その後はよく覚えていない。
過呼吸になる母親の背中を擦りながら、何とか家の電気を付ければ、キッチンの方で人間の横たわった脚を見つけた所から俺の記憶は無くなっていた。
ただ受け入れられない現実と、見知った人物の最期の姿に絶望に似た恐怖を感じて、今までに出したことないような大声を出したことだけは覚えている。
気付いたら全て終わっていて母親は精神的ショックで病院へ運ばれ、父親はどこかへ連れて行かれ、俺は警察の方と話をした後、同情したような顔で頭を撫でられた。
やめて…よ………
優しく温い手のひらは、信じたくない現実がリアルに色付いていくようで…泣いたらそれは現実なんだと認めてしまうような気がして…。
下唇を噛み締めてただただ必死に堪える事しかできなかった。
そんなギリギリで堪えた感情は、たった1人の男性に簡単にぶち壊される。
「すみません、迎えに来ました」
聞き慣れたその声は、俺を安心させるには十分だった。
無意識に篭っていた体の力が魔法が解けたように抜けていきずるりと崩れ落ちる。
そんな俺を彼は直ぐにおんぶして、ずっと俺のそばで付き添ってくれてきた警察の方と話をし始めた。
「こんな夜遅くにすみません…。」
「いえ大丈夫です。…コイツもうぐったりなので、今日は帰っても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
「では失礼します。」
ぺこりと一礼したあと、彼の背中に乗ったまま警察署を後にする。
日付が変わった真夜中の外は、俺のこの先の人生のように少し先も見えないくらい真っ暗で不安にな
『あ…』
先が…見えた。
彼がスマホのライトで辺りを照らしたおかげで、辺りがよく見えた。
俺にとって非現実的な時間だったのに、周りはいつもと変わらない様子で時間が進んでいる事にどこか安心して涙がこぼれた。
『…うっ…うぅ………』
「お前急に泣くじゃん…。もう大丈夫だから」
「なっ?」なんて言う彼はいつもの何十倍も優しくて、さっきまで流れる事なかった涙が次々にこみ上げる。
近くのコンビニまで歩いていけば、コンビニの駐車場に止められた1台の車の中に座らされて、見慣れた顔がよく見えた。
「お疲れ様…。頑張ったな。」
俺の頬に手を添えられて、親指で涙を優しく拭う。
俺はそんな彼の胸元に顔埋めて背中に手を回した。
ぎゅ…っと背中側の服を握って、小さい子のように方を震わせて嗚咽を零す。
怖かった
辛かった
しんどかった
もう駄目かもって、俺の人生どうなるんだろうって…。
でもお前が照らしてくれて、迎えに来てくれて、優しさに触れて…。
『うぅぅ…っ』
「はいはい」
こうして俺を真正面から受け止めてくれた。
『いるまぁ…っ、こわかっ…た…!』
「うん、頑張ったな」
『もう駄目だって…もう無理だって……』
「大丈夫…。お前は1人じゃねぇから」
そう言って俺の背中を擦る手は、どんな手よりも優しかった。
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