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勇斗side
『勇斗は私と仕事どっちが大切なの?』
大学から付き合っていた彼女には先月別れ話を切り出された。
時間もお金も体力もなくて彼女をおろそかにしていた俺が悪い。
だから泣いて肩を振るわせる彼女に何も言えなかった。
俺とのことを男友達に相談してたらそういう仲になったとかなんとかで、紹介された奴が親友だった時は驚いたけど…
2人が幸せならそれでいいと思った。
寝入り端に着信音で目が覚める。
削除しそびれていた元彼女からだった。
どうやら次の恋愛がうまくいってないらしい。
一回電話に出たことがきっかけで、ひっきりなしに連絡がくるようになってしまった。
過去のことだと振り払えたらいいのに、頼られるとつい助けてしまう。
「…お前が頼るのは今の彼氏だろ?」
元彼女「彼は言えない。私の味方になってくれるのは勇斗だけ…」
「…もうこういうのはやめてくれ。迷惑だ」
元彼女「やだ、勇斗に見捨てられたら私、死んじゃうから…」
「ちょ、ちょっと待てよ!落ち着け…」
元彼女「じゃあ…今すぐ、来て…」
「………わかった」
終電もない時間。
自転車で元彼女のマンションへ向かう。
途中ポケットの中でスマホが鳴っていたことは必死過ぎて気が付かなかった。
「…大丈夫か!」
元彼女「来た〜♡やっぱり勇斗は私の王子様だ」
玄関のドアを勢いよく開けてリビングに向かうと、ソファで酒を飲んでいた元彼女が笑った。
昔はこの可愛く甘えられる感じが好きだった。
「…は?」
元彼女「怒った?勇斗怖いよ…怒んないで…」
胸元が覗くシャツに短パン。
俺が褒めた髪型と化粧。
だけどあの頃と同じ気持ちにはならない。
足に縋りつく元カノを見て心の中がスッと冷めていく感覚がした。
元彼女「本当は別れたくなかった。勇斗がいい。引き止めて欲しかっただけなの…」
「ごめん、俺は…もう好きじゃない」
流れる汗を袖で拭きながら元彼女のスマホを取ると電話をかける。
しばらくして現れた元親友に言う。
「俺はもう電話に出ないから。だからお前がちゃんとこいつを支えてくれ」
疲れ切って家に帰ると柔太朗から着信があったことに気がつく。
深夜2時を回ったところだった。
『どうした?』
『柔太朗?』
メッセージを送ったけど既読はつかなかった。
(…寝たのか?)
少し胸騒ぎがしたけど、早めに病室へ行って直接話を聞こうと自分に言い聞かせてベッドに潜り込んだ。
翌朝になっても柔太朗へのメッセージは既読にならなかった。
嫌な予感がして急いで病棟へ向かうと301号室から柔太朗の名前が消えていた。
「あれ、山中君は…?」
看護師「先生…昨夜、転倒後に嘔吐して。
巡視に行った時にはだいぶ時間が経っていて…管理不足で申し訳ありません。
骨折はありませんでしたが、肺炎が重症で集中治療室に移りました」
一瞬で頭の中が真っ白になった。
「…それって…何時?」
看護師「0時過ぎです」
集中治療室。
人工呼吸器を付けた柔太朗のベッドサイドに立つ。
鎮静をかけられて眠る顔は穏やかだった。
顎と右手の小指に当てられたガーゼが目に入る。
俺と約束したあの指だった。
そっと指先に触れる。
当たり前だけど反応はなかった。
「柔太朗、苦しかったよな…
電話、出れなくてごめん…」
あの時電話に気がついていたら…
病院に駆けつけていたら…
くそっ…
何やってんだよ、俺。
心電図の音がやけに大きく感じた。
それから数日は仕事に追われて慌ただしく過ぎていった。
柔太朗の調子は横ばいだった。
そして俺の小児科のローテ期間が終わろうとしていた。