翌日、待ち合わせ場所にもうローはいた。昨日と同じシンプルな格好だけど、昨日よりもなんとなくオシャレな感じがする。
多分ローって俺と変わらない年齢だろ? ってことは12やそこらってことだろ? それなのにそんなシンプルなのが似合うってどういうことだよ。将来が恐ろしいな……。いや将来は原作のあれだから…………は~~約束されたイケメン……羨ましい。普段着と変わらない格好で来た俺が恥ずかしいわ。
「よ、よう、ロー。待たせたか?」
「別に。さっき来たところだ」
……デートかよ!!! なんて思いながら俺はローの方に駆け寄った。
「で? 行きたいところってどこだ?」
「あっちにある喫茶店だ」
と言って、俺は指を指す。実はこの前、街に出た時に見つけたのだ。外観もレトロな雰囲気だし、コーヒーも美味しいと評判らしい。まだ行ったことはないけど。
中に入ると、店内は結構賑わっていた。客層は老若男女様々で、いかにも常連という雰囲気を出している人もいる。ローがカッコよくなかったら子供2人はかなり場違いだったな……あっぶねえ(?)
空いているテーブルを見つけて座ると、早速メニュー表を見る。ローはもう決めているようで、俺が決めるのを待ってくれていた。悩んだ末、俺はアイスカフェラテとホットケーキを頼んだ。ちなみにローはブレンドコーヒーだけだった。大人かよカッケェな。
注文したものが来るまでの間、俺達は会話をした。といっても大体俺が話してばかりだったが。主に稽古のこととか、俺の住んでいる森の話だとか、そういう他愛もない話ばっかりだったが、意外にもローはそれを興味深そうに聞いてくれた。
やがて俺達の目の前に飲み物やスイーツが置かれる。俺はカフェオレを一口飲んでから、一息ついた。そして、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「何で俺に優しくしてくれたんだ? 見ず知らずの他人を無償で助ける義理はないと思うんだが……」
ローは黙っている。しばらく沈黙が続いた後、彼は答えた。
「別に。気が向いただけだ」
嘘つけ。絶対他に何か理由があるはずだろう。
そう思ったものの、俺に深堀する勇気なんかないんだけどな。
その後、俺達はまた適当に雑談をしながらそれぞれのものを食べ始めた。ふわふわのホットケーキにメープルシロップをかける。甘いものが好きな俺は思わず頬を緩める。すると、ローがじっとこちらを見ていることに気付いた。慌てて表情を引き締めるが、遅かったようだ。
ローがくすりと笑った。え……わ、笑った……? いや、まあ笑うのは当然と言えば当然なのかもしれない。でも、原作の彼を知っている身としては、彼が誰かの前で自然に笑っていることが少し意外に思えた。
「…ローも食べる?」
そう聞いてみると、ローがぱかりと口を開けた。…………お? え? 食わせろってこと? それって所謂あ~んってやつを俺にご所望で? そういうのはもっとかわいい女の子にやってもらいな!!??
なんて言ってやりたいが俺にそんな度胸はないので大人しくフォークで切り分けた1切れを彼の口に運ぶ。ローは素直にそれを食べた。
「ど、どう?」
「ん、確かに美味いな」
そう言うと、ローは再び俺の方を見て、今度はニヤリとした顔になった。あ、あぶね……これあともうプラス10歳ローが年取ってたら色気で殺されてたな……(?)
ローにドキドキしつつ、も俺達は一緒に街を巡り歩いた。服屋でローの帽子を見たり、逆に俺の帽子を見てみたり。本屋に行って医学書を探したりした。
「これ探してたやつだ」
「おぉ、良かったじゃん!」
ローが嬉しそうな顔をしたので俺も自然と笑顔になる。こういう時はやっぱり年相応の顔だなぁと思う。
…にしても会って次の日にここまで気を許してくれるとは思わなかったな。ローは基本無口だから、何を考えているのかわからない時もあるけど……。でもそこから表情を読み取るのは案外楽しい。
それにしても今日は楽しかった。友達と遊びに行くってこんな感じだったな、というのを久しぶりに思い出したような気がする。ローも俺のことを友達と思ってくれているだろうか。だとしたら嬉しいな。
友達……。友達か……。
「どうした? ジェイデン」
「……あのさ、ロー、いっこ、お願いがあるんだけど……いい?」
そう言うと、ローは立ち止まり、軽く首を傾げた。俺は俺の言葉が詰まってしまう前に口を開き、言葉を紡いだ。
「俺のこと、ジェディって、呼んでくれないか?」
俺のこの言葉は予想してなかったのか、ローが黙る。
「俺、今まで友達がいなくて……だから……だから、えっと……ローが嫌じゃなければ……」
「ジェディ」
俺より低い声で、俺の名前が発せられる。
「~~~ッ! ロー!」
思わずローの手を握り、ぶんぶんと上下に振ってしまう。名前を呼ばれるだけで嬉しいなんて初めてだ! こんなことってあるんだな!!
帰り道、俺はローにまた礼を言った。ローは呆れたようにふっと息を吐いて自分の船の方へと戻っていった。
家に帰ってからも俺は、ローが俺をジェディと呼んでくれた喜びでしばらくにやにやしていたのだった。