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マーケリー伯爵家からの帰りの馬車の中、スティーブとセシルは放心状態、リリアはヒステリーを起こした様に泣き喚いていた。 狭い馬車の中で響くリリアの声は、走る馬車の外にも漏れていて、道行く人達がすれ違うたびに見る為、御者は居た堪れない気持ちだった。
「早く、お屋敷に」
兎に角早くオリジエル侯爵家に帰りたくて、御者は必死に馬を急き立てるように、手綱を持つ手に力が入った。
外に漏れるほどのリリアの声は、スティーブにもセシルにも聞こえてはいた。だが、彼らはリリアを慰める気力も叱る気力も残っていなかった。
あの応接室で、マーケリー伯爵に言われた言葉が、スティーブの頭の中で繰り返されていた。
『私共もオリジエル侯爵家は《《被害者だと感じていました》》。だからナーシャさんが同席していたら、もう一度婚約を結び直そうと思っていたのですが⋯。来られていなかったのは残念ですね』
『トーラス伯爵家の嫡男は、ずっと復讐する機会を狙っていたようですよ。リリアさんが誰かと婚約する時をね。私共に事件を匂わせるように話したのはあそこの嫡男ですから』
『敢えてリリアさんを虐げていたという話しを、トーラス伯爵が否定しなかったのは、さっさと縁を切りたかったかららしいです』
『オリジエル侯爵、貴方の事情は察しますが、貴族はやはり入念な調査は必要ですよ』
『とんでもない女性と縁を結んでしまいましたね。娘を切り捨てて自分はちゃっかり伯爵家に留まっているんですから。ナーシャさんは似なくて良かった。ミゼラ様のおかげですかね』
ここぞとばかりに、いくつもの話しを繰り出すマーケリー伯爵に、スティーブは一つも返す言葉を出せなかった。そして一番堪えたのは、母の名が出た事だった。スティーブは今からでも縋りたいと、ミゼラの顔を思い浮かべ、馬車の窓から空を見上げた。
◇◇◇
スティーブは、オリジエル侯爵家の唯一無事に産まれた子供だった。母ミゼラはスティーブを産む前に、二度の流産を経験していた。その為、子供を諦めて養子をと考えた頃に、スティーブを身篭ったのだ。
遅くに出来た子供だったが、オリジエル侯爵夫妻は、変に甘やかす事なく、しっかりとした嫡男に育って欲しいと願っていた。
だが、侯爵夫妻よりも傘下の貴族家や縁石の重圧を、スティーブは成長するに連れ感じていた。元よりあまり決断力もなく、どちらかというと流れに身を任せるタイプのスティーブには、そのプレッシャーが辛かった。そんな時、スティーブは、平民のレミィと出会う。
レミィは孤児院出身の娘で、スティーブより2つ年上で、出会ったとき彼女はお針子見習いだった。しっかりもののレミィは、年上ということもあったのか、決められない優柔不断なスティーブを、励まし導いてくれる人で、相手が平民でもスティーブには女神に思えた。
だが当然、オリジエル侯爵がレミィとの交際を認めるはずはない。
再三別れるようにスティーブを叱責していた。
レミィは侯爵家から言われて、身を引く覚悟もしていたのだが、それをスティーブは断固拒否した。そして、とうとう廃嫡してほしいとまで言い出した。
だが、常から優柔不断なスティーブが、レミィの事だけは譲らなかった為、侯爵はスティーブの廃嫡を認めてくれた。
但し、平民になっても暮らしに困ることが無いように、学園を卒業する事が条件だった。
オリジエル侯爵家の後継は、親戚の中から養子を貰うことになり、そのまま何事もなければ、スティーブがオリジエル侯爵家を継ぐことはなかった。だが、突然父のオリジエル侯爵が事故で急逝してしまった。
そこからスティーブの思い描いていた将来図は、跡形もなく崩れさった。
親戚たちが、スティーブの代わりに養子になる予定の人物に反対したのだ。
理由は、その人物がとても優秀だったからだ。親戚たちは、養子を取るなら自分達にも口を出す権利があると主張し始めた。特に、前侯爵の弟が曲者だった。かなりの時間引っ掻き回されて、結局ミゼラの決断は、スティーブにレミィとの婚姻を認めるから、侯爵家を継いで欲しいというものだった。揉めている状態では、誰を養子にしても遺恨を残す、スティーブならば侯爵家の唯一の嫡子だ。誰も文句は言えない。
ミゼラはレミィにも頭を下げて、彼女は泥沼化してしまった侯爵家の為に、スティーブと侯爵家を引き継ぐ事を決意してくれた。そうしてレミィは、ミゼラの生家である公爵家の遠戚の伯爵家の養女となり、スティーブと婚姻した。
レミィは地頭が良かったのだろう、ミゼラの教育は厳しいものだったが、必死に食らいついて貴族の夫人として努力を重ねていた。その姿はミゼラも認めていたのだが、付いていけないのはスティーブの方だった。
後継者としての教育を平民になると決めたときから、スティーブは学ぶ事をあまり重く考えていなかった。学園の成績も中の下で卒業する。ミゼラに認められていくレミィにも、上手く領地の事を回せないスティーブは、嫉妬めいた物を感じていた。そんな時、レミィはセシルを身篭る。
スティーブの補佐をするミゼラは、レミィの懐妊を殊の外喜んだ。
自身が二度の流産を経験していたこともあり、レミィを過保護なくらい大事にした。
それにスティーブは、思うところがあった。今考えれば嫉妬だ。母親を妻に、妻を母親に取られた気持ちになっていた。
そして、レミィが妊娠中で行けない夜会に一人で参加して、ソフィアに出会ってしまった。
コメント
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読了したわ!第22話、スティーブの過去が明らかになって胸がぎゅっとなった…。レミィに嫉妬してる自分を自覚しながら止められないスティーブの心情、すごくリアルで苦しい。「母親を妻に、妻を母親に取られた」っていう表現、刺さりすぎた。そりゃソフィアに惹かれる流れもわかるけど、見てるこっちはもどかしいよ!marukoさん、キャラの内面掘り下げが本当に巧いな。次が気になる🔥