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じゃむじゃむあっぽー🍏
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🫧🌷🫧
「おい若井、何ぼーっとしてるんだ!指示受けは迅速にっていつも言ってるだろ!」
「….っ、申し訳ありません」
病棟のナースステーションに、指導看護師の鋭い声が響く。俺は頭を深く下げながら、手元のバインダーを握りしめた。
看護学部の3年、地獄の長期臨床実習期間。
毎日朝早くから病棟に詰め、受け持ち患者さんのケア、バイタルサインの測定、そして膨大な量の看護計画の立案と記録に追われる日々。
もともと勉強が得意じゃなかった俺にとって、この実習は精神的にも肉体的にも限界に近い苦行だった。
おまけに、この『目』だ。
どれだけ必死にやっていても、疲れてくるとどうしても目つきが鋭くなってしまう。
「若井くん、君さ、患者さんの前でもその顔してるの?ナースコール対応の時、患者さんが『若い男の看護師さんが怒ってるみたいで怖い』って言ってたよ。ただでさえ不安な患者さんを威圧してどうするの」
「….すみません。そんなつもりは…..」
「つもりがなくても、相手がそう受け取ったらそれまで!明日までに今回の事例の振り返りと、コミュニケーションの修正案レポートにして出しなさい」
「はい…..」
一晩中記録を書いて、睡眠時間は2時間足らず。頭がガンガンと脈打つように痛む。
ナースステーションを出て、誰もいない非常階段の踊り場に駆け込んだ。壁に背中を預けた瞬間、どっと冷や汗が吹き出す。
(クソ…..つ、頭が回らない…..。息が、うまく…..)
胃の奥からせり上がる吐き気と、激しい目眩。視界がぐにゃりと歪む。
その時、ポケットの中でスマートフォンが小さく震えた。画面を見ると、大森さんからのグループ通話の着信だった。
あの公園の日以来、俺と大森さん、高野さんは時々連絡を取り合うようになっていた。
震える指で通話ボタンを押す。
「….もし、もし….」
「あ、若井くん?今大丈夫?って、え、声ヤバくない?」
画面の向こうから大森さんの焦った声が聞こえる。続いて、高野さんの落ち着いた声が重なった。
「若井くん、今どこ?実習中?」
「….病院の、非常階段。ちょっと、目眩がして….っ」
「無理すんな!今日の実習、何時まで?終わったら速攻で迎えに行くから、そこでじっとしてる!」
夕方、なんとかその日の実習を終えて病院のロビーに出ると、私服姿の大森さんと高野さんがソファーから勢いよく立ち上がった。
「若井くん!」
高野が駆け寄ってきて、俺の肩を支える。
「顔色最悪じゃん…..。ほら、車乗って。元貴の家、ここから近いから」
大森さんの部屋に連れ込まれ、ベッドに横にさせられた。
温かいお粥とスポーツドリンクが枕元に置かれる。俺は寝不足と疲労、そして情けなさで、大森さんの部屋の天井を見つめたまま動けなかった。
「…すいません。せっかく来てもらったのに、こんな…..」
「謝るなよ」
大森さんが床にドサッと座り込み、俺の顔を覗き込んだ。
その目は、相変わらずすべてを見透かすように鋭い、そして温かい。
「指導者にクソクソに怒られたんだろ。顔見ればわかる。若井くん、いっつも真面目すぎるんだよ」
「….俺の、この目がダメなんだってさ」
俺は腕で目を覆った。視界を遮ると、涙がじわりと溢れそうになる。
「患者さんに怖いって言われた。威圧してるって……涼架は、カッコいいって言ってくれたのに。俺、何やってんだろ。勉強もできねえし、要領も悪いし…..このままじゃ、看護師になる前に、俺が潰れる…..」
ずっと一人で抱え込んでいた弱音が、堰を切ったように溢れ出した。
高野が俺のベッドの端に腰掛け、優しく、だけどしっかりと俺の背中をさすってくれた。
「若井くん。看護師の勉強ってさ、俺ら一般の大学生から見ても本当に異常な量だよ。それをさ、元々勉強嫌いだった君が、涼架のためにってここまでやってきたんだよ。それだけで、借じられないくらい凄いことなんだよ」
「そうだよ」
大森さんが缶コーヒーをローテーブルに置きながら、真っ直ぐに俺を見た。
「目つきが怖い?だったら、その目を超えるくらいの優しさを言葉と行動で示せばいいじゃん。涼架がさ、なんで他校の僕らにまで若井くんの話をしてたか、分かる?」
「…..分かんないです」
「若井くんの目が、ただツリ目だからカッコいいって言ったんじゃないんだよ。「あの人はね、見た目は怖そうだけど、誰よりも人の痛みに敏感で、真っ直ぐな目をしてるんだ」って言ってた。涼架は、君の目の奥にある『心』を見てたんだよ」
大森さんの言葉が、冷え切った俺の胸の奥に、じわじわと熱を持って染み込んでいく。
「患者さんだって、最初は見た目でびっくりするかもしれない。でもさ、若井くんが誰よりも必死に、その人のことを考えて動いてたら、絶対に伝わるよ。僕らには伝わってる。涼架にも伝わって、あいつは君を選んだんだ」
高野が、俺の枕元に置いてあったペンケースから、あの『黒猫のカバー』の消しゴムを取り出して、俺の手のひらに握らせた。
「これ、まだこんなに減ってる。若井くんが頑張ってる証拠じゃん」
手の中の消しゴムは、高校の時より角が丸くなっていた。
あの夜、涼架を救えなかった無力感。でも今、俺の周りには、涼架が遺してくれた大切な仲間がいて、俺を支えてくれている。
「….ありがとうございます。俺、まだ、諦めたくないです」
腕を退け、大森さんと高野を真っ直ぐに見据える。涙で濡れた俺の吊り目は、さっきよりずっと光を取り戻していた。
「よし、いい目になった!」
大森さんがニカッと笑って、俺の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「 今日はもう寝ろ!明日のレポートの修正案なら、看護の専門用語は分かんないけど、文章の組み立てくらいは僕らが手伝ってあげるから」
「元貴、文章固すぎて逆に先生に怪しまれるよ」
高野がクスクス笑う。
二人の他愛もない笑い声を聞きながら、俺は消しゴムをぎゅっと握りしめた。
一人じゃない。涼架の想いと、二人の温かい手が、俺の背中を力強く押し続けてくれている。
「涼架。俺、やっぱり、この目で最高の看護師になってみせるよ」
心の中でそう呟きながら、俺は久しぶりに、深く、穏やかな眠りへと落ちていった。
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