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球技大会の決勝。激しい攻防の末、優勝を決めた瞬間のことだ。
「……、……っ」
優は、コートの端で一瞬だけ顔を歪めた。
リバウンドに跳んだ際、着地で相手の足を踏んだのだ。足首に走る、焼けるような熱。けれど、彼は表情一つ変えず、何事もなかったかのように走り出す。
(……この程度、どうってことない。ここで止まれば、陸の勢いを削ぐ)
優は自分に言い聞かせる。彼は、自分が「陸の引き立て役」でいいと思っているわけではない。けれど、陸が一番輝く舞台を、自分の不手際で汚すことだけは許せなかった。
だが、コートサイドからスコアをつけていた泉の目は、誤魔化せなかった。
ずっと、二人の動きを追ってきたから。優の「効率的な動き」が、今は「痛みを庇うための動き」に変わっていることに気づいてしまった。
「……あ」
試合終了のホイッスル。
陸たちのクラスが優勝を決め、体育館中に歓声が爆発する。陸は仲間に囲まれ、もみくちゃにされながらも、最高の笑顔でそれに応えていた。
その喧騒から離れるように、優が一人、壁伝いにベンチへと向かう。
「優くん!」
泉はスコアブックを放り出し、救急箱を抱えて駆け寄った。
「……何だ。あいつらのところに行ってやれよ」
優はベンチに深く腰掛け、荒い息を吐きながら泉を突き放す。
「足、見せて。さっき、着地の時に捻ったでしょ?」
「……、……っ。触るな。……お前は陸を見てろって」
優は泉の手を振り払おうとした。けれど、泉は引かなかった。いつもはおどおどしている彼女が、今は真っ直ぐに優の瞳を射抜いている。
「陸上部なんだから、足は大事にしないと! ……もし酷くなったら、どうするの?」
泉の強い口調に、優は一瞬だけ言葉を失った。
自分を「陸の付属品」としてではなく、一人の「陸上部員」として、その将来を案じてくれている。その純粋な視線が、優の頑なな心をわずかに解かした。
「…勝手にしろ」
優は毒気を抜かれたように、大人しく足を差し出した。
泉は黙って保冷剤を当て、包帯を巻いていく。その丁寧な手つきを、優は上からじっと見つめていた。
「……、……あいつには、言うなよ」
「え?」
「陸だよ。……あいつは、こういうの見ると無駄に余裕をなくす。……そんな陸、見たくねーんだよ」
優は目を閉じ、苦々しく吐き捨てた。
誰よりも陸の「完璧な余裕」を信じ、それを守ろうとしているのは、実は一番近くにいる優なのかもしれない。
泉は、包帯を止めるテープを切りながら、優の横顔を見つめた。
太陽のように輝く陸。
そして、その太陽を翳らせないために、暗闇で一人、痛みを堪える優。
「……分かった。二人だけの秘密にしよう」
泉の小さな言葉に、優は一瞬だけ目を開けた。