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子どものころの記憶。
夜。暗い部屋。
ドアの隙間から、
隣の部屋の喋り声が聞こえる。
秋「直弥は切れ長できれいな目をしてるね。」
「髪も真っ直ぐだし。」
母親「……私とは違うってこと?」
秋「そういう意味じゃないよ。」
母親「……なんか、あいつの顔見てるとムカつくんだよね。」
秋「そんなこと、言うんじゃない。」
直弥「………。」
布団を頭まで被る。
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大学3年・4月。
「ヘルプミーヘルプミーヘルプミー」翌日。
大学。
「直弥!」と呼びかける冬花。
反射で肩が跳ねる直弥。
「…ねえ。」「きのうは会えなくてごめん。」
「…大丈夫。」
振り返りながら、笑ってみせる。
冬花「きのうは何してたの?」
「…え?」
直弥はいつか、仁義の存在をいぶかられたことを思い出してすぐには素直に言えない。
「…なんでも。」
「なんでもって何?」睨む冬花。
「⋯⋯。」「友達と、遊んでた…」
瞬間。冬花は直弥の手を掴む。
「冬花?」
答えない。
腕を掴んでトイレに連れて行く冬花。
頭を掴んで、無理矢理舌をねじ込む。
「直弥、しよ。」
「おとといも、したよ。」口許をおさえながら直弥が返す。
「直弥だって男の子なんだからいつでもしたいでしょ」直弥のベルトを外そうとする冬花。
「ここ、学校だよ」と力なく拒む直弥。
でもそれ以上が言えない。やめてとも言えない。まともな拒絶ができない。
苦しまぎれに、口ごもりながら言う。
「……生理、きてるんでしょ。」
「子供出来ないからちょうどいいじゃない!」
冬花の言葉で、空気が一瞬固まる。
冬花自身も。
「…ねえ。」「冬花を見てよ。」
「どうしてすぐ友達なの?」
「冬花のこと、本当は好きじゃないんでしょ。」
「誰かに嫌われるのが怖いから断らなかっただけ。本当はされたくないことだって怒れない。」
「冬花」
「プライドってないの?あんたのいつも張り付いた皮一枚の笑顔なんて、もう見飽きたわ。大っきらいよ。」
「⋯ごめん」
「何がごめんなの?冬花を愛せないこと?その『ごめん』で、冬花が許せると思ってるの?」
「冬花…」
「もういい。冬花だってあんたの顔しか好きじゃなかった!」
直弥の目が大きく見開かれる。
1秒か、2秒かわからない、小さな沈黙。
「…あんたのその『ごめん』、大っ嫌い。」
「聞きたくない。」
冬花が去っていく。
「…ごめん。」
ひとり、小さく呟く直弥。
東京事変『遭難』。
コメント
1件
ああ…これはもう、胸がぎゅってなったわ。子どもの頃の母親の言葉が今も直弥に影を落としてて、だから冬花に「大っきらい」って言われても「ごめん」しか返せないんだよね。拒絶する権利すら自分にないと思ってる感じが切なくて。「冬花だってあんたの顔しか好きじゃなかった」のとどめはえぐかった…ラストの東京事変『遭難』の流し方がまた雰囲気出てて、読後もずっと苦しい余韻が残るよ。直弥の心の遭難、まだ続いてるんだなって。