先生=te
te「―――」
生徒=st
st「―――」
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いつぶりかわからない、埃を被った制服をタンスから引っ張り出す。
簡単に払ってから、腕を通す。
「…」
このキチッとした感覚が本当に嫌いだ。
少しでもその感覚を逃がすために、ボタンはしめなかった。
食事も取らずに、昼過ぎに家を出た。
もちろん時間はとうに過ぎている。
時間厳守なんて俺には以ての外だ。
最後まで気分が乗ることはなかったが、学校へと向かった。
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この校舎を見たのもいつが最後か、思い出せない。
下駄箱に着くと、自分の下駄箱がどこにあるかわからないことに気づいた。
そういえば職員室すら知らないんだった。
na「どうしよ……帰ろうかな」
?「今来たばっかなのに?」
突然話しかけられ、振り向く。
……
この前見たあいつだ。
知らない奴に話しかけるとか、陽キャ極まりない。
na「…なんだお前」
?「俺?きりやん。君は?」
自己紹介と捉えられてしまった。
na「…」
仲良くする気はさらさらなかったので無視をし、靴を持って職員室を探しに行った。
ここで大体の人はもう関わろうとはしないだろう。
…だが、
kr「君何年生?」
kr「久々に来た感じ?」
kr「趣味とかある?」
kr「好きな教科は?」
kr「そいえば君身長小さいね。何cm?」
kr「俺178〜」
kr「もしかして迷ってる?」
kr「今どこ向かってるの?案内したげるよ」
na「……」
こいつは俺についてきた。
しかも1人で喋りまくり、とにかくうるさい。
人とすれ違う時は、おそらくこいつの友人であろう奴らがこいつに話しかける。
それにより、
「きりや〜ん、ここ教えてぇ…あれ、この子は?」
「よ。きりやん。お、隣の誰?」
「おいきりやん。昨日の……誰?」
「きりや…誰こいつ。まぁいいや、先輩呼んでる」
…と、俺にも目線がきてしまう。
その度にこいつが、
kr「今仲良くなろうとしてる人〜」
なんて、ニッコニコで言っている。
俺にはそんな気ないんだけどな。
やっとの事で見つけた職員室。
こいつは、
「あ、やっぱ職員室探してたんだ。言えばよかったのに〜」
と、変わらない笑顔で言う。
kr「それとも、俺とそんなに話していたかったのかな^^」
なんて煽り口調で言ってくる。
na「…うぜぇ」
そう一言言うと、振り返らずに職員室に入った。
背後から「またね」と聞こえた気がした。
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te「まず、来てくれたのは嬉しいんだが…なんで昼過ぎなんだ?」
na「…」
特に返す言葉もなかったので無言でいた。
こいつはため息を吐くと話を始めた。
te「…まぁいい。で本題だが、君は入学式も来てなかったから教室とか何もわからんだろう」
そこでなんだが…、と言いながら扉を見る。
俺もそれにつられて扉を見た。
……最悪だ
入ってきたのは数分前別れたばっかのうるさい陽キャだ。
kr「失礼します」
さっきとは打って変わって礼儀正しい姿に怪訝な顔を浮かべる。
te「生徒会長のきりやん君だ。彼が案内するから着いていくように」
kr「よろしくね」ニコッ
こいつ、生徒会長だったのかよ…
他の人に代わってもらう事はできないかと、聞こうとした。
…が、そんな隙も与えないという様に、こいつは俺の手を掴むとすぐ職員室から出た。
kr「失礼しました」
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すごく帰りたい…
こいつはと言うと、
kr「……で、ここは図書室でこのまま行くとあっちが…」
思っているよりしっかりと案内はしてくれる。
だが…、
na「…あのさ」
kr「ん、どうした?」
そう声をかけるとこいつは振り返る。
na「手…放してくんね?」
そう、職員室からこいつはずっと俺の手を放そうとしないのだ。
普通の人なら、ここで手を放す。
“普通の人”ならね。
kr「なんで?」
案の定、本当に放さなかった。
しかも悪意は全く感じられない。
na「は?、なんでって…」
kr「だって君手放したら1人でどっか行くでしょ?」
…ご名答。速攻で家に帰るわ。
na「…だからと言って手を繋いでるのはおかしい」
kr「んじゃ逃げないって約束してね?」
…チョロいな。放した途端に走って逃げれば良いだけ。
なんて、甘い考えを抱く。
na「…わかってるよ、さっさと放せ」
素直にこいつは手を放した。
今だ!ダッ
思いっきり走り出す。
kr「あっ…」
背後からは情けない声が聞こえた。
俺はよく警官に追いかけられたりするから足には自信がある。
車相手に何回も逃げ切れてるし、こいつなんて相手にならないだろうな。
階段降りたらもうすぐ下駄箱だ。
na「よし、帰るとするk……」
パシッ
na「えっ…は?、」
状況が瞬時に理解できなかった。
あいつに腕を掴まれた…?
kr「君足速いね〜…で、どこ行こうとしたの?」ニコッ
こんな時でも笑顔を崩さないのが、また恐怖を感じる。
na「…別に」
目を泳がせる。
kr「まさかだけど、帰るなんて言わないよね」
こいつから距離を取ろうとするも、手を放してくれなくて壁に追いやられていく。
na「…そうだったらどうすんだよ」
kr「……」
今度はこいつが無言になる。
na「?、おい…手放せよ、…」
kr「……」
グイグイと引っ張るが、こいつの方が力が強いのか放してくれない。
ちょっとまて、なんでこいつの方が力が強い?、俺は人殴ってたりで強いはずなのに…
そんな疑問が挙がる。
気がつくと壁に背中がついていた。
na「…おい、放せよっ!」
kr「……」
さっきより語気を強くして声を出す。
na「おいって、聞いてんのか!」
すると無言だったこいつの顔が近づいてくる。
na「は、!?…おいっ!、」
ビックリして目閉じる。
kr「帰らせねぇよ」
na「ッ!…//」
耳元で声がして反射的に体がビクッとした。
kr「…はは、w 顔あっかいな〜w」
目を開けるとこいつは俺を見ながらニヤニヤと笑っている。
na「~ッ、いいから放せよっ!///」
バッと手を振ると今度は簡単に振りほどけた。
kr「おぉ、急に力強いなw」
na「…?」
こいつ、今力緩めたか?俺はずっと同じ強さのはず…
不思議に思って自分の手をグーパーする。
……
kr「あー…ちょっと場所ミスったなぁ……w、」
なんて突然振り向いて言うもんだから、俺もこいつの目線の先を見る。
na「…」
見ると、生徒達が俺らを話題のタネにコソコソと話している。
そりゃそうか。
公共の場で男共が壁ドンみたいなことしてたら、噂されるよな。
するとこいつは、
kr「ごみついてたよ」
周囲に聞こえる声量で、何かを払うような仕草をした。
…なるほど、この場をくぐり抜けるつもりか。
てかごみ程度で壁ドンとか距離感バグってるだろお前。
na「…帰る」
演技に付き合うなんて馬鹿馬鹿しい。
kr「え?ちょっとッ…!」
静止を無視して俺はまっすぐ下駄箱に向かった。
通り過ぎる時、生徒達は
「そうだよ…生徒会長が男相手に壁ドンなんてする訳ないよ」
「ごみなんて付かせとけばいいのに、優しすぎるよ…」
「…生徒会長があんなのを好きになるわけが無い」
「そうそう…しかも男なんて、ね」
「生徒会長に壁ドンなんて誰もされた事ないのに、なんであんな奴が…」
「ぽっと出の野郎じゃん、何年だよあれ…」
生徒会長が好きすぎて俺には言いたい放題だな。
まぁ俺はどうでもいいけど…
靴を履き替えている中、後ろはザワザワとしている。
振り返るとあいつを中心に生徒達が群がっていた。
あいつだけは俺を見ていたけど、生徒達はもう俺なんか眼中に無い。
俺を止めようと焦っている表情が見受けられるが、気にもとめないで校門をくぐった。
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kr side
…行ってしまった。
彼は靴を履き、振り返って俺を見る。
その後は何を言うでもなく、背中を向けて歩いていった。
哀愁が漂う背中をただ見つめることしかできなかった。
手を放したら逃げるなんて事はわかっていたのに。
思っているよりずっと足が速かった彼を掴まえるのには少々手間取った。
割と久々に全力で走ったし。
また、彼に関しては追いつかれるとは思っていなかったらしく、驚いていた。
しかし逃がしちゃうとはなぁ〜…
帰らせないとかカッコつけて言っときながら恥ず、
まぁ、これから彼との仲を深めていくことにしよう。
俺は1回決めた事は曲げない主義者なんでね…
…逃げた事、覚悟しとけよ。
絶対に、俺の手中に収めてやる。
st「きりやんくん、大丈夫…?」
st「…ちょっと、顔怖いよ、?」
kr「!…あぁ、大丈夫!ごめんね」
気が緩んでいたみたいだ、気をつけないと。
kr「失礼、先生のところに用事があるんだ。通してね」
st「あ、ごめん!はい、頑張ってね!」
道を塞いでいた生徒達にそう言うと簡単に避けてくれる。
ありがとう、と言いながらその場を離れた。
…計画を練らないとね。
コメント
2件
めちゃくちゃ好きです、、💕続きください🫣