テラーノベル
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阿久津の猛攻は続いていた。
彼の実力が監察官に匹敵すると言う表現は、誇張ではない。
ルベルバックの煌気に適応し、独自の軍事技術を改良し、そうして作った装備で専用のスキルをいくつも生み出した。
ルベルバックの地で戦うと言う前提ならば、もしかすると監察官やSランク探索員が2人がかりでも、阿久津は勝利するかもしれない。
「くははははっ! おい、逆神ぃ!! もっと反撃して来いよぉ! つまんねぇだろぉ? 俺がお前をいたぶるだけじゃあよぉ! いや、充分楽しめてるけどなぁ? こんなに丈夫なサンドバッグ、今まで見たこともねぇよ!! くははっ!!」
傷だらけの逆神六駆。
もはや防御スキルすら使っていない。
何故か。
もう何度も言及しているが、何度だって繰り返そう。
お金の攻撃を防ぐと罰が当たるとか考えているからである。
もう、ほんわかぱっぱどころの思考力ではない。
おばさんの口車に乗ってフランクフルトまで行ったハイジより頭が悪い。
ちなみにおばさんにそそのかされたハイジは当時8歳。
六駆くんの精神年齢は46歳。
もう、どんな形容をもってして彼を擁護したら良いのか分からない。
我々は彼のどうしようもないところを散々目撃して来た。
だが、まさか、お金のために敗北寸前まで追い込まれる彼を見る事になろうとは。
バカなんじゃないのか。
もう、ハイジに失礼である。
ヤギより頭悪いぞ、このおっさん。
「ったく、拍子抜けだぜぇ。『結晶外殻』の本領発揮もまだだってのによぉ! いい加減、なぶり続けるのも飽きて来たわ。なんか、高校生をボコボコにしっぱなしってのも、俺のイメージ悪くなるしなぁ」
阿久津よ、その点は安心して良い。
君が今なぶっているのは、6つの異世界を独りで平定した英雄だ。
むしろ、誇りに思うと良い。
恐らく、逆神六駆をここまで追い詰めた人間は、阿久津が初めてなのだから。
厳密に言うと500万円が追い詰めているのだが、それを言うと一気にクライマックス感が茶番になるので、黙っておくのが花なのである。
「あーあ。南雲はまだ来ねぇのかよぉ? 仕方ねぇ、いっちょデカいのお見舞いして、急がせるか! この惑星をいくつか集めると、どうなると思う? 答えはてめぇの身で味わえよなぁ!! 『結晶彗星』!!」
12個の『結晶』が重なり、煌気を蓄えたのち、巨大なほうき星となって六駆に襲い掛かろうとしていた。
生身で受けたら、もしかすると彼でも危なかったかもしれない。
そんな時、彼女の声が皇宮内に響いた。
小坂莉子は、どんな時でも逆神六駆を奮い立たせてくれる。
彼女の言葉は、いつでも六駆の心の支えとなる。
「六駆くん! 南雲さんが、本気出しても良いって! 500万円、ちゃんとくれるって!! だから我慢しなくていいよぉ!!」
莉子の言葉を理解するまで六駆おじさんの脳は時間を要した。
だが、その前に本能が全てを理解した。
敵を倒しても、お金が貰える。
彼はそれだけで戦える。
「えっ!? それ、ホントのヤツ!? 絶対!? 嘘じゃない!? ああ、鬱陶しいなぁ、これぇ!!」
阿久津が自信満々のフィニッシュブローとして放った『結晶彗星』をペシンと右手で払いのけると、そこにはいつもの六駆がいた。
瞳の奥にお金への執着心を湛えた、意地汚いおじさんが帰って来た。
「ホントだよぉ! 南雲さんも、あと5分でこっちに来るって!!」
「ああ! 莉子!! 君のくれる情報はいつでも僕の命綱だ! ありがとう! 愛してる!!」
「ふぇぇっ!? あ、愛し……!?」
莉子さん、不意打ちの言葉に控えめな胸を撃ち抜かれる。
大丈夫か。おっさんの「愛してる」ほどこの世で軽いものもないと思うのだが。
「芽衣ちゃん! 莉子ちゃんの足持って! あたしは頭の方持つから!!」
「みみっ! 了解です! 小坂さん、お気を確かにです!! 師匠、あとお願いしますです!!」
何故か戦闘不能になった莉子を連れて、クララと芽衣が一時退却。
六駆はボロボロになった配給装備のプレートを破り捨てて、肩を回しながら首の関節をコキコキと鳴らす。
「さあ、本番といきましょうか。ええと……500万さん!!」
とりあえず、六駆の脳内から阿久津浄汰と言う名前が消失した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
穏やかでないのは阿久津である。
『結晶彗星』は、7割の力で撃ったにせよ、その威力でゴルラッツ砦の3つや4つはまとめて破壊できる程のスキル。
それが、なんだかよく分からないけど素手でペシンと払われる。
「くはははっ! 逆神ぃ! 逆神よぉ! そうこなくっちゃなぁ! また、俺の知らねぇスキルを使ったんだなぁ!? でもよぉ、あの大技弾くとか、相当の煌気使っちまったんじゃねぇか? 俺ぁまだまだ、80を超える『結晶』があるんだぜぇ?」
「さっきのは僕の手首のスナップ効かせたビンタです。と言うか、その周りを飛んでる星ってやっぱり減るんですね。それは良い事を聞きました。……ええと。あの、アレだ。……はい!」
繰り返しお伝えいたします、
現在、六駆くんの中で阿久津浄汰と言う名前は存在が消えております。
どうにか思い出そうとしたようですが、無理でした。
「やっと本気出す気かぁ? それにしちゃあ、遅すぎたなぁ? ボロボロじゃねぇかよぉ!」
「本当ですよ。僕の愛用の装備が。膝とか腕とか擦りむいちゃいましたし」
「減らず口叩いてねぇで、かかってこいよぉ!!」
「では、遠慮なく! ふぅぅぅぅぅぅんっ! 『麒麟の黒雨』!!」
「やっとスキル使って来やがぁががががかがっ!? な、なんだこりゃあ!? あがががががががが!? ぐぅあっ、『結晶七星盾』!!」
阿久津は見誤っていた。
もちろん、逆神六駆の実力を。
彼は、「高くても自分と同等」と見積もっていた。
それでもかなりの余裕を持った物差しを用いており、充分な安全マージンは保たれているはずだった。
その点において、阿久津が恥じる事はない。
何故ならば、これまで逆神六駆の実力を初見で測りきれた者などいないのだから。
「おっ! いいですね! 今のを喰らってまだ飛んでるとか! 我慢していた分、僕もどんどん行かせてもらいますよ!!」
「が、我慢!? お前、何言ってやがらぁ!! 『金色結晶巨星砲』!!」
40近い数の『結晶』を動員した、阿久津の必殺技が放たれる。
嬉しそうに歯を見せた六駆おじさん、避けようとせずに両手を合わせる。
「『二角獣の双撃』!! さあさあ、撃ちあいですよ!! うふふふ!!」
炎と冷気の強スキルを右手と左手から同時に発現させると、その2本の角を持つ幻獣が阿久津に襲い掛かった。
「ぐぅっ!? がぁぁっ!? バカなぁぁっ!? この俺が、撃ち負けたぁぁ!? だがま」
「あ、なんかそういう強者感出してもらわなくても良いみたいなので。追撃しときますね。今度はちょっとガチで撃ちます! 『麒麟の黒雨・二重』!!!」
六駆が500万さんに忖度せずに撃った重力スキルは、彼に悲鳴をあげさせる間もなく、皇宮ごと地面にめり込ませた。
なおもスキルの発現を止めない六駆。
「まだまだ頑張ってもらわないと!! ほらほら、星使って! ええと、うん、そう!!」
眠った悪魔を起こしてしまった、阿久津浄汰の運命はいかに。
既に先の見えている物語ほど語るに興が冷めるものもない。
コメント
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ああもう、これだよこれ!六駆おじさんのリミッター解除、最高すぎたわ。500万円でここまで変わる主人公、初めて見た。阿久津が本気でビビってるのも面白いし、「ええと…アレだ…」って名前忘れてるのがおじさんらしくて笑った。莉子ちゃんが不意打ちの「愛してる」で撃ち抜かれて戦闘不能になってるのもツボ。次どうなるのかマジで待ちきれない🔥
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