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月の国――グレイア王国は、夜が長い。
石造りの塔が並ぶ王都は、青白い魔導灯に照らされ、静かに息をしていた。空には細い三日月。冷たい光が、王城の尖塔をなぞる。
その最上階、玉座の間。
氷のように透き通った瞳で、若き女王――巡音ルカは夜空を見上げていた。
「……来るわ」
誰に言うでもない呟き。
隣に控える宰相、カイトがわずかに目を細める。
「感じましたか」
「ええ。空気が、ざわついている」
その瞬間。
――遠雷。
王都の空を、白い閃光が走った。
「……っ!」
グレイア王立魔法学院、訓練場。
十五歳の少年、アキトは片手を掲げていた。
本来なら、雷は“呼ぶ”ものではない。
天候と魔力と詠唱が揃って初めて、応じる。
だが今――
雲一つない夜空に、雷が集まっている。
「ねえ、アキト! 抑えて!」
水の魔法陣を展開しながら叫ぶのは、ネネ。
その横で、ミズキが炎を抑制の形に変換する。
「ちょ、ちょっと派手すぎない!? 空光ってるんだけど!」
「うるせぇ、今集中して――」
瞬間。
轟音。
雷が落ちた。
だが地面には落ちない。
アキトの手前で、凍りついた。
氷の壁。
それは一瞬で構築され、雷を閉じ込め、砕け、霧散する。
訓練場に静寂が戻る。
ゆっくりと、ヒールの音が響いた。
「見事ね」
振り向いた先にいたのは、月の女王。
ルカ。
ネネとミズキは慌てて跪く。
だがアキトは、ただ立ち尽くしていた。
「今の魔力、意図的ではないわね?」
「……勝手に来ただけだ」
ぶっきらぼうな返答。
ルカはわずかに目を細める。
「雷は、選ばれた者にしか応えない」
その言葉に、空気が凍る。
「あなたは、何を引き寄せたのかしら」
アキトの背後で、ミズキが小さく息を呑む。
ネネは無意識に、ルイの言葉を思い出していた。
――雷は、王の徴。
同じ頃。
太陽の国、ルミナス王国。
王都中央神殿。
光の結界が、微かに揺らいだ。
歌が止まる。
祭壇に立っていた少女、ミクは、静かに目を開けた。
「……雷?」
隣で剣に手をかけたのは、リン。
「グレイアの方角だね」
風を読むように目を細めるレン。
ミクは胸元に手を当てる。
「結界が、共鳴してる……」
それは、ただの雷ではない。
王権級の魔力。
そして王城のバルコニーで、それを見上げる少年が一人。
ツカサは、夜空を睨んでいた。
「……面白い」
その目は、決意の色を帯びている。
「行くぞ。あの雷の主に会いに」