「あ」
学校からの帰り道。近道しようと路地に入ると、カラスがゴミ袋を啄み道をふさいでいた。
彼女は昔からカラスが苦手だった。昔に聞いた「カラスは頭が良いから、目を合わせると顔を覚えていつまでもつついてくる」という話を信じきり、高校生になった今でもカラスに怯え、避けている。
それは今日も例外ではなかった。道が狭いため──もっとも、狭くなくても横を通るほど近づけはしないが──引き返すことを余儀なくされ、目を合わせないよう慎重に背を向けた。
(うう、またか……)
昨日とほぼ同時刻、同じ場所。ゴミの回収日を無視して置かれた、昨日と同じゴミ袋をカラスがまたつついている。
例によって、彼女は今日もまわり道を強いられた。
翌日。
また、カラスがいた。彼女は迂回した。
翌日。
また、カラスがいた。彼女は迂回した。
金曜日。
彼女はその路地を覗きもせず、迂回路を通ることにした。
月曜日。
あのカラスと初めて遭遇したのは先週の月曜日だった。つまり、最長でも今日で確実にあのゴミが回収されるはずだった。
彼女は明日に小さな期待をよせ、これ以降当分は通らないだろう迂回路を踏みしめた。
翌日。
その路地に、カラスが、いた。
彼女は腰を抜かしそうになった。
初めて見た時、そしてこの路地を覗かなくなるまでの4日ほど、ゴミをつついているそのカラスは1羽だったはずだ。それが今は、見えるだけで10羽はいる。狭い路地にひしめき合って、しかしその場から動かず、鳴きもせず、狂ったようにゴミ袋をつついている。
彼女は涙目になりながら、カラスの注意を引いてしまう可能性も忘れ走って逃げた。この光景を覚えている限り、彼女がこの路地に近づくことは無いだろう。
某日、とある会話
「あの行方不明になった子のお母さん、ものすごい落ち込みようでしたねえ」
「そりゃあ、もう2ヶ月だしな。あれじゃあしばらく口は聞けないだろうよ。」
「なんでもすごい溺愛ぶりだったそうですよ。海に行きたいって言ったらハワイに連れて行くとか、カラスがかっこいいって聞いたら3羽くらい買ってあげたとか」
「へえ、カラスって飼えたんだな。いまそのカラスはどうしてるんだ?」
「さあ。お父さんの方が世話してるんじゃないですか?ていうか、そっちもそっちで____」
「おい、無駄話してる暇あったら手動かせよ。お前も一緒になってサボってんじゃねえ」
「あーすみません」
「行くぞ」
あのゴミは、いつ回収してくれるんだろう。
コメント
3件
怖い怖すぎるちょっとまって!!😱 同じ文の繰り返しで、何とも言えない怖さと恐ろしさが演出されてる… 最高でした😭👏✨
急いで書いたのでカスみたいな出来‼️