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第十話「おそろい」
日曜日、昼過ぎ。
「佳ー、そろそろ行くよー」
リビングから聞こえる声。
「……今行く」
ソファから立ち上がる、高橋佳。
(……昨日の疲れ、残ってんな)
体は少し重い。
でも、昨日ほどじゃない。
(まだいける)
そう自分に言い聞かせる。
⸻
外。
「で、どこ行くの?」
「ゲーセン!」
即答する、山本美憂。
「また元気だな」
「昨日あんな楽しかったんだから、今日もでしょ!」
「体力おばけかよ」
「佳も付き合うの!」
「はいはい」
並んで歩く。
距離は、昨日より少し自然に近い。
⸻
ゲームセンター。
音と光が溢れる空間。
「まずはこれ!」
美憂が一直線に向かったのは——UFOキャッチャー。
「ぬいぐるみか」
「これかわいくない?」
ガラス越しに見える、小さなクマのぬいぐるみ。
「普通だな」
「かわいいでしょ!」
「まぁ、悪くはない」
「じゃあ取って」
「俺がやる前提かよ」
「当然」
腕を組んで見上げてくる。
(……断れねぇなこれ)
「……一回だけな」
「絶対取ってね」
「無茶言うな」
⸻
コインを入れる。
アームが動く。
(……位置、微妙だな)
慎重に操作する。
ガシャン。
「おっ」
少し動いた。
「いけるいける!」
「静かにしろ」
もう一回。
ガシャン。
ズルッ——
「落ちた!」
「マジか」
ぬいぐるみが、コトンと落ちる。
「やったぁ!!」
美憂が思いっきり腕を引っ張る。
「すごい!佳すごい!」
「まぁな」
「天才じゃん!」
「そこまでじゃねぇよ」
でも——
その反応が、普通に嬉しい。
⸻
「じゃあもう一個!」
「は?」
「お揃いにするの!」
「なんでだよ」
「いいでしょ!」
「……はぁ」
結局、もう一度挑戦。
「次は私がやる!」
「取れるのか?」
「見てて!」
操作はぎこちない。
でも——
ガシャン。
「……あ」
奇跡的に引っかかる。
そのまま——落ちる。
「え、うそ!?取れた!?」
「マジかよ」
「やったぁ!!」
ぴょんぴょん跳ねる。
「ほら、これ佳の」
ぬいぐるみを渡してくる。
「……なんで俺も持つんだよ」
「お揃いでしょ?」
「……まぁいいけど」
少しだけ、照れくさい。
⸻
そのあとも。
音ゲーで笑ったり。
シューティングで本気になったり。
「ちょ、ずるい!」
「実力だろ」
「絶対違う!」
くだらないことで盛り上がる。
昨日と同じくらい——
いや、それ以上に。
“普通の楽しさ”が、心地いい。
⸻
「ねぇ、プリクラ撮ろ」
「またかよ」
「いいじゃん!昨日のやつもう一回やりたい」
「はいはい」
⸻
狭いブースの中。
「昨日より近くね?」
「気のせい」
「絶対違う」
「いいからいいから!」
ぐいっと引っ張られる。
肩が触れる。
腕が、軽く当たる。
「はい、笑ってー!」
パシャ。
昨日より、自然に笑えた。
⸻
「落書きどうする?」
「適当でいいだろ」
「ダメ!ちゃんとやるの!」
ペンを持ちながら、美憂が真剣な顔。
「“仲良し”って書く」
「小学生かよ」
「いいの!」
「……好きにしろ」
その横顔を、少しだけ見る。
(……楽しそうだな)
それだけで、十分だった。
⸻
外に出ると、もう夕方。
「今日もあっという間だったね」
「だな」
「なんかさ」
「ん?」
「昨日からずっと楽しい」
少しだけ照れた顔。
「……俺も」
自然に言えた。
本当にそうだったから。
⸻
帰り道。
手には、ぬいぐるみ。
二人とも同じもの。
「これさ」
「ん?」
「部屋に飾ろ」
「俺も?」
「当たり前でしょ」
「……まぁいいけど」
「絶対だよ?」
「わかったって」
そんな約束が、増えていく。
⸻
夜。
「今日もありがと」
「なんだよ、またそれ」
「言いたくなるの」
笑う。
その顔を見て——
(……ああ)
(これ、ずっと続けばいいのに)
そう思ってしまう。
⸻
部屋。
ぬいぐるみを、ベッドの横に置く。
「……お揃い、か」
小さく呟く。
それだけのことなのに——
やけに、特別に感じる。
⸻
(……あと、どれくらい)
ふと、考えてしまう。
遊園地。
ゲーセン。
プリクラ。
(……全部、覚えとけ)
忘れないように。
一つも。
⸻
ベッドに倒れ込む。
体は、少しずつ重くなってきている。
(……やっぱ、きついな)
でも——
「……楽しかった」
それだけは、確かだった。
⸻
その夜。
二人の距離は、確実に縮まっていた。
でも——
時間は、確実に減っていた。