学校終わりの放課後。数ヶ月前に比べて日が落ちるのが早くなり、18時を回る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
今日は…今日も学校は楽しいとは言えなくて、うっすらと涙に濡れる瞳を腕で拭いながら帰路を辿る。
動くたびに制服が痣を擦り小さな痛みが襲う。
それでも俺は家族の元に帰らなければいけない。
今日も楽しかったと妄想で作られた理想の友人関係での話をしなければいけない。
そう思ってた…のに。
いつもどおりの日々が続くと思ってたのに…。
家に着いた途端、異変には直ぐに気付いた。
家族はもう家にいるはずなのに家の電気が付いていないのだ。
嫌な胸騒ぎがする。どくどくと心臓が脈を打って、どこか吐き気がした。
家のドアノブを捻ってみれば簡単に回って鍵が掛かってない事がわかった。
『っ…!』
ガチャッとドアを思い切り開ける。
暗い家の中はよく見えないせいか、リビングに向かう途中、足に何度も物がぶつかった。
おかしい…こんな所にいつも物なんて無いのに。
『ママっ!』
リビングに向かってすぐ母親を呼ぶ。
「…らん……?」
か細い聞き慣れた声が聞こえて、ほっと胸を撫で下ろした。
しかしそんな安堵も直ぐに崩される。
暗闇に慣れてきた瞳は、さっきよりも鮮明に家の中を映し出した。
床に散乱した大量の物、食器の破片、リビングの隅で体を小さく丸めた母親の姿。
『…え?』
声が震える。頭が真っ白になって思考が追いつかない。
俺がいない間にこの家に何があった。
今の俺では考えられなくて、蹲る母親のもとへ駆け寄るしかできなくて。
まるでこの世界に俺と母親の二人しかいないような錯覚を起こすぐらいの静けさの中に、俺の肩から滑り落ちた通学カバンだけがやけによく響いた。
『ママ大丈夫…っ?何が……』
「泥棒が入ったの…それで………」
「お父さんが殺されたの……!」
『…は?』
全て夢だったらどんなに良かっただろうか。
たちの悪いドッキリだと何度心の中で願っただろうか。
でも、ぐちゃぐちゃに荒れた家の中と母の悲鳴に似た声はそんな希望さえ持たせてくれなかった……。
俺は今まで必死に生きてきた。
幼いながらも自分を取り繕って。
辛い事もしんどい事も必死に耐えて、笑って…。
俺は大丈夫だからって…でも、
「らん、ごめんね…」
どうしてこんなにも、現実は残酷なんだろう…。
17歳の秋。俺は父親を失った。