Na視点
しゃけが死んで、自分が壊れて、数日経った。
あの後、自分が壊れていることを理解した上で、きりやんの家に行った。
扉を叩いたら、意外とすぐに開けてくれた。
扉から出てきたきりやんは、やっぱり暗い表情をしていた。
その雰囲気とは真逆の、微笑を浮かべていた俺の表情を見て、絶望とは違う、複雑な表情に変わった。
Ki「…ごめん」
Na「ん?どうして謝るの?ニコ」
Ki「ッ……いや…」
Na「は、変なの」
そして今日、俺はきりやんの病院の屋上から飛び降りて、死んでやるんだ。
ザァァァァァァ……
土砂降りの中、屋上に出る。髪が濡れても、服が濡れても、どうでもいい。
ビュウッッ
強い風が吹き、右瞳を隠している前髪が少しなびき、水滴を飛ばす。
タンッ
柵を乗り越え、真下を見る。
Na「あは、…高っ」
すると、自分の前に宙に浮いたしゃけが視えた。
Na「え、しゃけ?」
Sha『本当に、これでいいのか?』
Na「もちろん。だって俺はずっと死にたかったんだから、ニコッ」
Sha『……俺は、生きて、って言ったッ、のに……』
Na「ッ……」
自分だけのDAYDREAMのはずなのに、何故か胸が痛くなる。
Sha『スマイルもきんときも、俺も死んで、一番辛いのは誰だと思う?』
Na「……そんなの、知るかよ」
Sha『……きりやん、だよ』
想像もしていなかった名前が出てきて、少したじろぐ。
Na「…何で?」
Sha『何で、って………
スマイルの手術をしたのも、
きんときの病気を隠して笑顔を振る舞ってたのも、
俺の病が治らないと知ってて苦し紛れにあの薬を出したのも、
全部、きりやんなんだよ?』
そう言われてみればそうだ、と今更ながら気づく。
Sha『……しかもあいつは前院長の命令で、自分の心を殺して患者を殺してたんだぞ』
Na「え、そんなの、しらなッ」
Sha『うん、多分俺しか知らない』
Na「何で…?」
Sha『…そんな状態でなかむにまで死なれたら、あいつはどうなると思う?』
Na「………」
黙り込む俺を少し待って、しゃけはまた口を開く。
Sha『…………あとは、なかむ次第だから、ニコッ』
そう微笑むと、しゃけは消えて、嘘みたいに周りの景色はそのままだった。
Na「生きるか、死ぬ、か______」
『きりやんだよ』
…………
死ぬよりも前に、誰かを一人でも、救ってみたい。
トンッ
Na「ッ生きるって、ほんとになんなんだろ……」
そう呟きながら柵を乗り越え、暖かい雨が降りしきる屋上に戻る。
ガチャッ‼
Ki「なかむ!?」
Na「ん…?あ、きりやん」
Br「なかむ!」
Na「ぶるーく……」
Ki「お前、自殺とかほんとにすんなよ」
Na「………うん、大丈夫。…もうしないよ」
Br「本当に?」
Na「…うん。それより先に、しなきゃいけないことが見つかったから」
そう言って、きりやんの方を見る。
Ki「…ん?どうしたの?ニコッ」
きりやんは、ぎこちなく微笑む。
…やっぱり、笑顔を貼り付けている。
Na「…………ううん、ニコ」
Br「……なかむ、なんかすっきりした?」
Ki「確かに」
Na「そう?w」
Br「うん、ニコニコ」
Ki「ん゛ーッ…はぁ、…戻ろっか!ニコ」
Na「うん」
Br「ねぇ僕今日焼肉食べたぁ〜い!」
Na「wwまた?」
Ki「いいよ」
Na「……?」
ふわ、と何かが横を通過したような気がして後ろを振り向くと、
しゃけが、
きんときが、
スマイルが、
今までに見たことがないくらい俺に柔らかく微笑んで、
絶えず輝く星空へ向かって歩いていった。
一瞬、しゃけが立ち止まり、こちらを振りかえる。
Na「…?」
Sha『なかむ、』
Na「ん?」
Sha『……ありがとう』
Na「………ヘヘっニコッ」
Sha『…ッ…ニコッ』
俺がはにかむと、しゃけは泣きそうな表情になった。
が、踵を翻し、彼は元のように歩いていく。
少し足取りが軽くなったかのように思えるその背に、
Na「…ばいばい、((ボソッ」
そう呟き、彼らもわからないほど小さく手を振る。
Br「な〜かむッ!!どうしたの?」
Na「ハッ、…ううん、何でもない!ニコッ」
Ki「早く行こーぜー」
Br「きりやんの方が楽しみにしてんじゃん!!w」
Ki「うるせぇ!w」
Na「wwあ゛〜!!お腹空いた!!」
Br「早くなぁ〜い?」
Na「ーーーーーー!!ーー」
Ki「ーーーー!!」
…………
もう、俺は、“死にたい”だなんて、思わない。
思いたく、ない。
もう、偽る意味なんて、無いから。
空はもう泣いてはいなかった。
ただ碧く、
何処までも澄み渡っていた_______
end.