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「はい、どうぞ」


胴間声というのか、低いくぐもったような男の声が響いた。周囲に家もない、夜の集会所。窓から漏れる光は煌々と杉の木立を照らしている。


「つけてください、つけてください」


板間の上には畳が敷かれ、今日はさらにその上に敷布団が並べられていた。


真ん中で声を出しているのは、僕の知らない男だった。少なくとも陣池の人間ではない。


「あれ、どこの誰か少しでもわかったりする?」


僕は窓から中を覗きながら足元のハルに声を掛ける。


「さあ……駅前の方に流《にゃが》れてきた男のようですよ。この近辺出身の人間ではにゃい、ということまでしか私にもわかりません」


駅前は沢巳の中心地である。ここからはまあまあ離れている。


「向こうの方でも賭場を開いておるようですにゃ」

「なるほど、本職ってわけね」


あまり乱暴そうには見えないので怖くはないのだが、賭場を仕切っている様子は流石に堂に入っていた。


「こりゃ確かに神様も止めて欲しいだろうなあ……」


胴元の声は良く通るので聞き取りやすいのだが、他の声が無いわけではない。


お酒やちょっとした食べ物も用意されていて、ワイワイガヤガヤ実に賑やかでみな楽しそうである。


集まっているのはだいたい陣池の大人で見知った顔ばかりであった。


お社からは離れているが、ここも神社の敷地内だ。夜にうるさくされたら神様も嫌なのだろう。多分。


「関さん、大張りはおすすめしませんよ」

「しかし負けがこんでっから……」

「いや、だから言われてんだよ」


「違えねえ。流石胴元、本職だ。盆が良く見えてら」


父さんだ。この後、みんなドッと笑った。胴元の男は口の端を歪め薄―く微笑んでいる。


どういう話をしているのかさっぱりわからない。


「あれ、なんなの? どういう博打?」


布団の上には見たことのない記号の書かれた紙の札が並んでいる。サイコロも使っていないし、トランプでも花札でもないようだ。


「よろしいですか……ああ、そちらもつけてください」


お客の大人たちも促され、木製の札を場に出していく。


「夏雄どのにもわかりみゃせんか。私にもちょっと……」


そりゃそうだ。ハルに聞いた僕の間違いだ。


「まぁいいや、じゃあ行こうか」


僕たちはそっと窓から離れる。


「はい」


ハルはどこから取り出したのか、化け手ぬぐいを僕に一本渡し、残った一つを自分で被った。


「被ればいいの?」

「ええ……それで夏雄どの、主な会話などお願い出来みゃすか?」

「え? いや、僕がやるの?」


立っていればいい、くらいに思っていたので面喰う。


「はい……出来れば……人間のこういう勝手がよくわかりみゃせんので……」


ハルは申し訳なさそうにしている。言われてみればそうなのだろうな、とは思うのだが、やはり計画的にこの騒動に引き込まれたような気がしてきた。


「いいけど、僕も別に全然詳しくはないからね? 化ける方は大丈夫なんだろうね?」


「はいはい、そちらはおみゃかせあれ」


調子が良い。



ねーこじゃねこじゃとおっしゃいますが

ただのねこなら化けれぬわいな……



変な呪文だ。もっとも僕以外の人間ならにゃごにゃご聞こえるだけなのだろうが。


手ぬぐいを被ってしばらく、奇妙な踊るような動作をしていたハルだが最後にくるっと空中で一回転するといきなり人間の姿になった。


もちろん僕の注文通りの人物像である。


「え? ちょっと? 僕もそれ出来なきゃダメ?」

「ああいえ、大丈夫ですにゃ。私がやりみゃすので」


良かった。僕は運動神経がそんなによくないので、とてもあんなことは出来そうにない。


また同じ動作を繰り返し、ハルが術を掛けると僕も変身していた。人間のまま一回転していたのでかなり迫力がある。


「僕が変身する時でもハルがやるのか……」

「術をかけるのが私にゃので」


どういう仕組みなのだろう?


それはそれとして、ここからが一世一代の大仕事だ。

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