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長尾景虎、上杉憲政、方円が箕輪城で襲撃を受け、その後の反省会をしていた頃――
里見義堯と佐竹義重の両名は、すでに先回りして移動していた。
里見軍と佐竹軍は、移動した先で身を隠していた。
そして義堯と義重の両名は、その場で密かに話し合いを始めていた――。
ーーーーーーーー
関東、???
「さて、里見殿」
佐竹義重が里見義堯に声をかけた。
「憲政様は、箕輪城にいらっしゃった模様」
「そうか……」
義堯はすこし頷く。
「里見殿……恐れながら、此度はどのように動いてまいりましょうか」
義重が尋ねると、義堯は豪快に笑った。
「うむ。我らは予定通り、海から小田原城を包囲し、攻めようかと思う」
「水軍は我らの誉れなのでな。ガハハハハ!!」
「とにかく海から、奇襲、奇襲、奇襲じゃ」
「さように…、ございまするか……」
義重は頷きながら、胸の内で考える。
(我らは、海の戦は苦手……)
(だが、里見だけでは、単独で海からの包囲を 担当させることとなる)
(これでは、ならん……!)
(交代包囲こそが、此度の戦の鍵)
(里見単独では、意味がなくなってしまう)
義重はしばし黙り込み――
やがて、意を決した。
(……やむを得ぬ!ここは、我らも…!!!)
「あと、箕輪城に、監視を北条は入れるとの読みだったからのぉ」
義重はそう言って、地図へ目を落とした。
「我々は別働隊としてこうして独自で動き、
動きを決して悟られないようにする」
「それが、あの女の読みであり策」
「正直癪だが、従う他あるまい」
「これからの方針は里見殿におまかせするが、 佐竹も里見勢が行う予定の海での包囲に全面的に協力させて欲しい」
「我らは海戦に慣れておらぬゆえ、是非とも、教えていただきたいという思惑もある」
「小田原城の北は武田。 東は上杉、長尾。海は我々で行きましょう」
義堯はしばし考え込んだ。
「……ふむ」
そして、里見義堯は、静かに口を開いた。
「以前の事件を、再び繰り返すわけにはいかんからのお……。
十万もの兵で包囲したにもかかわらず、扇谷上杉家の当主が討死し、そのまま家が断絶するという……大敗北となった、あの戦じゃ」
話しながら、義堯は、遠くを見るように目を細める。
「そして、山内上杉家の当主、憲政様も関東から追い出された……。だが……此度、ようやく戦の機会がやってきた」
義重も頷いた。
「いかにも。先の川越城の敗戦は、北条を勢いづかせる結果となりました。
此度こそ、我らの心を一つにし、策を重ね、必ず勝たねばなりませぬ」
そして、少し苦々しげに続ける。
「あの女……正直、不気味で大変気に入りませぬが……」
「この功績だけは、認めねばなりませぬ」
「此度の機会、決して無駄にはせぬために!!」
「次は……おそらく、ないでしょう」
「上杉憲政様をお助けするという、とても大きな大義名分のある戦は!!!」
義堯はしばし黙った後、深く頷いた。
「うむ。こうして機会が来たこと自体、奇跡であろう。ここまで一つにまとまったこともな」
「コホン、それと先程の話に戻すがたしかに武田が甲斐から南下すれば、上手く行こう」
「景虎殿には、書簡を送るか」
「ええ、我々で海からの補給をさせないようにすれば、 北条もやがてきつくなりましょう」
「なるほど」
義堯も頷く。
「そうするなら、たしかに里見だけでは無理であるな」
「では早速、海での戦をお教えしよう」
「時間が惜しい……」
「よろしくお願いいたす」
義重は深く頭を下げた。
――――――――――――――――――
そして、海戦の訓練が始まった。
「……^^;」
船が大きく揺れる。
佐竹の兵たちは、青ざめた顔で手すりにしがみついていた。
「…😱」
「うっ……」
「こんなに、揺れるのですかな……!」
「うっ……、やばい……」
「おいやめろ……?!」
里見義堯は、そんな佐竹兵たちを眺めながら淡々と告げる。
「……この揺れに慣れてもらわねば、 海の戦は決して、できませんぞ」
「揺れる船で正確に相手を倒す技術もいる」
「船酔いしておらぬものは、早速あの的を狙え」
「何度も攻撃するのだ」
「はい!」
里見兵の一人が槍を構える。
「いいか、こうするんだ」
「えいっ!」
槍は見事に的のど真ん中へ突き刺さった。
「ほう……」
義重が感心する。
「槍が見事にど真ん中」
「貫通しておる」
「なるほど、揺れる勢いで刺したのですな」
「その通りじゃ」
義堯は満足そうに頷いた。
「戦場を味方にすれば、北条など、恐るるに足らず」
その一方で、佐竹兵の一人は青ざめた顔をしていた。
「殿……」
「的が、三重に見えるのです」
「何故ですかね……」
義重が肩を揺さぶる。
「しっかりせぬか!!!」
「殿、逆効果です!」
別の兵が慌てて止めた。
「どうか、お辞めください……💦」
義堯は兵の様子を見て、ため息をついた。
「……限界だな」
「おい、こいつを船から下ろし、休憩場へ運んでやれ」
「無事なものは、そのまま攻撃を続けよ」
「はい!」
義重はふらつきながらも槍を握り直した。
「おう……」
「船酔いに負けてたまるか」
「船酔いに負けていては、北条に勝てぬわ!」
「おりゃー!」
槍を構え、的へ刺そうとする…。
しかし――
「……」
的に刺すことは出来なかった。
義堯が目を細める。
「惜しいな……」
「少し、的にかすった」
「だが、初手でこれは筋が良いぞ」
「鬼と呼ばれているだけはあるわ」
義堯も槍を手に取った。
「わしも見せねばな……」
船が大きく揺れた、その瞬間。
義堯はその揺れに合わせて槍を投げる。
遠くの的のど真ん中に、槍が突き刺さった。
「さすがです、殿!」
里見兵から歓声が上がる。
義重は目を見開いた。
「信じられん……」
「あの揺れで当てられるとは……」
「絶対、物にしてやる!」
里見兵の一人が笑う。
「この揺れで当てられなければ、やられるぞ」
「できないなら、徹底的にできるまで体に覚えさせるしかない」
「頑張れ、佐竹家の皆!」
「終わったら酒でも飲もうぜ!」
佐竹兵の一人が青ざめる。
「船酔いしてるやつに酒は悪手では……」
「船酔いを、酒で治すんだよ」
「へへへっ」
「殿……、大丈夫ですかな……?」
「うう……船酔いが……!」
義重は苦しそうにしながらも、槍を握り直した。
「でも、負けてたまるか……!!」
義堯が力強く頷く。
「その意気だ、義重殿」
「必ず倒そう、北条をな」
――――――――――――――――――
訓練後。
里見義堯が一通の書簡を手に、義重へ差し出した。
「佐竹殿……」
「この書簡を確認してみてくれ、 箕輪で
大事件があったようだ」
「…………!!」
義重が書簡を読む。
「憲政様が、風魔に襲撃されただと……」
「逆賊北条め、なんと卑怯な!」
義堯は静かに頷いた。
「怪我一つなくご無事だったのが、不幸中の幸いじゃ」
「それと、先程話していたことは、
こちらからの返書として送っておいた」
「船酔いでお辛かろう、 今は休まれよ」
「そ……、そうさせていただく」
「もう限界でして……」
そこへ、里見兵が豪快に笑いながらやって来た。
「おう、佐竹の殿様!」
「酷い船酔いか、笑」
「酒飲んで直そうぜ!」
「俺も昔はそれで直したんだ!」
「ははははは!」
「やめて……泣」
佐竹兵が慌てて止める。
「逆効果です!」
「お辞めくだされ!」
「へへへっ、大丈夫だって」
「ほら、一緒に飲もうぜ!」
「⸜(* ॑ ॑* )⸝ウェェェェェイ」
義堯が眉をひそめた。
「これ」
「嫌がっているやつに無理やり飲ませるのは良くない」
「その酒は、全てこっちによこせ」
「これは、飲まずにやってられるか🔥」
「それでこそ殿!」
「飲みまくりますぞー!」
「…………」
義重は思わず青ざめた。
「……恐るべし、里見家……」
ワイワイ、ガヤガヤ。
こうして、里見家の酒宴は続いていった。
――――――――――――――――――
翌日。
「さあ、昨日の続きだ」
義堯の声が響く。
「……うう」
義重は船に乗り込みながら、辛そうな顔をしていた。
「揺れが辛い……」
「ところで里見殿」
「かなり飲まれていたのに、酔いは……」
義堯は何でもないことのように答える。
「心配するな」
「わしらは、迎え酒して直してきたから」
「へへへっ」
里見兵も笑う。
「やっぱり酒は薬ですな!」
「ははははは!」
「えっ……」
義重は唖然とした。
「酒を……大丈夫なのですか?!」
「大丈夫だって」
里見兵は弓を手に取る。
「今度は弓で的を狙う、よーく見てろよ!!」
「ほらな!真ん中に当たったろ!」
「ははははは!」
「佐竹の殿様も、やってみるか!」
「…………」
義重は目を疑った。
(マジか……)
(酒飲んでるのに当てやがった……)
(そして解決策、ぶれねえな……)
(まさか、義堯殿譲りだったとは……)
「おう、やってやる……」
「弓を貸してくだされ」
弓を受け取る。
船が大きく揺れる。
義重はじっと的を見つめた。
「…………」
そして――
「ここだっ!」
放つ。
ヒュンッ!
矢は的の中心から少し外れた。
しかし――
「おお!」
里見兵が声を上げる。
「もうギリギリとはいえ、的に当てたんか!」
「すげえな、佐竹の殿様!」
「今度は一緒に飲もうぜ~」
「強いヤツと飲むの好きなんだよ」
「……あ、ありがとうございます……」
義重は引きつった笑みを浮かべた。
(やめろ……)
(やめてくれ……泣)
義堯は満足そうに頷いた。
「義重殿」
「揺れを読むことを覚えたようだな」
「その意気だ」
「それと…今日は全員、的の真ん中に攻撃を当てるまで、休憩無しで続けるからな??」
そして、さらに笑顔を向けた。
「時間が無いから、皆、許せよ★」
「…………😨」
「…………………😱!!!!」
佐竹一同の顔が、一斉に青ざめた。
「ひ……………!」
――――――――――――――――――
こうして、地獄の訓練は夜通し行われた。
最初に的の真ん中に当てたのは、もちろん義重殿。
それに続いた佐竹の兵たちの奮闘は、
今でも里見家での伝説となっておる。
「……む?」
義堯が首を傾げた。
「我らのことか……?」
「それは佐竹家の方で伝説になっておったよ」
「ハッハッハ!」
ーーーーー
そうして、次の日となったーー
「うむ、おはよう、佐竹殿。実はな……
先に我らで少し、動こうと思う」
義重は少し驚いた。
「……動くとは?包囲の指示は、まだ来ておりませぬが……」
義堯は頷く。
「まずは我らが先に出陣しようと思う。
北条にも水軍があるゆえ、叩いておきたい」
「その方が、海での包囲もしやすくなる。
やはり、水軍がいるのといないのとでは、
大違いなのでな」
「海に行くには船に物資を詰め込んだり等の支度があるゆえ、まだ出陣はせぬが…」
義重は納得したように頷いた。
「かしこまりました。その旨も、景虎殿に書簡で送っておきまする」
「里見勢が出陣なさっておられる間、佐竹は交代まで、こちらでお待ちしております。
ですが……どうか、お気をつけてくだされ」
「某、北条水軍には、怪物がいると耳にしたことが……」
「怪物とな……?」
義堯は一瞬黙ると――
「ははははは!!」
「……面白い、心が躍るわ!!!」
「その怪物と戦えることを楽しみに、支度を進めるといたそう、ガハハハハ!!」
義重は思わず笑った。
「やはり、里見殿は豪傑ですな!」
「ははははは!!!」
ーーーー
話に出ていた海の怪物と出くわし、二度にわたり戦うことになるとは――
この時は、誰も思っていなかったのである。
大きな海戦が、近づいていたーー
コメント
1件
わあ、今回も面白かったです!里見義堯と佐竹義重のやりとり、船酔いで青ざめる佐竹兵と豪快すぎる里見軍の対比がすごく良かったです。「酒で直せ!」のノリに義重が引きつってるところ、思わず笑っちゃいました🤭 でも最後は「ひええええ」って悲鳴に…地獄の訓練、伝説になるのも納得です。あの海の怪物って何なんでしょう?次がすごく気になります!琴寧さんの戦国モノ、読めば読むほどキャラに愛着湧いてきますね😊
富来 えび
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