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海を見に行こうと言うからてっきり浜辺の方へ行くのかと思ったけど。

少し歩いて海沿いの道路の方へと行くと、

自分の腰くらいの高さの堤防へと斗希は足と手を掛けひょいと登る。


そして、ほら、と私に手を差し出すのでその手に掴まり、堤防の上に私も登った。

堤防から下を見ると、海ではなくて、沢山のテトラポッドが不揃いに積み重なるようにある。


海は、そのテトラポッドの向こう。



子供の頃、此処ではないけど、こんな風に並んだテトラポッドをピョンピョン飛んで渡って遊んでいたな、と懐かしく思う。

「テトラポッドって危険らしいね」


斗希のその言葉に、ん?と、耳を傾けた。


「テトラポッドの間の海流って複雑らしくて、

隙間に落ちたら、二度と海上に上がって来られないって」



その言葉に、サーと体温が下がるのを感じた。



子供の頃、そうやって遊んでいて、落ちなかったから今私は此処に居るのだろうけど、

そんな危険な事をしていたんだ。



テトラポッドとテトラポッドの間から覗く、その海面を見て、

ゾク、っとしてしまう。



「昔それ聞いて、それが本当かどうか試してみよう、と思った事あったけど、結局、出来なかったな」



斗希は、ひょいと、近くのテトラポッドに飛び乗った。



実行しなくても、そんな危険な事を試してみようと思うなんて、

やはりこの人、ちょっと変なんじゃ…と思い。



そして、その試すのは、果たして、斗希本人が落ちてみる、という事なのか、それとも、誰かをそこに突き落とすのか、と分からなくて、

ちょっと怖くなってしまった。



「川邊専務が、知ってる人の中で斗希が一番変な奴だって言ってたけど。

本当だね」




“ーーあいつは、俺が知ってる中でも一番スゲェ変な奴だからなーー”



テトラポッドの縁ギリギリに立ち、海面を覗いて見ている斗希を見ていて、

その言葉を思い出した。



「え?篤がそう言ってたの?

俺、あいつの周りに居る人間の中で、一番まともだし。

常識人だと思うけど」



私も、初めはこの人の事をそう思っていたけど。



徐々に、斗希が変わった人なのだと気付いた。



「川邊専務の野性的な勘なんじゃない?

斗希は、ちょっとおかしいって。

ちょっとじゃなく、けっこうか」



「野性的な、か」



川邊専務の顔でも思い浮かべているのか、

嬉しそうに笑う、斗希。




「前から思ってたけど、

斗希って、川邊専務の事大好きだよね?」




私も親友の可奈が大好きだから、

その斗希の気持ちは分かる。



けど、斗希のそれは、私のそれ以上にも見える。



小さな頃から斗希は川邊専務と仲良しみたいだから、

もう兄弟みたいなものなのか?




「俺の篤に対する友情って、異常だと思わない?」



そう訊く斗希は、一体私にどんな答えを求めているのか?と考えてしまう。



肯定して欲しいのか、否定して欲しいのか。



それ以前に、そう訊く斗希は、

自分のそれを異常なのだと思っているのか?


「異常なの、斗希のそれは?」



「俺が訊いてるのに」



そう笑うと、異常だと思う、と答えた。



「もしかして、斗希は川邊専務の事を…」



「いや、それはない。

俺はノーマルだし。

昔の彼女とかに、俺が篤に恋愛感情でも抱いているんじゃないかって疑われた事は、何回かあるけど」



「そう…」



それではないのだとしたら、なら、なんなのだろうか?



そう言われてみて考えてみたが、

川邊専務の方は、斗希程その気持ちは深くは無さそうな…。




「俺が篤の為に全力で尽くしてしまうのは、

贖罪なのかも」



贖罪って、斗希は川邊専務に何か悪い事でもしたのだろうか?



それは、川邊専務も知っている事なのか?そうではないのか?




「篤のお姉さんの円さんとは、結衣が思っているような関係じゃないよ」



その突然の斗希の言葉に、えっ、とその顔を見る。



嘘をついてるようには見えないけど、

二度も二人がラブホテルに入る所を押さえた写真を見た私は、そんなはずないでしょ?と思ってしまう。



「円さんとは何もないとかそんな白々しい事じゃないよ。

円さんとは肉体的な関係もあれば、好意も昔はあった」



「昔…」



それは、今は円さんの事は好きではないという事なのだろうか?



一体、斗希は何を言いたいのだろうか?




「俺が中学二年の頃。

円さんは、高校三年生で。

もうあれから18年経つのか…」



斗希は私の顔を見ているけど、その事を思い出しているのか、その目は何処か遠くを見ているように感じた。




「昔、俺は円さんを犯した」



その言葉に、息が止まる程驚いた。




「そこから、それをネタに円さんの事を脅していて、関係を持ってる。

それが、最近迄ずるずると続いてて。

俺もその辞め時が分からなくて、困ってて。

だから、結衣にそのきっかけを作って貰えて、感謝したいくらい」




“ーーもう、この円さんと会わないで。

なら、私は何もしないからーー”



そう言って、私は斗希と円さんが二度会わないようにした。



そうしないと、円さんに慰謝料を請求すると。



「川邊専務に対しての贖罪って、

そのお姉さんである円さんの事を…」



その私の言葉に、斗希は頷きはしないけど、否定もしない。



そうであるから、今、斗希はその円さんとの事も話したのだろう。




「俺は、篤の言うように、凄い変な奴なのかも」



斗希はそう言うと、自分の過去を私に話してくれた。



《斗希side》



篤と仲良くなったのは、家が近いからよりも、通っていた幼稚園が同じだったから。



篤と初めて会った時の事は覚えてないし、

一体、いつ仲良くなったのかも分からない。



気付いたら、篤がよく俺の家に遊びに来るようになっていた。



それは、篤の母親が篤を俺の家に連れて来ていた。



「私、今日も仕事で。

ほら、うちの篤、幼稚園で一番斗希君と仲良いし。

ほんのちょっとだから。

滝沢さん、お願い」



それは、幼稚園のない日曜日で。



その篤の母親の仕事は、多分嘘だったと思う。



篤の母親は、幼稚園の保護者の母親達の中で一番若く、

その若さが原因ではないが、とても常識のないタイプで。



正直、俺は篤の母親が昔から大嫌いだった。



うちの母親は、気弱で外面が良いタイプだから、

そうやって篤の母親に目を付けられたのだろう。



篤には、二人の姉が居て、その姉達は年子で、俺と篤の4歳上と3歳上で。



その篤の母親のうちへの託児の押し付けが始まった時、

俺も篤も年少の3~4歳で、

その姉達も小学生とは言えまだまだ子供だからか。



篤だけではなく、その姉達もセットでうちに押し付けて来た。




「困ったわねぇ」



俺の母親はそう溜め息を吐いていたが、

先程、玄関先で篤の母親に押し付けられている時は、

笑顔ではいはいとそれを引き受けていた。



そんな風に一度引き受けてからは、

毎週のように篤達姉弟がうちに来るようになり、

日曜日だけではなく、いつの頃か、土曜日も来るようになった。



父親は、そうやって勝手に引き受ける母親に初めの頃は怒っていたが、


篤の母親が、とても若く美人だという事を知ると、何も言わなくなった。



それどころか、近所で篤の母親に会う度、その事で篤の母親と話すきっかけが出来て、喜んでいた。


篤の母親はいわゆるシングルマザーで、

篤達はうちの家の近くのアパートの一階に住んでいた。



うちへの篤達の託児は2年くらい続いていたが、

いつの頃か、俺が逆に篤の家に入り浸るようになっていた。



そうなったのは、小学校へ上がる前くらいだったか?



土日はいつも俺は篤の家に居た。



篤の母親は、そのアパートの部屋に居たり居なかったりで、

居ても、いつも男と一緒に居た。



そのアパートは2DKで、広くはないからか、その篤の母親と彼氏なのか内縁の夫みたいな男がイチャイチャとしているのを、何度も俺も見た。



子供の前だろうがなんだろうが、

お構い無しにキスとかしていて、

流石に最後迄はしていなかったけど、

唇が重なり舌と舌が絡まり合うその光景を、意味も分からずただ見ていた。




「斗希、ゲームしよう」



そういう時、決まって篤は俺の気をそれから逸らすように声を掛けて来たから、

篤はその頃には母親がしているそれがなんなのか分かっていたのだろう。



そういえば、俺が篤の家に行くようになった頃には、

篤の姉達は、いつも週末は友達の家か何処かに出掛けていたように思う。



それも、姉達は何かを察しての行動だったのだろう。



俺と篤が小学校へと上がると、外で遊ぶようになり、

また篤の姉達や、その友達数人でよく遊ぶようになった。



平日、俺は習い事が忙しかったので、週末はいつも篤達と遊んでいた。



平日も習い事なんか行かずに篤と遊びたかったけど、

私立ではなく篤と同じ公立の小学校へ行きたいと言った俺の我が儘を母親は聞いてくれたので、

だから、文句を言わずに平日は習い事を頑張った。



小学校のクラスは2クラスしかなかったからか、

篤とは6年間同じクラスになれて、

俺と篤は、とても仲が良かった。


俺と篤が中学へと上がると、

篤は非行の道へと走り髪を染め煙草を吸い出した。



俺は同じように非行に走る事はなかったけど、

篤とは変わらず仲が良かった。



でも、小学校の時みたいに、常に一緒に居るという感じでは無くなったと思う。



小学校の時とは違い、中学の三年間は一度も篤とは同じクラスにならなかったし。



篤には篤で、悪い友達や先輩達との付き合いも増え、

俺も俺で、学校でも塾でも、篤とは無関係な友達が増えて行った。



その頃、篤の姉達は、上の姉の円さんはわりと偏差値の高い地元の公立高校へ通っていて、

下の姉の鈴(すず)さんは、

中学卒業後、地元を離れて、篤の母親の昔の知り合いだという人の経営する美容室で、住み込みで働いていた。




「うち狭いから、女も連れこめねぇ。

お前の家みたいに広くて、ちゃんとした自分の部屋があったらいいのによ」



そう篤が愚痴っていたのは、俺達が中学二年の夏の頃。



久しぶりに、日曜日俺の家へと、篤がやって来た。



あの2DKのアパート、今は篤と母親と円さんの三人で住んでいる。



その時付き合っていた彼女の事を、篤は本気で好きではなかったみたいだけど、

その彼女で童貞を捨て、セックスにとてもハマッていた。



篤は中学に入ると、それなりに代わる代わる彼女が居たけど、

最後迄したのは、その時の彼女が初めてだった。



過去の彼女達は、処女だったから手を出せなかったらしく。



「年上の女も、付き合ってみたら悪くねぇな。

経験豊富で」



だからか、そんな台詞も口にしていた。



その時の篤の彼女は、年上で、

俺達の二つ年上の高校一年生。



「上杉(うえすぎ)君のお姉さん、だよね?」



その篤の年上の彼女は、俺達の同級生の上杉君のお姉さんで。



その上杉君もまた不良で、篤と仲が良かった。


その繋がりで、その上杉君のお姉さんと篤は付き合い出した。


「お前は、相変わらず好きな女とか居ねぇのか?」



篤にその手の質問をされたのは、数年振りだった。



「うん。居ない」



そう答えながら頭に浮かぶのは、

篤の姉の円さんの顔。



俺は昔から、円さんが好きだった。




「そっか。

斗希、お前すげぇモテんのに、もったいねぇよな?

もし好きな女出来たら教えろよ」



その篤の顔を見ながら、一瞬、言おうか迷った。



俺は、お前の姉の円さんが好きなんだって。



けど、言えない。



「そーいや、円のやつも最近男が出来て」



その篤の言葉に、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。




「円さん、彼氏居るんだ?」



平静を装い、そう訊いていた。




「ああ。同じ高校のクラスメイトだとか。

どーせ、つまんねぇ奴だろ?

さっさと別れりゃいいんだ」



そう眉間を寄せて話す篤は、不機嫌で。



もしかしたら、俺以上に円さんに彼氏が出来た事に、腹が立っている。




「篤って、シスコンだよね」



そう笑うと、そんなんじゃねぇ、とさらに不機嫌そうな顔をしている。




篤は二人の姉が居るけど、下の姉の鈴さんとは、まるで友達のように仲良くて。



上の姉の円さんは、篤にとって母親代わりの存在だった。



実際の篤の母親がどうしようもない母親だからか、

自然と長女の円さんはしっかりとして、

篤や妹の鈴さんの面倒をとても見ていた。



そして、俺の事も、篤と同じように弟みたいにとても可愛がってくれた。



「ほんと、篤じゃなくて斗希君が弟だったら良かったのになぁ」



そう笑う円さんに、



「うっせーな」



篤はそう言い返していたけど。




実の弟だから、そう言えるのだろうな、と、俺は篤が羨ましかった。


きっと、その頃迄の俺は、本当にまともだったと思う。



俺が変になったきっかけは…。



父親の部屋に本を借りようと入った時。



いつものように、父親の大きな本棚から適当にその一冊を選んでいた。




その時、本棚の奥、並べた本で隠すように何かが隠してある事に気付いた。



俺は、本を何冊も引き抜き床にそれを置くと、

その大きな封筒を手にとった。



その封筒は4つあり、

封筒に印字された社名はどれも違うのだけど、

その封筒の中に入っている紙に書かれている事は、どれも同じような事柄だった。



DNA父子鑑定書。



その四枚どれもに、父親肯定確率99%以上の確率の数字が記されている。



それを見て、ああ、俺は間違いなく父親の子供なんだと、思った。



父親と同じように、俺もいつの頃か思っていた。


もしかしたら、違うんじゃないかって。



俺の顔は母親には似ているけど、

全く父親に似ていないのもそうだけど。



母親が浮気している事も、うっすらと気付いていた。



父親も、母親の浮気に気付いているだろう。



その母親の浮気相手が一人なのか複数人なのか分からないけど、

こうやって俺が自分の子供かどうか疑うくらいの頃から、

母親は浮気していたのだろうか?



昔から、父親はあまり俺に興味や愛情を抱いていないように見えたけど、

ああ、なるほど、とそれで納得出来た。



本当に自分の子供かどうか分からない俺を、愛せなかったのか。


その鑑定書の日付を見ると、それはどれも最近みたいで。



もしかしたら、これはまだ増えるのかもしれないし、

もう処分しているだけで、もっとあったのかもしれない。



もし、この紙のどれかに、俺と父親との親子関係を否定したものが一枚でもあるのならば、

それを信じたくなくて、何度もその鑑定を繰り返したとしてならば分かる。




俺の手の中にある鑑定書は、

そのどれも俺と父親との親子関係を認めていて。



まるで、それを否定して欲しくて、そう何度もそれを繰り返しているように見えるし、


これだけ親子だと証明されても、

まだ、俺が自分の子供だと信用出来ないのだろうか?とも思う。



俺と父親は、顔は似てないがよく似ているのにな、と思う。



几帳面に並んでいた、その本棚なんか特にそう。



それは作者別だったり、その作者のタイトルのあいうえお順だったりときっちりとしていて。



俺も同じタイプだから、父親が並べていたようにその本を並べて行く。





その作業が終わると、その鑑定書を持って父親の部屋から出た。



なんだか自分の部屋に一人で居るのが辛くて、

家のリビングに行くと母親が居て、今はこいつの顔が見たくないと、

俺は家から出た。



今日は金曜日の夕方で、多分居ないかもしれないけど、と篤の家の方へと行く。



俺は携帯を持っているけど、篤はまだ持っていないので、直接家に訪ねるしかない。




「お、斗希」



俺が篤のアパートの近くへと行くと、

篤がちょうど自宅から出て来た所だった。



「お前、今日塾じゃねぇのか?」



俺が黙っていると、篤の方からそう話し掛けて来た。




「そう。今日はない」



だから、今から遊ばないか、と言い掛けた時。




「俺、今から女の所泊まりに行って来るわ」



そう言う篤の声は浮かれていて、

ヤれるからだろうな。




「明日、休みだもんね」



明日は土曜日で、学校は休み。



きっと、上杉君の家に泊まりに行くと上杉君の親には思わせて、

夜は彼女である姉の部屋へ出入りするのだろう。



それとも、上杉君の親にも、篤とその姉との交際は公認なのだろうか?





「あ、あれ、松村(まつむら)の親父じゃねぇのか?

本当、あの親子そっくりだよな?」



その篤の言葉に、松村の父親と思われる人物の方に目を向けた。



その松村は、俺達の同級生の男子で、

そいつも近所に住んでいて、幼稚園から一緒。



篤は知らないけど、俺は松村があんまり好きじゃないし、

昔から、俺達と特に交流もない。




「俺は、父親に似てないよな?」



気付くと、そう口から出ていた。




「そうだな?

斗希は母親似だよな?

つっても、俺斗希の父親数回しか見た事ねぇけど」



自分から訊いていて、その篤の言葉に深く傷付いていた。



似てないだけで、俺は父親に自分の子供だと思って貰えないのだと、苦しくなる。



「俺は父親が誰か分かんねぇけど、父親そっくりだからな」



そう言い切る篤に、なぜ?と思う。



父親が誰か知らないのに。



「なんでそう思うの?」




「俺、あのババアに似てねぇし。

それに、あのババア、俺の父親は誰か分かんねぇとか言いながら、たまーに俺の顔を切なそうに見んだよ。

誰かを思い出すように。

似てんだろうな?俺がその男に」




「そうなんだ…」



あの美人だけど頭の空っぽそうな篤の母親の顔を思い浮かべるけど、

そんな誰かを一途に思うタイプに思えない。



それに、篤の上の姉達もそれぞれまた父親が違うみたいだし。



「まあ、好きでもねぇ男の子供ならば、あのババアも俺の事生んでねぇだろうな」



篤はそう言うけど、姉達もそれぞれ父親が違うから、

三人もそう思った男が居るわけで、


やはり色々緩い女には違いないのだろう、と思った。



俺の母親は、父親の事を好きでもないのに俺を産んだのだろうか?



昔から、母親と父親の間に、愛なんてものがないのは、感じていた。



仲が悪いとかではないけど。



聞く所によると、うちの両親は恋愛結婚ではなくて、お見合い結婚らしいけど。



もしかしたら、母親は俺が父親の子供ではないと思ったから、

俺を産んだのではないだろうか?



父親ではなく、好きな男の子供だと…。



「つーか、俺、そろそろ行くわ」



そう言って、篤は俺に背を向けて歩き出した。



俺は、背に汗をかいているのを感じた。



もう9月だけど、まだまだ暑いからか。



今居る場所が西日のせいか、異常に暑くて、

気が変になりそうだと感じた。


どれくらいそうしていただろうか?



「あれ、斗希君?」



その声に振り返ると、学校帰りの円さんが立っていて。



その姿に、鼓動が早くなる。



最近彼氏が居るのだと、篤から聞いたからか。



だからか、一段と綺麗になったのもそうだけど、妙に女っぽくなったな、と、制服姿の円さんを見て思う。



久しぶりに、間近で円さんを見たな、と思う。



昔みたいに、俺と篤があまり一緒に居ないからか、

円さんとも接点が少なくなっていた。



近所で時々見掛ける程度で。



「篤居ないの?」



アパート近くで立ちすくんでいる俺を見て、円さんはそう解釈したのだろう?


俺が篤を訪ねて来たけど、篤が居なくてどうしようか、と此処に立っているのだと。



「そうみたいで…」



そう言って、立ち去ろとした時。




「じゃあ斗希君、うちに上がって篤の事待ってなよ?

そのうちに帰って来るでしょ」



そう言われ、上杉君の家に行った篤が今夜は帰って来ない事を俺は知っていたけど。



「はい」



そう、頷いていた。


そういえば、篤の家に入るのも久しぶりだな、と思っていた。



母親は相変わらず留守で、この狭いアパートで、円さんと二人。




「斗希君、ちょっと私着替えるから、この扉開けないでね」



そう言って、円さんは襖を閉めた。



篤の部屋と、円さんと篤の母親が使う部屋は引戸で遮られているだけで繋がっていて、

篤の部屋に俺は今居て。



その時の俺はどうかしていたのだと思う。



いや、元々そのつもりで俺はこの家に上がり込んだのだと思う。



先程会った篤の、あの何の悩みも無い能天気な感じにもイライラしていたし、

彼氏が出来て綺麗になった円さんにも怒りを感じ。



それに、この家は壊れ掛けのクーラーが一台あるだけで、暑くてたまらなくて、気が変になる。



立ち上がりその襖を開けると、

スカートを脱ぎ、制服のシャツのボタンを外し終えた円さんの姿が目に映った。


円さんは驚いて、開いていたシャツを閉じて、胸を隠していた。



円さんは、薄い水色のブラジャーを付けていて、

下もお揃いなのか、同じ色のパンツを履いていた。




「…斗希君?」



円さんは怯えていて、俺が今から何をしようか分かっているのだろう。




「円さん、しようよ?」



俺のその言葉に、円さんはさらにガタガタと震えていた。



俺は円さんに近付くと、

その体を抱き締めた。



そこまで近付いて、いつの間にか俺の方がこの人より背が高くなったのだと気付いた。



「辞めて!」



と、俺から逃れ、頬を思い切り平手で殴られた。



それで、頭の中でプツリと何かが切れたような感覚がした。



次の瞬間、俺は円さんの腕と肩を掴み、

強引に床へと押し倒していた。



暑い部屋の中、畳の匂いを強く感じた。



円さんの上に乗り、その体を組み敷くと、

俺を見上げるその目から涙が流れていた。



それを見ても微塵も心に痛みを感じなくて。



辞めようなんて気持ちが起きるどころか、心も体も円さんとヤりたくてどうしようもなかった。



見よう見まねで、円さんにキスをした。


それは、いつか見た篤の母親とその彼氏との生々しいキス。



円さんはやはり凄く抵抗していたけど、

俺の力の方が強かった。



これが、俺にとってファーストキスで、甘い思い出には程遠かった。




「――お願い…斗希君…辞めて…」




円さんはその言葉を最後に、

泣いてるだけで何も言わなくなった。



円さんのブラジャーを外し、

露になった白くて柔らかいその胸を、夢中で揉んで、吸い付くように舐めていた。



ずっと憧れていた円さんをそう出来て、

思わず笑ってしまうくらい気持ちが高揚していた。



弄ぶ、という言葉が当てはまるくらいに、俺は円さんの体を触り、色々見た。



そして、俺も衣服を全部脱ぎ捨て、

それを、円さんの中へと挿れた。



そのぬるりとした感覚の気持ち良さに、

自然と腰が動いていた。



自分でするのとは違う、その感じ。



いつも、自分でする時は円さんの事を考えてしていたけど、

その想像よりも、現実の方がとても気持ち良かった。



そして、イクかもしれないと思った時、

慌てて、引き抜いていた。



円さんの内腿に、それが飛び散る。



一瞬、冷静になったのか、

この人を妊娠させてはいけない、と思った。



そして、畳の上で体を丸め、泣き続ける円さんを見ていて、

とても、気持ちが冷めて行くのを感じた。



一般的な、一回ヤッたら冷めた、と

いうのとはちょっと違うのだけど、


あえて言葉にするなら、手が届かないから、この人の事を好きだったのだと思った。



憧れのお姉さんだった、この人が好きだった。


俺が衣服を身に纏い出すと、円さんは近くにあったティッシュで、

俺の出したそれを拭き取っていた。



それを、とても汚いもののように、

痛いんじゃないか、と思う程、

擦り付けるように拭き取っていた。




「篤に知られたら、俺殺されるかも」



俺に汚され傷付いている円さんを見ていると、篤の顔が浮かんだ。



篤がとても円さんを慕っているのを、

俺はよく知っている。



だから、その殺されるも、冗談ではなくて。




「篤には言わないで」



そうこちらを見る円さんに、え、と思ってしまった。



俺が篤に言うな、と言うならともかく。



「お願い、篤に絶対言わないで」



円さんの目から、またボロボロと涙が溢れ出す。



「なんで、篤に知られたくないの?」



分からないから、訊いていた。



この事を知った篤が俺に報復して、犯罪者になる事を恐れているのだろうか?




「篤、斗希君の事本当に好きだから。

斗希君も、篤の事好きでしょ?

あなた達の関係を、壊したくない」



その円さんの言葉に、胸が潰されたように痛くなった。



今まで、俺もこの人に弟のように大切に思われていたのに、それを壊した。



いや、もしかしたら、今もまだそう思ってくれているから、そんな言葉が出て来るのかもしれない。



心が苦しくて、耐えきれなくて。



「また時々こうやってヤらせてくれたら、篤には黙ってる」



壊れそうになる心を守る為なのか、俺はそう口にしていた。



心を黒く染め、強く守る為に。



今ここで、ごめんなさいなんて言って泣いてしまったら、

心が粉々に砕けてしまいそうで。

LOVEREVENGE~エリート弁護士と黒い契約結婚~

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