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どれほど俺は気絶していたのか…気がつくと部屋は暗くて、外はすっかり夜になっていた。
咄嗟に首元を撫でて食い殺されていないことに安堵して周囲に目をやると枕元に、レトルトのお粥のパウチと市販の風邪薬の箱が置かれていた。
それを置いて行ったであろう男の書き置きで「冷蔵庫にプリンとゼリーもあるから食べてね♡かわいいキツネちゃん♡」と書かれていた。
俺はとにかく、斑類の本当の自分の姿を知られたことが怖かった…誰かが「隠し通せ。」と言ってくれたこの姿は、他の斑類にとって喉から手が出るほど欲しいものだと、今はもう知っていたから。
もし、このことを他の誰かにバラされたら?斑類は人口的にも数が少ない…
加えて、中種のキツネである俺は重種の種も受け入れられるし、犬も猫も混ぜやすい……そのせいで売られそうになったことだって何度もあった。
そう言う雰囲気になる前に思考を読んで逃げてきたし、襲われそうになった時はとにかく暴れまくったこともあった。
(最悪だ…俺……アイツの連絡先、知らない……)
スマホを握ってため息を吐くと―くぅ〜…―何て間抜けな音がした。
こんなに危機的状況なのに、腹が減る時は減る…とりあえずパウチを温めるためにお湯を沸かそうと思ってキッチンに向かうことにした。
コンロの火を付けながらアイツとどうやって連絡を取ろうか考えてから熱を測ってみるとだいぶ下がっていた。
明日には問題なく出勤できそうだ、なんて思っていると鍋の中のお湯が湧いてパウチのお粥もしっかり温かくなっていた。
(今まで上手く隠せてたのに…なんでよりにもよってアイツに…)
これがただの知り合いだったり、坂本さんを通しての関係だけだったら問題はなかっただろう…でも、俺は最近アイツにモーションをかけられてたと思う…
猿のフリをして、猿のように鈍感を装っていたから分かる。時々なんでもない風に接触していた行動が、全部マーキング行為だったことに…
坂本さんはそれに気が付いて遠ざけようとしてくれていたことにも気付いてる。
わからないフリをしていれば大丈夫…なんて言うのは、もう通用しない。
とにかく、会っても「一緒にはなれない。」「子を成す気はない。」これを徹底して伝えよう!……と、思っていたのに――
「…な、なんだ?これ??」
熱も引いて坂本商店にやってくると、店が半壊していて、殺連から派遣されたフローター達がブツブツ文句を言いながら店の修繕をしていた。
訳が分からず呆然としていると、ポンっと肩を叩かれて振り向く…そこに居たのはルーで「何があったんだよ!?」と問うと、ルーは疲れた顔をして俺が休んだ日のあらましを教えてくれた。
そろそろ店を閉めようかと言う時間、ふらりと来店した南雲に坂本は「店を閉める。帰れ。」と告げたが、南雲は帰るどころか本性を少しだけ出して坂本に話し掛けた。
もちろん、ルーも坂本もサルではないため互いの縄張りを犯すような行動に眉を顰めると「シンくん、サルじゃないでしょ。」と話し掛けた途端、坂本と南雲で殴り合いになった。らしい。
ルーは遠くから見ていたため、殴り合いに巻き込まれる前に店から出たらしいが、すさまじかったらしい…ちょっと見たかった気もあるけど
それよりも俺の本性を南雲がバラしたことで、ルーも「シンってサルじゃなかったノ?」と聞いてきた。
いくらルー相手でもホイホイ教えることはできない…キツネのことを伏せて「まぁ…サル、ではない。」なんて答えるのでいっぱいいっぱいだった。
それでも嫌な顔することなくルーは「サルじゃないなら気を付けてネ!アイツ本気でシンのこと狙ってたヨ!!」と忠告してくれた。
「ルーは…アイツがなんの斑類か分かったか?」
「オオカミでしょ?ワタシ初めて見たヨ…あんなに大きなオオカミ、マフィアの世界にもそうそういないヨ!」
「そう、か…」
「店長は今、宮バァちゃんのところに行って湿布もらってると思うヨ!」
「婆ちゃんとこ?じゃあ!俺、迎えに――」
「やぁ、シンくん♡」
突然ドンとのしかかったプレッシャーに、俺は腰が抜けた。
よろめいた俺を受け止めたのは、今一番会いたくなかった男で…俺のことを狙っているオオカミの男、南雲
しかも、店を半壊させた犯人でもある。
俺が動けずにいるとルーも構えを取って「お前!今度は何しにきたネ!!」と威嚇したけど、一瞬出てきたオオカミの気配に俺とルーは震え上がり、固まっていると南雲は俺の首元に擦り付いてきた。
ゾワゾワするのは、コイツがオオカミってことを知ってる俺にとって恐怖心でしかないし…香ってくるフェロモンは俺を誘っているのがすぐに分かった。それに反応する自分の体に嫌気がした。
南雲の方もそれを分かっていて俺に擦り付いて、腰を撫でてくる。
「やっ、やめ…っ!!」
「ねぇ、君…無視してたよねぇ?ボクが散々アプローチしてたのに分からないふりしてたんだぁ〜」
「違う、俺は…!」
「オオカミとキツネって相性いいらしいよ?」
「じゃあその相性いい奴とやれよっ!」
「らしいってだけだから、ボクはまだキツネとは寝たことないよ〜」
「それなら俺とお前の相性は最悪だからやめろ!!」
「ん〜?やってみないと分からないよ〜?一回ヤったら赤ちゃんも欲しくなるかも〜♡」
そう言いながら、南雲の手が俺の腹を撫でて「もし、懐蟲を挿れるとしたらこの辺かなぁ?」なんて囁いてきた。
その声音と手付きに膝が震えているとルーが「こんな昼間っから盛るナ!シンから離れろー!!」と殴りかかって行くけど、南雲はヒョイッと避けて「あはは〜wチャイナちゃん元気だね〜」なんて言いながら、俺は南雲に抱かれたまま店から離されそうになって暴れまくってもビクともしない
このままだと本当に襲われる…そう思って動けなくなっていると南雲の顔の横に何かが飛んできた。
それは後ろのコンクリート塀に刺さったようで…俺がそれの目をやると【坂本商店】と書かれた店のノベルティのペンが刺さっていた。
「…なぁんだ、もう帰ってきたの?」
「ルー…ここから離れろ、店の修繕を頼む。」
「わ、分かったヨ…!!」
ルーは申し訳なさそうにして俺を見たけど、重種同士の戦いに巻き込まれたらひとたまりもない。
むしろ逃げてくれた方がこっちとしては安心できる。
そうしていると、坂本さんは険しい顔をして俺を…いや、俺を抱いている南雲を睨み付けていた。
「シンから離れろ、南雲。」
「坂本さぁんっ!!」
整体院【宮】の紙袋を持った坂本さんが、怒り心頭といった様子で立っていた。
熊樫の中でも最高位にいるヒグマの威圧に俺は震えるけど、二人は睨み合ったまま圧を掛け合っている。
その重さに俺が怯えているとそれに気が付いた坂本さんは、気まずそうに圧を引っ込めた。
「オオカミは希少種なんだからさ〜サカモトくんは奥さんがいるんだから僕が娶るのが一番いいと思うんだよね〜」
「シンは大切な家族だ、お前にやるつもりはない。」
「う〜っわ!独占欲ってこと?あ〜ヤダヤダ!醜いね〜」
「お前に言われたくない。」
「……でもさぁ、見てよ〜シンくんは子作りしてくれそうだよ〜?」
南雲の手が俺の喉元を撫でて行く…気持ちが良い、腰が揺れる…それが自分の中にある本能だってことに気付いて嫌になった。
結局俺は重種に劣る中種で、イヌと交わるにはちょうど良いキツネだってことを見せつけられてるようで悔しかったけど……それでも身体が疼いて仕方なかった。
膝が震えて立てずにいると南雲は俺を抱き上げて、首に噛み付いてきた。
捕食されるような感覚に「あぅう…♡」なんて変な声が口から出てくる…イヤなのに…俺の身体は、コイツの子が産みたいと思ってる。
坂本さんの「シン…!」と言う声に我に返った俺は南雲を押し返してみたけど、発情が止まらなくって…自分の手の弱々しさに嫌になった。
「ほら、シンくんも本能で分かってるよ〜?僕の子を孕みたいって…ね?シンくん♡僕の赤ちゃん産みたいよね?」
「あ、あの…!俺は、サル…だから…!!」
「っ、あははっ!尻尾も耳も出して腰揺らしてるくせにナニ言ってるのぉ?」
耳が…尻尾が…南雲に撫でられる度に、ゾクゾクと気持ち良くなって……
「あっ♡あぁっ♡ダメ…ッ♡……くにゃぁあん♡」
「「え」」
気が付くと俺はありのままのキツネの姿になっていた。
オオカミからの刺激の強さで抑えきれなくなって本性が出ると坂本さんからはエプロンを…南雲からはコートを巻き付けられて「シン、これを…!」「ちょっちょっ!シンくん!?流石にその姿はエッチ過ぎるよ!!」なんて言っていた。
「シンくん!なんでそんなにすぐにキツネになっちゃの!?」
「くにゃぁ〜…♡」
「キツネ(獣)犯す趣味なんかないよ!?キミ、快楽に弱過ぎ!!」
「お前が余計なことをしたからだ。」
「いくらなんでも外でこんな姿になるとは思わないじゃん!!」
「こゃぁ〜ん♡♡」
「ちょっとシンくん、シッ!」
コートとエプロンの隙間から、坂本さんにゲンコツされている南雲を見ながら、俺は南雲に声をかけ続けていた。
途中でマズルを掴まれて吠えないようにされたけど、俺はしばらく人間の姿に戻ることができなかった。