あのー?俺来ましたよー?今日は入れてくんないのー…?……ラタミー…?」
強風が吹き荒れ、ガサガサと木の葉が揺れる。なんだ、これは。これではまるで、人々に恐怖される森そのものではないか。
不意に、頬にピッと何かが触れる。初めはそれが何か理解できなくて、流れる血と少しの痛みで切られたのだと自覚した。
ひっと声を漏らす暇もなく何かに肩を強く掴まれ地面に倒れ込む。打った背中と掴まれた肩が痛くて顔を歪ませるが、目の前のそれはギラギラとした瞳でこちらを見るばかり。ぽたぽたと流れ出るヨダレが俺の顔に落ちたとき、ようやくそれの正体がわかった。
「……あお、おに……?」
「…………」
彼は答えなかった。代わりに、その綺麗な瞳を歪ませて、口を手で抑えた。フーッフーッと荒い息遣いが聞こえる。
指の隙間から覗く鋭い牙、額から生えた禍々しい角、俺を今にも切り裂いてしまいそうな爪。それは、確かに『青鬼』だ。
「…ぺ、ん…ごめ…」
「……だいじょぶ…なの?ねぇ、何、それ……」
「……ぁ」
目の前の彼が、ニタリと笑う。その眼に写っていたのは俺ではなく、ただの捕食対象だった。地面を強く蹴り反動をつけて彼──いや、青鬼から離れる。よろよろとこちらに寄ってくる青鬼が俺を襲おうとしているのはわかっている。しかし、その瞳からは今にも涙が溢れそうで、苦しそうな呻き声をあげている姿は俺をここにとどめるには十分だった。
「らっでぃ」
俺のものでもない、もちろん彼のものでない、優しい声が森に響く。座り込んだ俺の横を黒いマントがふわりとなびき、その足は青鬼へと向かって行った。
「ともさん!?待ってそいつは──」
「落ち着いて、大丈夫だから。…らっでぃ、久しぶり」
そう言ってともさんは腰に携えていた短剣を取り出し、彼の前で自分の腕を切りつける。それに反応して青鬼はともさんの方へ駆け出して行き、ともさんの腕にかじりついた。
「ッ、」
「ともさん!!!」
「っぐ、づ、ん」
「……らっでぃ、大丈夫、飲んで」
青鬼の喉仏が上下し、ともさんの血を嚥下していた。だんだんとその眼に正気が戻っていく。
ふぅ、とともさんの腕から口を離し、俺の方を見た。
「……ごめん、ぺいんとと…ともさん」
「んーん!今日は仕方ないからねぇ」
「と、ともさん、腕…あと、お前は…」
「………」
立ち話もなんだし家入ろうというともさんの声に、俺と彼も動き出す。彼の額には未だ角が生えているし、爪も伸びたまま。しかし俺を心配そうに見る彼の瞳があったので、少し安心して家へ入った。
「説明して」
全員が椅子に腰掛けたタイミングで、目の前のふたりを睨みながら声をあげる。彼は所在なさげに隣のともさんへ視線を移し、ともさんは苦笑いを浮かべながら俺を見た。
「あー…ぺんちゃん忌月って知ってる?」
「いみづき?なんすかそれ」
「ともさん教育不足じゃないすか〜?」
「らっでぃが説明してると思ったんだよ〜!お互い様でしょぉ!?」
「俺が説明してる訳ないでしょ〜!?俺だってともさんが言ってるやろって思ってたのにさぁ〜!!」
「喧嘩すんなよ……って…らっでぃ?」
「ん?」
「…あ」
「……んっ!?らっでぃぺんちゃんに名前教えてなかったの!?」
「いやっ…その…」
「え!!お前の名前らっでぃっていうの!?」
「いや違う」
「らっでぃは俺が勝手に愛称つけただけだしね〜てか何で言ってないの!」
「だって情移ったらやだもん」
「手遅れだろ」
話がズレたが、まぁそれは一旦置いておこう。俺はとりあえず忌月のことを知らなければならない。初耳すぎるし知っていて損はないだろう。
「忌月っていうのは数年に1度月が青くなる日で…まぁ簡単に言うと野生動物とかがめっちゃ獰猛になる日。俺も含め」
「うん、すごい簡略したけどそんな感じの日だよ。最近はらっでぃのおかげか森に近づく人も減ったから若い子は忌月自体知らないんじゃないかな」
「月って元々青っぽくない?」
「いやまぁ…でも白が強いでしょ?忌月の日は綺麗に青だから。幻想的で俺は好きなんだけどね〜」
なるほど。そういえば見たことがあるようなないような。記憶に新しくはないが引っ張り出せばありそう。綺麗な青…といえば、彼の瞳のような色なのだろうか。
じっと彼の瑠璃を見つめれば、居心地悪そうに逸らされた。今思ったが、ともさんの緋、俺の黄、彼の青でまるで信号機みたいだ。全く関係はないが。
「…?何笑ってんの?」
「いや、べっつに〜?」
コメント
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🚦神か...rdぁ...pnちゃん...tmさぁ...ん。うぅ...(語彙力皆無)
🚦3人組の絡み好きです.....🤦