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なりみや
珍しく健全なラブストーリー書きます。
そういえば3月27日はさくらの日だったそうです。
いつの話だよって思いますよね、本当はその日にこの話出したかったんです……
だらだら書いてたらこんなにも過ぎて……
反省してます(してない)
〜注意〜
一応オリジナルの創作奇病です。
死ネタ……?かもしれない
ちょっと今までと作風が全然違うんですけど、血迷ったんだなって思ってください。m(_ _)m
若草の香る風が優しく肌を撫でる、三月も終わりを迎えようとする頃のことだった。
小鳥は温かな日差しを浴びて、春の訪れを歌っている。
足元に目を落とし、道端のヒメオドリコソウやタネツケバナの彩りを眺めながら歩いていると、いつの間にか小さく開けた場所にいた。
周囲を見渡すと、ここは手入れの行き届いた庭園のようで、一面に咲いた草花は綺麗に整えられている。
その奥に、樹齢百年をも超えるであろう大きさの枝垂桜がひっそりと咲いていた。
その不思議な魅力に惹かれるようにして、枝垂桜の帳の中へ入っていく。
中に入った瞬間、桜色が外の世界を隠し、俺を優しく包み込んだ。
暖かな陽の光は千枝の合間から零れ、足元の草花を淡く照らす。
「……綺麗……」
その美しさに思わず言葉にならない感嘆が溜息となって口から漏れる。
垂れた枝にはまだ蕾が残っていて、柔らかな花弁の中で息づいた濃い桜色が際立っていた。
「こんなに綺麗なのに、まだ咲き始めなのか……」
「満開になったらどうなるんだろうな」
桜が散る前にまた来よう、と心の中で思いながら枝垂桜の元から離れようとした時、ふと、庭園の奥に人影が見えた。
来た時は気が付かなかったが、その人はずっとベンチで寝ていたようで、座ったまま背もたれに体を預けて静かに寝息を立てている。
その寝顔があまりにも綺麗で、俺は一瞬桜の精霊が寝ていると思い、自らの目を疑った。
透き通った肌に、片目に掛かった艶のある髪、伏せられた長いまつ毛……
その全てが彫刻のように美しかった。
「整った顔だな……」
声を掛けようかと迷ったが、人の寝顔をいつまでも見ているのも良くないと思い、俺はそのまま庭園を出た。
何故だかその日はあの人の顔が頭から離れず、次の日、気が付けば俺の足はまたあの庭園に向かっていた。
今日も昨日と変わらず気持ちの良い晴天で、心做しかまた春が近づいたような気がする。
あの庭園に着き、あの人が枝垂桜を見上げて立っているのを見つけた俺は、その美しい後ろ姿に目を奪われ、庭園の入口で立ち尽くす。
すると俺の気配に気が付いたのか、あの人は目を見開いて少し驚いた様子でこちらを振り返った。
しかし彼はすぐに微笑み、こっちにおいで、と小さく手招きをする。
「……桜、もうすぐ満開になりますね」
隣に立った俺に、彼は優しく声を掛ける。
「はい。ここの桜、本当に綺麗で……ニ日連続で来てしまいました」
「そう言って頂けて嬉しいです。実はこの桜、私が管理してるんですよ」
そう言いながら彼は水色の瞳を細め、愛おしそうに桜を眺める。
そんな横顔も桜に引けを取らないほど美しく、話している間も一時も目を離せなかった。
ずっと見ていることが気付かれていないだろうか。
「ぁ……昨日、もしかして私が寝てるところ見られちゃいましたか……?」
「す、すみません……寝顔が綺麗でつい……」
彼はえっ、と声を漏らすと、頬を赤らめながら誤魔化すように話題を変える。
「ぁ、えっと、名前……お聞きしてもいいですか?私、Nakamuって言います」
「きんときです。あの、良ければまた明日ここで会いませんか?」
「勿論、お待ちしています」
翌日、俺はまたあの庭園に向かった。
一晩であの枝垂桜は満開となっており、より一層存在感が増している。
「Nakamu、さん……?」
昨日と違い、枝垂桜の前に彼はいない。
周辺に視線を走らせると、庭園の端で倒れている彼の姿があった。
「っ、Nakamuさん……!?」
息を切らしながら駆け寄り、彼の肩を抱き起こすと、彼は薄く目を開けて優しく微笑んだ。
「きんときさん……来てくれたんですね」
「大丈夫ですか……?!」
「……どうしてか、昨日から桜の元を離れると体調が悪くなってしまって……」
俺は迷わず彼の身体を抱き抱え、枝垂桜の元に連れて行く。
すると彼は元気を取り戻したようで、幹に手をつきながらゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうございます……。助かりました」
「もう体調は大丈夫なんですか?無理はしない方が……」
「自分でも分からないんです。ただ、桜の傍にいると不思議と楽になって……」
困ったように眉をひそめながら、彼は優しく桜の幹に手を滑らせる。
「――この桜は百年以上前に私の曽祖父が植えたものなんですよ」
「――きんときさんは、本当に綺麗な声をしていますね」
元気を取り戻した彼は、時折こちらに笑顔を見せながら透き通った声で沢山の話をしてくれた。
次の日も、また次の日も……何度も彼と会い、沢山の話をした。
しかし時間が経つほど、庭園に着いた時に彼が倒れていることが増えていき、いつの日か彼は一日の大半を枝垂桜の傍で過ごすようになった。
「きんときさん……私、薄々気がついていたんです」
桜も散り終わろうとする4月の中旬。
Nakamuさんはまばらになった花弁を見つめながら、切なげな声でそう言った。
「……?何のことですか……?」
束の間の静寂の中、伏せられた彼の瞳が潤んでゆく。
「私、きっと病にかかっていたんです。貴方と出会った、あの時から……」
頬を流れる涙が木漏れ日に照らされ、一瞬だけ宝石のように輝いた。
しかし、その涙はすぐに小さな桜色の花弁に変わり、ひらり……ひらりと舞い落ちる。
あまりに美し過ぎるその姿に、俺は言葉を失った。
「本当にごめんなさい……私は小心者ですから、もう……」
その時、強い春風が枝垂桜を揺らした。
微かに残っていた花弁が一斉に散り、桜吹雪となって俺たちに降り注ぐ。
それと同時に、彼の身体は桜の花弁となって消えていく。
「あぁ……お別れですね……」
「っ、……Nakamuさん……!俺……っ!」
「いつまでも……貴方と……居たかった……」
結局俺の最後の声は喉から出ることは無く、彼の小さな声も花弁となって散っていった。
後に残されたのは寂しく佇む一本の枝垂桜と、風に攫われていく静寂だけだった。
春は俺の心に大きな穴を残して、幻のように過ぎていった。
あの不思議な春から五年が経つ。
あれから毎春、俺は桜が咲き始めてから散り終わるまで、毎日あの庭園に足を運ぶようになった。
もうとっくに慣れてしまった庭園までの道。
今年も変わらずヒメオドリコソウやタネツケバナが道端を彩っていた。
庭園に着くと、あの枝垂桜は今年もそこで咲き続けていて、俺はいつもその花に幻影を見る。
「きんときさん、今年も桜が綺麗ですよ」
彼はあの時と変わらない姿のまま、桜に負けないほど優しく華やかな笑顔で笑いかける。
「ずっと……春を、貴方が来るのを待っていました」
「俺もNakamuさんと早く会いたかったです」
俺にとってこの季節だけは、幻でもNakamuさんと会える特別な時間になった。
「いつまでも貴方と居たかった」
彼の最期の言葉。
俺だって、そう思っていた。ずっと、いつまでも彼と居れると思っていた。
だからこそ五年か過ぎた今でも、彼の幻影を見ているんだろう。
でも、この心地よい幻影にいつまでも甘えては居られない。
きっとこの病は俺だけでなく、Nakamuさん自身をも縛ってしまうものだ。
俺はこの幻影を消す方法を知っている。
あの時、彼も俺も出来なかったこと。
「……Nakamuさん」
「はい、どうしましたか?」
「こんなにも、遅くなってしまったんですが……」
ゆっくりと深呼吸をして、俺は口を開いた。
「俺、Nakamuさんが好きです。付き合って……貰えますか?」
「はい、もちろんです。……ふふ、嬉しい」
彼の目から涙が零れ落ち、春風は桜吹雪と共にふわりと俺達を包み込む。
「きんときさん、必ず幸せに生きてくださいね。私との約束です。」
「Nakamuさんも、見ててくださいね」
彼の表情は今までのどんな時より幸せそうで、今にも消えそうな程美しかった。
すると彼は華奢な手で俺の服を掴み、唇を開く。
「最後に、キス……してくれませんか?」
透き通った頬に優しく触れ、俺は静かに目を閉じながら顔を近づける。
しかし唇同士が触れる感覚は無く、ただ微かに春の香りが鼻を掠めた。
次に目を開けた時には彼はどこにもおらず、ただそこに無数の花弁が舞っているだけだった。
「Nakamuさん……愛してます」
満開となった一本の枝垂桜は、陽光の光を見に受けて美しく輝いていた。
オリジナル創作奇病一
・徒桜病(あだざくらのやまい)
桜の咲く時期(3月下旬から4月上旬)に恋をすると稀に発症する。
症状
・発症して時間が経つほど桜のある場所に留まろうとする。
・満開にかけて桜の近くに居ないと体調不良になる。
・桜が散り終わるとき、身体も花弁となって消えていく。
・散り終わるまでに想いを伝えれば消えない。
オリジナル創作奇病二
・夢見草病(ゆめみそうのやまい)
恋をして思いを伝えられぬまま想い人が亡くなると稀に発症する。
症状
・稀に桜に亡き恋人の幻が見える。
・桜が咲くと共に症状が現れ、散ると共に症状が無くなる。
・想いを伝えると幻は見えなくなる。
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